旅路は馬車でも遠い。そしてーー
ナルマ街を出て、2日目。
起床後、すぐに朝食を済ませたノブナガ一行は馬車に乗車してガラールへと向かう。
「うほぉー!馬車ッス!馬車ッスよ!すごいッス!!」
「ちょっと、カレン。暴れると馬車が揺れるからジッとしてないとダメだよ」
出発して早々、はしゃぎ始めるカレン。
ノブナガが作った馬車に、と言うよりは初めて乗った馬車にはしゃいでいるようだ。
そんなカレンを宥めるザン。
「ねぇ、ノブナガ。ガラールまではあと何日かかりそうなの?」
「ナルマ街からガラールまでは7日かかるって言ってたから、今日を含めてあと6日って所だな。バズとビズの移動速度も速いし、もしかしたら1日短縮されるかもだけど」
アンディエル帝国の帝都はもともと国の北西に位置していて、帝都からガラールまでは丸2日で到着するぐらいだ。
だが、北西に位置しているという事は当然南東方面は広い。
1番南にあるセインズ村はもちろんだが、2番目に南にあるナルマ街ですら帝都からものすごく遠いのだ。
進路もまず西側へと進んで行き、そこから北に上がるような道になる。
「ノブナガさんは何を読んでいるんですか?」
「これですか?スキル攻略本です」
「え?ノブナガそんなの持ってるの?誰も買わない本で有名なのに」
「まぁ、確かに普通の人には必要ないだろうけど、俺にとっては結構便利なんだよなぁ」
「あー、ノブナガみたいな複数天紋を持ってる人には便利そうね」
アリンカの言うように、普通の人にはまったく必要のないものである。
ぶっちゃけ、無視すればノブナガでも必要ないぐらい必要のないものだ。
それでも、気になってしまったのと暇だったので眺めていたのだ。
「それで、どうして読んでいたんですか?」
「ちょっと気になる事がありまして。低級紋って、レベル60以降記載されてないんですよね。中級紋は80までですし。上級紋は100。どうしてなんでしょう?」
低級紋といっても、それは戦闘系の天紋だけで、非戦闘系はレベルアップで習得するスキルもほとんどない。
“錬成師”も[+収束錬成]以降は載っていなかった。
「スキル習得の上限がそこまでだからよ」
「スキル習得の上限?」
「はい。そのレベルまでいくと、最終スキルを習得するんです。それでもレベルは上がっていくんですけど」
「なるほど。そういう事だったんですね」
アリンカとエリーナの説明に納得するように頷くノブナガ。
そこで興味を失ったのか、アリンカとエリーナは馬車の中へと戻ってガールズトークに入っていった。
(でも……)
そんなエリーナたちを肩越しに見送ったノブナガは心の中でそう呟くと、ページをめくってある天紋のページを開く。
その天紋とは、“聖女”。
エリーナの天紋が載ったページ。
そのレベル50からの所が、何もない。
文字通り、何もない。
まるで、そこから下を千切り取ったように何もないのだ。
不良品だったと言えばそれまでだが……ノブナガは不気味感が拭えなかった。
レベル50の部分から、というのが気がかりなのだ。
“聖女”がレベル50になれば、ある魔法を習得する事ができる。
もちろん、それは“再成魔法”である。
これまで、他の天紋でもレベルアップで魔法を習得するなんて事はなかった。
そんな特殊さに、ノブナガが何度も眉を顰めたのは言うまでもない。
その特殊な魔法の所から引き千切られているのだから、不気味に思わないわけがない。
(まぁ……気にしても仕方ないか)
ポンと本を閉じ、“ストレージ”に放り込むノブナガ。
別に考えるのが面倒になったわけではない。
特に意味がなければいいなぁ、と思っただけだ。
え、変わんない?
いえいえ、違いますよー、ノブナガに限ってーー
「そんな事より、これを開発したいしな」
と言って、昨日の作業の続きの物を“ストレージ”から取り出すノブナガさん。
…………キャラに裏切られた。
そんな事を余所にノブナガはカチャカチャグリグリと作っていった。
**********************
街道から少しずれた岩の埋まっている側に馬車を止め、さらに側で野宿する事になった。
バズとビズは川辺で休憩し、エリーナは夕食の準備をしている。
周囲はノブナガお手製の結界アーティファクトで魔物や獣の奇襲を防いでいる中、ノブナガとザンは結界の外で剣を交えていた。
「ほらほらっ、頑張れ!ノブちゃん!!」
「くっ。にゃろっ!」
2人が手にしているのはノブナガがそこら辺の土を“錬成”して作った土剣で、木剣よりも脆い代物。
しかし、2人とも通力操作の鍛錬も兼ねて、通力で土剣の強度を上げているので問題はない。
ノブナガとザンは土剣を振るい合い、攻防を振り広げる。
が、やはり技では勝てないようで、ノブナガが押される形へと変わっていく。
なにせ、ザンは聖剣なのだ。
“勇者”というすべての武具を使いこなす“全武具術”があっても、その武の技は上級紋よりも劣る。
いくら数多の天紋を持っているノブナガでも、純粋な剣では勝てないのだ。
押されながらも、ザンの斬撃を身を捻って躱したノブナガはその勢いで薙ぎ払う。
それをバックステップで避ける。
そこに追撃を仕掛けるノブナガ。
ノブナガの緩急のついた二箇所同時突撃が放たれる。
「うおっ、危な!」
さすがに驚くザン。
全力で横に跳んで回避する。
しかし、完全に回避できなかったようで、ザンの服の左腕部分に土が付いている。
「今のは危なかったよー」
「それはどうもっ」
地面を強く踏み込み、一瞬で間合いを詰めるノブナガ。
地面を這うように接近したノブナガはザンの足元目掛け、土剣が振るわれる。
軽く跳んで躱したザンは屈んでいる状態のノブナガの脳天に振り下ろす。
その土剣は、ノブナガが跳ね上がるように振り上げられた剣によって弾かれ、空中にいるザンは後方へと飛ばされる。
吹き飛ばされながらも、空中で体勢を整えたザンは無事に着地する。
その着地を狙い、すぐにその場にやって来たノブナガの薙ぎ払いがザンを襲う。
着地した直後であるザンにこれを躱す事は出来ない。
が、ザンに焦る様子はない。
ノブナガの薙ぎ払われた剣を自身の剣で受け止めた。
瞬間、ザンは土剣を逸らして、受けた剣を受け流した。
「!?」
受け流された事で、ノブナガの土剣が勢い余って使い手を弄ぶ。
それは一瞬の事で、すぐに体勢を立て直すノブナガ。
しかし、その一瞬は致命傷だった。
受け流したザンはガラ空きとなったノブナガの胴を袈裟斬る。
それに反応するも、一瞬遅れてしまったが為に受けてしまうノブナガ。
ダメージを受けた事にガクッと膝が折れてしまう。
そんなノブナガの首元に剣先を突き立てる。
「わたしの勝ち、だね」
「……はぁ、参った」
ノブナガは両手を上げて、降参のポーズを取る。
そこで稽古を終えたノブナガたちは土剣を地面に返し、その場に座り込む。
「あー、いけたと思ったんだけどなぁ」
「二箇所同時の突きは良かったと思うよ?」
「躱したくせに」
「通力を使えば、躱すなんて容易いからね」
手をヒラヒラさせ、余裕そうな声で言うザン。
それを言われるとどうも言えないノブナガは、パッパッと話題を切り替える。
「やっぱ、剣術はまだまだだな。俺」
「まぁ、天紋の問題なんだし仕方ないんじゃない?それに、ノブちゃん剣術なんて学んだ事ないでしょ?」
「それもそうだけどさ」
確かに、ノブナガは誰かに武術の手解きを受けた事はない。
魔法はベリンに教わったが、武術に関しては誰にも教わっていない。
「ま、ノブちゃんに今更剣術は無理だろうけどねぇ」
「無理なのか……」
「あ、悪い意味じゃないよ?ノブちゃんの剣は完成しちゃってるから、今更剣術を学ぶと型が崩れじゃうからって意味」
「完成?それはそれで意味がわからないんだけど?」
ザンの言い回しにピンと来ていない様子のノブナガ。
頭上に疑問符を浮かべている。
「武術としては何の剣術もないけど、ノブちゃんは実戦で磨かれた合理性があるんだよ。だから、実戦に向いた合理的な剣術がノブちゃんには出来上がってるって事」
「あぁ、なるほど。そういう事か」
ノブナガは武術を一切学んでこなかった。
そんな者がぶっつけ本番の剣を振るってくれば、実戦向きの合理的な動きになるのは仕方のない事だろう。
それが、ノブナガに至ってはこれまでの経験が経験だったが為にその剣術の完成度は修正不可能なレベルまで至っている。
それがザンの言っていた事である。
「でも、ノブちゃんはそれでいいんだけど」
「いいのか?ザンやアリンカにも勝てないのに」
「いいんだよ。ノブちゃんレベルだと、そこら辺の輩より上だから。それに、そんな合理的な剣術とわたしが持った時の武術の剣術が合わされば、最強じゃん」
「……確かにな」
合理的かつ技術が研ぎ澄まされた剣術。
確かに、最強だと思ったノブナガ。
でも、
「ザンとアリンカに負けるのは嫌だな」
「本気のノブちゃんに勝てるわけないんだから、ここでぐらい負けてもいいじゃん」
ごもっともである。
(まぁ、ノブちゃんの成長速度から考えて、ノブちゃんの剣術の完成度が武術の剣術を超えるのなんてすぐなんだろうけどね)
4桁の歳まで生きてきたザンが今まで積み上げてきた剣術をすぐ超えられそうな予感に若干遠い目になる。
数千年前の魔族戦で積み上げた剣術が軽く超えられる事にノブナガのチート力を噛み締めているようだ。
「「ヒヒィィイイイ〜〜〜〜〜ン」」
そこに川辺で水を飲んでいたバズとビズが戻ってきたようだ。
ノブナガと結んだ[+主従契約]のおかげで、バズとビズは自分で休憩して帰ってきてくれるのだ。
“召喚師”、万々歳である。
「あ、馬帰ってきたね」
「だな。お帰り、バズ、ビズ。エリーナさんの方に戻ったらご飯にしような」
「「ブゥル」」
ノブナガの言葉に小さく頷くバズビズ。
[+主従契約]で伝わってくる意思疎通から、バズビズの瞳から草を所望しているようだ。
内心で「はいはい、さすが草食動物」と頷きながら、エリーナの下へ歩き出すノブナガ。
隣につくように歩くザンとその後ろを歩くバズビズ。
1分ほど歩いた所で、エリーナの下へたどり着いたノブナガたち。
「あ、お帰りなさい。もうすぐできますから、少し待ってください」
「わかりました。それじゃあ、バズとビズにご飯をあげてきます」
エリーナたちにそう言いながら、ノブナガは馬車の方にバズとビズを連れて行く。
とりあえず、そこら辺の草をシャキシャキと食べ始めるバズビズ。
そんなどこにでも生えているような草を食べてもいいのだろうか……?
ちょっと心配だったノブナガはセインズ村で頂いたにんじんを食べさせた。
もう休んでいいぞ、とバズビズに伝えたノブナガはすぐにエリーナの下へ帰る。
今日の夕食はシチューのようだ。
ノブナガ作の野宿用キッチンのおかげで、エリーナも凝った料理を作る事ができる。
エリーナの料理の腕も一段と上がっていて、シチューもすごく美味しかった。
みんな一瞬にして平らげてしまった。
片付けはエリーナに休んで貰うという事で、アリンカがお皿を洗っている。
テーブルにはノブナガとエリーナ、ザンが付いている。
カレンは馬車の中で爆睡中。
そんなテーブルに付いている3人は、ノブナガが作業している手元をエリーナたちが眺めていた。
ノブナガが手にしているのは鉱物性でできたカードのような物で、ステータスプレートに似ている。
しかし、そこにはステータスではなく、幾何学模様の陣ーー術式が刻まれていた。
アーティファクトの類の物を作っているのはわかるのだが、使用方法がまったく浮かんでこない形状をしているので興味津々なエリーナたち。
「ノブちゃん、何作ってるの?」
「これか?召喚用のカード」
「召喚用のカード、ですか?」
「はい。丁度できた所なんで、実際に使ってみましょうか」
ノブナガは“ストレージ”から長方形の物を取り出した。
厚さはそれほどなく、中央上には細長い穴、中央下には長方形の穴が開いていた。
形からして、2世代前の携帯ゲーム機を思い出させるような物だ。
さらに“ストレージ”から長方形の魔力結晶を取り出し、某ゲーム機のような物の下にはめ込む。
その動作は、まさしくソフトをさし込むのと変わらない。
そして、先ほどノブナガが作ったカードを上からさし入れる。
瞬間、ノブナガが手にするアーティファクトが起動する。
ノブナガの背後に光が収束し、そこに一角獣ーーユニコーンが出現する。
その光景をもう慣れた目で見るエリーナとザン。
「どう?すごいでしょ?」
「あぁ、うん。そうだね。すごいね」
ノブナガの言葉に頷きながらも、ノブナガにジト目を向けるザン。
エリーナもジト目を送っていた。
その目は「説明、プリーズ」と雄弁に語っていた。
そんな目線に慣れたノブナガはステータス外スキル“無視”を発動させ、手に持つ幻想獣を召喚できる物を説明する。
汎用型召喚アーティファクト“アドバンス・サモナー”
本体である“アドバンス”に長方形の魔力結晶“ソフト”を動力として、さし入れたカードに刻まれている召喚魔法の術式で召喚しているのだ。
カードをいくつもの種類があり、カードによって召喚されるものを決められる。
ユニコーン以外には、フェンリルやゴーレムなどのカードが出来上がっている。
(それ、ゲー○ボーイアドバンスじゃ……)
ノブナガが手にするアーティファクトの形状を見て、真っ先に連想した物を心の中で呟くザン。
しかし、決して口にはしなかった。
言うのも怖かったし。
「ちょっ、何よそれ!?また物騒な物作って!!早くその幻想獣仕舞いなさいよ!!」
皿洗いを終えたアリンカが振り返ってみれば、そこに一角獣がいた事に驚いたのだろう。
ツッコミとは違う叫声が響き渡った。
これより5日後、ノブナガたちは城塞都市ガラールに到着した。




