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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
城塞都市ガラール編
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たった一つの真実見抜くーー

 なんかよくわからない黒装束の男が去った後、ノブナガは隆起させた地面やら壁やらを直している。

 黒装束が切り抜いた部分も、目立たないよう穴を埋めておく。

 すべての作業が終わり、ひと段落がついたところで倒れ込んでいる女性に目を向ける。


 正直、面倒な事になる前に立ち去りたかったのだが、倒れ込んでいる女性を放置するのもどうかと思うノブナガ。

 このままだとまた何かに襲われたり、表通りまで運んでも邪な奴に絡まれる可能性だってある。

 どうにも後味が悪いと感じたノブナガは、ゆっくりと普通の路地裏に戻しながらどうしたものかと考えていたのだ。


 そんな事を考えていたノブナガだが、次の瞬間に「んっ……」という呻き声を漏らしながら起き上がってくる女性。


 タイミングの良さにギョッとしながらも、認識阻害の効果のあるフードを取りながら女性の歩み寄る。


「大丈夫ですか?」

「っ!?っ、は、はい。大丈夫です」


 ノブナガが声を掛けると一瞬だけ怯えたようにノブナガを見た女性だったが、すぐにホッとした声で返す。

 怯えたような目は、ノブナガを黒装束の男だと思ったのだろう。

 ノブナガがどこからどう見ても子供であったので、安心したようだ。


「えっ、と、君は?」

「あ、俺はノブナガです。悲鳴が聞こえてきたので、駆けつけてきたんです」

「ノブナガ……?あ、ごめんね。私はターサ。聞いた事ない名前だけど、どこの子なの?」


 黒に近い茶髪の女性ーーターサは聞き馴染みのない名前に首を傾げながら、家まで送る為に自宅を聞く。

 だが、そんな問いを受けたノブナガは見当違いな問いに苦笑気味に答える。


「どこの子……と言われましても。俺は旅をしている者なんで、この都市の子供じゃないんです」

「え、た、旅を?」


 ノブナガの言葉に面食らったような声を漏らすターサ。

 バグったステータスと数々の戦いから忘れていると思うが、ノブナガは現在12歳。

 成長期も迎えていないノブナガの容姿は紛う事なき子供。

 そんなどこからどう見ても子供なノブナガが旅をしていると言えば、目を点にするのも仕方のない事だろう。


「はい。それよりも、ここから離れませんか?裏路地は危険ですし」

「あ、そ、そうね。近くに私のお店があるから、そこに行きましょう」

「わかりました。立てますか?」

「えぇ。大丈夫よ」


 斬られた足首を心配して聞いたノブナガだが、“ヒーリング・リング”のおかげでHPも全快したようだ。

 特に問題なく立ち上がるターサ。


 予想外過ぎる裏路地を出、小通りを歩く2人。

 すぐにターサが経営する喫茶店に到着した。

 というか、ノブナガが“錬成”した壁の建物がそうだった。

 それを知った時のノブナガはちょっと申し訳なく思った。


(仕方ないとはいえっマジすんませんでしたー!!)


 ちょっと、どころではなかった……

 心の中のノブナガがスライディング土下座を決めていた。


 そんなノブナガを余所にターサは閉めた扉を開け、ノブナガを招き入れる。


「ここに掛けて」

「ありがとうございます」


 テーブル席の1つを指すとカウンターの方へ消えていったターサ。

 どうしてここまで来たのか、と今更ながら疑問に思ったノブナガだったが、帰るとも言えない状況なので勧められた席に座る。


 少しすると、カウンターの方からカップを持ってターサが現れる。

 慣れた手つきで、ノブナガの前にカップを置く。


「どうぞ」

「ありがとうございます。頂きます」


 置かれたカップを持って頂くノブナガ。

 紅茶だと思っていたノブナガはココアだった事にちょっと驚きながらも、美味な甘みに喉を潤した。

 カップを置いて、一息吐く。


「美味しいです」

「ふふふ、ありがとう」


 ノブナガがそう言うと、なぜかとても嬉しそうに頰を緩めるターサ。


「それで、さっきの男なんですけど……」

「あぁ。多分、最近起こってる連続殺人事件の犯人でしょうね」

「っ、そんな事が起こっているんですかっ?」

「……うん」


(おいおい、マジかよ……大都市にありがちな事ではあるけど、それを行なってるのが騎士ってのはどうなんだよ……)


 さすがに想定していなかった言葉に、ノブナガは頭を抱えたい気持ちでいっぱいになる。

 進んで闇に突っ込んだのは自分だが、それでもこの大都市の闇は一筋縄ではいかない深さを感じずにはいられない。


「俺が相対した相手は、間違いなく“暗殺者”でした。警備の騎士にこの情報を伝えれば、犯人の逮捕は難しくありません。すぐに騎士の方にーー」

「それは、無理よ」

「?どうしてですか?」

「……この都市の騎士は当てにならない。誰も」


 さっきまでの雰囲気と一転し、引き締まったような重く暗い空気に変わった。

 もう何回も業の深い話を聞いてきたノブナガには、ターサの変わった雰囲気がどういう意味なのかがわかった。

 ターサもまた、騎士たちといざこざがあったのだろう。


 ノブナガは内心でため息を漏らさずにはいられない。


「そうなると、連続殺人犯を野放しにする事になりますね。犯人の動機次第ですけど、またターサさんが狙われる可能性があります」

「そ、そうね」

「そうでなくとも、被害者が増える事は間違いないでしょう」

「う、うん。私もそう思う」


 右手を顎に添える考えるポーズを取りながら呟くノブナガを不思議そうな目で見ながら頷くターサ。

 しばらく呟く事もせず、考え込んだノブナガはパッとポーズを解いてターサに言った。


「それじゃあ、俺たちが捕まえますよ」

「…………はい?」


 ターサの目が豆鉄砲を食らったような点になった。



 **********************



「あー、やっぱダメかー」


 翌朝、大都市の建物の屋根でそんな言葉を呟くノブナガ。

 大都市の建物の屋根に立つなど、戦闘系の天紋にしか出来ないうえに朝という事もあって、通りを歩く人に気づかれてもおかしくない状態である。

 しかし、抜かりのないノブナガはきっちりと“隠形”と“結界構築”を組み合わせた結界によって認識されないようにしている。

 たとえ、ふと見てしまっても誰も気づく事はない。


「ねぇ、ノブちゃん」

「ん?どうした、ザン」

「どうしたの何も、なんでわたしたち屋根の上にいるの?」

「?殺人犯の足跡を“追跡”で辿れないかと思ってだけど」

「じゃあ、なんで殺人犯を追ってるの?」

「?捕まえる為だけど」

「理由は?」

「理由?いろいろだけど」

「その、いろいろをわたしたちは聞いてないの!?」

「あぁ、そういう事か。最初っからそう言えばいいのに」


 まるで枝分かれしているかのような質問責めに、ノブナガはずっと首を傾げていた。

 しかし、最後の言葉で何が言いたいのかを察する事ができたようだ。

 ちょうど誰もいないので、話す事にするノブナガ。


「まず、これ以上の被害者を出さない為ってのが1つ」

「まぁ、それは賛成だよ」


 納得のいく理由にコクリと頷くザン。


「2つ目が、この都市が相当ヤバイって事だ」

「騎士たちの事?まぁ、そうだね……」


 嫌悪半分、呆れ半分といったような顔で頷くザン。


 実は昨夜、ノブナガがターサのお店を後にし、宿の部屋に戻って来たところ、エリーナたちの部屋とノブナガたちの部屋の扉の前にーー5人の騎士が倒れ込んでいた。

 それを目にしたノブナガは、それはもうふか〜いため息を吐いた。


 ノブナガたちが宛行わられた部屋の扉にはノブナガが馬車同様に印を付けていない者がドアノブに触れると、マインドショックが起動して気絶られる仕掛けが施されている。

 物取り対策で設置したものである。

 決して、袋とロープを持って如何にも誘拐を企んでいる邪な奴の為に仕掛けたわけではない。


 とりあえず、鎧やら武器やら服やらをすべてひん剥いて裏路地に捨てて置いた。

 宿の受付の店員にも問い詰めたところ、夜にノブナガたちが泊まっている部屋を半ば脅されながら聞かれたようだ。

 この時点で、若干……いや、結構怒りを覚えているノブナガさん。

 仲間に手を出されようとしていたのだから、仕方がないといえば仕方のない事だ。


「つまり、八つ当たり?」

「まぁ、そうとも言うが、ちょっと違う」

「違うの?」

「あぁ。俺の目的は見せしめだ」

「見せしめ……?」


 突如として怖い単語が出てきた事に顔が真顔になるザン。

 そんなザンを余所に言葉を続けるノブナガ。


「調子に乗りまくっている騎士どもに、お前たちの力が絶対でない事を見せしめでやるんだよ。旅人如きに捕まる連続殺人犯を騎士が捕まえられなかった、とか言って騎士たちの評判を下げに下げまくってやる。この大都市に騎士が居辛い空気を作って、団体の怖さを思い知らせてやるんだよ」

「ドス黒いよ!考えてる事ドス黒いよ!!ノブちゃんっ結構怒ってる!?」


 ノブナガが考えているのは、要は団体運動という名のイジメである。

 都市の人から冷たい視線を向けられ、とても居辛い空気を作る。

 今まで威圧で接してきた奴からそれを取れば、残るのは肩身の狭い思いしかない。

 もし、そんな空気で威圧で押し通そうとする奴がいれば、それはそれで哀れな目を向けられる事間違いなし。

 全都市民による『騎士来んなよ』運動……要は大規模なイジメである。


 *注:良い子のみんなはマネしないでね!絶対っ。絶対ですよ!!


「ノブちゃん、エグい事考えたね……でも、そんな事されたら強行手段に出たりしないかな?」

「そんな時は……詰所でも爆破か消滅ぐらいしてやろう」

「…………本当に出来ちゃうから怖いんだよねぇ」


 ザンが口端をヒクヒクさせながら言う。

 詰所が盛大に爆発するか刳り抜かれたように消滅する絵が幻視できたのだろう。


「ま、俺が連続殺人犯を追っている理由はそんな所だ。わかった?」

「とりあえず、ノブちゃんがしたい事はわかったよ。で?足跡で追えないわけだし、これからどうするの?」


 足跡を視覚化して相手を追うスキル“追跡”。

 しかし、その本質は微々たる魔力によって押されたスタンプを視認できる事である。

 “隠形”によって気配も魔力も抑え込まれた状態では、いくらノブナガでも追うのは不可能である。


「そうだな。裏路地に入って、情報を持ってそうな奴を探そう。過去の事件も気になるからな」


 事件はノブナガたちがガラールに来る前から起こっていたせいで、その詳細をまったく知らない。

 あの黒装束を追うにも、事件について知らなくてわならない。


「オッケー。捜査開始だね!」


 なぜか嬉しそうに頷いたザンは“ストレージ”を輝かせ、なぜか偵察機用の視界共有のメガネを取り出してかけ始めた。

 ノブナガの頭上に“?”が浮かび上がる。

 そんなノブナガを見るなり、ニヤと口端を釣り上げるザン。

 そこで、なぜかポケットに両手を突っ込むような体勢になる。

 ザンの旅服にポケットなんて無いのだが……

 さらに身体を少し斜めにして立ち始めた。


 ここまで来ると、ようやくノブナガは既視感を覚えた。

 顔が「まさかっ……?」と訴えている。

 それを見て、さらにドヤぁとした顔になって言った。


「たった一つの真実見抜く、見た目はこ『パチンッ!』ぎゃゃゃぁぁぁぁあああああ!頭がぁぁぁぁああああああ!!」


 ザンが“た”と発した瞬間、ノブナガの[+身体強化]された指が唸った!

 無駄に速い動きで、ザンの額にノブナガのデコピンが炸裂!

 のたうち回るっザン!!


「なんで日本のサブカルチャーのマネしたいんだよ……」

「ぅうううぅぅぅぅ、だってカッコいいじゃん」

「やべぇよ、超やべぇよ。うちの聖剣が若干厨二の病気にかかってるよ……」


 額に手を当てながら立ち上がるザンがわかるでしょ?みたいな目でノブナガに言う。

 ごく自然な事のように言うザンにノブナガは天を煽りながら、ぼそりと呟いた。

 1番の年長者のくせに、なぜ厨二に……?


「ほら、メガネをかけてもいいが認識阻害用の外套を羽織って行くぞ。いくらエリーナさんたちがターサさんを見張っていても、ターサさん以外の被害者が出る可能性があるんだから」


 そう、今現在エリーナとアリンカとカレンはターサのお店で怪しい人物がいないか見張ってもらっている。

 護衛という意味もある。

 ただ、それは殺人犯の犯行理由に入っている事を前提としたもので、無差別だった場合は見張りなんて意味をなさない。

 結局のところ、これ以上の被害を出さない為にもあの黒装束を捕まえるのが、手っ取り早い解決策だ。


「行くぞー、ザン」

「あ、待ってよー」


 パパッと外套を纏ったノブナガは裏路地の方へと飛び降りていった。

 置いて行かれたザンは急いで“ストレージ”から外套を取り出して羽織り、勢いよく飛び降りていった。



 この後の情報収集の際、移動用の魔力駆動スケートボードや“豪脚”が付与された靴が出てきた時は、ノブナガが一体何に影響されたのかは言わずがもが、である。


 ちなみに、キッ○力増強シューズモドキは蹴った瞬間に蹴った物体が粉々になるという失敗作で終わった……

 そして、ノブナガの創作力に火が付いたのはまた別の話だ。

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