ナルマ街、再び
ノブナガ一行がセインズ村を出て、2日目。
“スイカローブ”によって驚異のスピードで北へと上っていった結果、通常4日はかかる所を1日目で3日分、2日目で半日も掛からず到着した。
一定のスピードもそうだが、止まらずとも昼食が取れるのも理由の1つだろう。
そんなこんなで、ノブナガたちは1人の不満の呟きを無視してナルマ街にたどり着いたのだ。
「久しぶりだなぁ、ナルマ街」
「ですね。半年も経っていないのに、もう随分前のように思えてしまいます」
街の大通りを見渡しながら、ノブナガとエリーナが懐かしむように呟く。
「そう言えば、ここで初めて2人が合ったんだっけ?」
「うん。私とノブナガさんが出会って、そこでザンさんが加わったんだよ」
「わたしは急遽って感じだったけどねー。あ、こら、カレン。お店に興味あるのはわかるけど、離れちゃダメだよー」
ふらふらとどこかへ行ってしまいそうなカレンの腕を掴むザン。
鼻をくんかくんか動かしていたので、きっとお店が出しているご飯の匂いに釣られてしまったのだろう。
そんなカレンを微笑みながら見るノブナガ。
「悪いけど、マーレさんに会うのが先だ。ご飯はそれが終わってからな」
「りょっ、了解ッス」
カレンの喉がゴクリと音を立てるが、どうにか食い止まってコクリと頷いてくれた。
(こりゃ、長くは持たないな。カレンのお腹)
手短に終わらせようと心に決めるノブナガであった。
前と変わらぬ街並みの中を歩く事数分。
マーレが働いている薬剤屋に到着したノブナガたち。
早速ドアを開け、店内へと入る。
「いらっしゃいま……ノブナガくん?」
「はい。髪色が違うのに、よくわかりましたね」
店内に入ったノブナガたちを出迎えてくれたマーレ。
ノブナガの顔をジッと凝視すると、確かめるように聞く。
そんなマーレに少し驚いたように返すノブナガ。
「やっぱり!雰囲気は変わったけど、髪色が変わる事を知ってたらわかるよ」
「そうなんですか?そうなると気をつけないといけないですね」
自分たちの顔がどこまで広がっているかはわからないが、それでも髪色なんかの情報を抜きで広まっていれば一大事だ。
「それで、今日はどうしたの?」
「今日は渡しておきたい物がありまして。あと、情報が欲しいんです。今って時間ありますか?」
「うーん、ちょっとなら時間あるよ?奥に来て」
「ありがとうございます。エリーナさんたちは先に売店の方に行っていてください。カレンも限界だろうから、先に食べてていいよ」
「マジッスか!?ヤッハーッス!!」
(そんなにお腹が空いてたのか……?)
ここにみんなを連れて来たのは、マーレとの顔合わせの為だ。
ノブナガとエリーナとザンはもちろんマーレを知っているが、カレンとアリンカは互いに顔も知らない状態だ。
これといって理由があるわけではないが、もしもの時に備えておいた方がいいと考えたのだ。
その顔合わせが済んだ今、カレンのお腹を我慢させる理由もなくなったので、ノブナガはそう提案したのだが……
そこまで、お腹が限界に来ていたとは……
カレンを見るみんなの顔が苦笑していた。
一応、みんな1人1人にお金を渡しているが、今までのカレンの食欲を考えれば絶対に足りない。
エリーナに銀貨1枚だけ渡すノブナガ。
何となく察したのか、特に何も言わずに受け取るエリーナ。
カレンが餌を前に「待て」と言われている犬のようにそわそわしているので、エリーナたちはすぐに薬剤屋を後にした。
「それじゃあ、奥行こっか」
「はい」
マーレに連れられ、お店の奥へと入っていくノブナガ。
休憩室のような机と椅子が置かれていて、そこに向かい合うように座る。
少ししか時間がないとの事だったので、すぐに本題に入るノブナガ。
「まず、これを」
“ストレージ”から長方形の魔力結晶が付いた置物のような物と、いくつかの魔石が付いたバッチを取り出して机の上に置いて渡す。
「これは?」
「バッチの方は念話アイテムです。起動させて強く念じてくれれば、俺との会話が可能になります」
「へぇー、すごいね」
「もう1つの方は、座標転移のアーティファクトです。少し魔力を流してもらえれば、魔力結晶に内包されている魔力で術式が展開されるのでマーレさんにも使えます」
「へぇー、すごいね」
若干2回目の「すごいね」が遠い目をしているような気もするが、慣れちゃったノブナガはスルーを決め込んだ。
「座標転移の方は緊急時に使ってください。一瞬でセインズ村に着きます」
「ありがとう。で、情報は何を聞きたいの?」
「自分たちの情報がどれほど流れているのか、知りたいんです」
「ノブナガくんたちの情報ねー。実はそれほど出回ってないんだよね」
顎に指をついて言うマーレ。
「10歳ぐらいの男1人と女2人の3人組。男は黒髪で“暗殺者”、女は銀髪と金髪。そのどちらかが“召喚師”である可能性がある。お店に来た時の騎士の人が言っていた特徴はそうだったかなぁ」
「3人組、ですか。特徴の情報から考えて、タルワーリア町の軍隊の時ですかね」
黒髪のノブナガを知っているのはこの街かタルワーリア町の軍隊のみだ。
旅立つ前ならまだしも、しかし金髪のアリンカの情報があるという事は“勇者”率いる軍隊とやり合った時の事だろう。
「どうして、ザンちゃんの情報がないんだろう?」
「確かにあの時、ザンはザンガルドになっていましたが、それでも桃髪の少女ぐらいの情報は入れるでしょうね。入れなかったのは、情報の入手源が表に出せない人物だったから、でしょうね」
「表に出せない人物?」
「魔王と精霊王の娘ですよ。あいつは容姿が人じゃありませんから、表舞台には出れないんでしょう。だから、髪色の変化の情報もないんだと思います」
ネルラとの戦闘での容姿の情報やスキルと天紋の情報が一切入っていない。
あの戦闘で有力な情報はたくさんあったはずだ。
それを入れなかったという事は、ネルラ自体の存在が世間に出回る事を危惧して。
「あー、だから顔絵とかも出回ってないんだね」
「みたいですね。なら、結構自由に動けそうです」
「それで、聞きたいのはそれだけ?」
「いえ。あと、城塞都市ガラールについて、知りたいんです」
城塞都市ガラール。
帝都と同等の規模の都市で、その名の通り大きな砦で囲まれている事で有名である。
そこから数キロ離れた所では常に戦場になっていて、拮抗状態にあるようだ。
ノブナガが知っているのこの程度で、それ以上はアリンカでも知らないと言う。
そこら辺の知っている事をマーレに言うノブナガ。
「んー、私もそんなに知らないんだよねぇ。ノブナガくんが言ってくれた事以外はわかんないよ」
「そう、ですか……」
「ただ、あんまり良い噂は聞かないよ」
「噂、ですか?」
苦虫を噛み潰したような顔をしながら言うマーレ。
そんなマーレに、ノブナガも眉を顰める。
「行商人から聞いたんだけど、戦争に出てる騎士が荒れてるらしいの。ちょっと路地裏に入るだけで治安が悪いとか」
「なるほど」
「それと、他国の軍人の捕虜を奴隷商人に売りつけて、それで手に入ったお金で酒を飲み漁ってるみたい」
「それは……確かに、良い噂じゃないですね」
ノブナガの目がスッと細くなる。
どうも、『奴隷』という言葉が、想像以上にノブナガに響いたようだ。
「ありがとうございます。おかげで、対策できそうです」
「もういいの?」
「はい。あ、馬を売っている所ってわかりますか?」
「え?馬?え、えーと、多分武具店の近くにあったと思うよ」
「わかりました。ありがとうございます。何かありましたら、念話を飛ばしてください。すぐ駆けつけますんで」
「うん。気をつけてね」
「はい。では、また」
最後に一礼し、ノブナガは足早に薬剤屋を後にした。
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「あ、ノブナガさん。お話は終わったんですね」
「まぁ、はい」
「ちょっ、何よっその馬!?しかも2頭!!何かに使うの?」
「うん、まぁ」
「ノブちゃんも座りなよ。ここ空いてるよ」
「あぁ、うん」
突然馬を2頭連れて現れたノブナガにギョッとしながらも、昼食に食べていたパスタを進めるエリーナたち。
しかし、ノブナガの反応は薄く、視線を一点に固定されたままだった。
そのノブナガの目線の先には、タワーのように積み重なれた皿とーーブタになったカレンさんだった。
薬剤屋を出たノブナガはいらない魔石を換金し、マーレに聞いた場所に向かい馬を購入しに行く。
馬を2頭購入したのは、馬車を引く為である。
これからの移動は“スカイローブ”ではなく、目立たないように馬車へと変えるのだ。
馬の購入を終えたノブナガは“気配探知”を使ってエリーナたちを見つけ出し、そこにたどり着いたのだが……
目の前のタワーは立っているノブナガが見上げるほど高い。
しかも陰になっていてわからなかったが、同じタワーが2柱立っていた。
(え?何これ?寿司屋さんでも見た事ないんだけど……)
膨らませたお腹を摩るカレンを見る目は、まさしく怪物を見るような目だった。
救いを求めるような視線をエリーナたちに向けるノブナガ。
そんなノブナガの目を見て、同類を見るような目になるエリーナたち。
どうも、エリーナたちも同じ想いをしたらしい。
「えっと、あれが原因です」
「……『全部食べればタダ!目指せっ、1時間100枚パスタ!!』?」
エリーナが指差したカウンターの所にあった看板の内容だった。
内容を口にした瞬間、ノブナガは「ウソぉん」とでも言いたいような目をカレンに送る。
制限時間は1時間。
1度別れて合流するのにかかった時間は45分程度。
ノブナガと別れてすぐにこのお店に入ったとは考えられない。
薬剤屋からこの店までの時間を差し引き、さらにノブナガが到着するまでの数分を省くと残った時間は約30分弱。
カレンは制限時間の半分で完食してしまったらしい。
(こういうのって、食べ切れないようにできてると思うんだが……)
怪物を見ながら胸の中で呟くノブナガ。
チラッとカウンターの方を見れば、パスタを作ったであろう“調理師”の男性が顔を引き攣らせていたので、ノブナガの考えは間違っていないようだ。
「ノブナガも座れば?馬は外に馬小屋があるみたいだし、そこに繋いできたら」
「あぁ、そうするよ」
ウソぉん状態から復活したノブナガは出入り口から少し離れた所にあった馬小屋の方に向かう。
馬小屋のあるお店は珍しいが、どうも商人がよく来る為だったらしく、そこには馬車ごと置かれている馬がたくさんいた。
馬しかいないノブナガの2頭は比較的に幅を使う事なく、繋いでおく事ができた。
すぐにみんなの下に戻るノブナガ。
「お待たせ」
戻ったノブナガはなぜか席順が変わっていて、さっきまでなかったはずの椅子がエリーナとアリンカの間にあるのかを疑問に思いながらも、なぜかさっきあったはずの椅子がなかったのでそこに座る。
正面に座るザンが頰をニマニマしていたのは……きっと気のせいだろう。
「何か食べますか?」
「はい。ただ……これを見ると食欲が湧かないんですよね……」
再び向けられた皿のタワー。
確かに、これを目の前にすれば食欲なんて引っ込んでしまうだろう。
「あははは……あ、よかったら私の食べますか?私もカレンちゃんのを見てたら、食欲が無くなってしまって」
ゲンナリするノブナガに乾いた笑みを浮かべたエリーナは、思いついたように自分のパスタを差し出す。
カレンと同じタイミングで食べ始めたエリーナだったが、カレンの「この子、胃を空間魔法で拡張してんじゃね?」レベルの食速度を前に食欲を喪失させたのだ。
「いいんですか?」
「はい。どうぞ」
量的にノブナガの食欲にちょうどよかったようで、ありがたく頂くことにした。
スプーンとフォークを使い、クルクルと巻くノブナガ。
ここら辺は星が違っても変わらないのか、と思いながら一口。
トマトをベースに作られたソースがフワッと口の中で広がり、予想以上の美味しさを引き立てていた。
「美味しいですね」
「そうですよねっ。海鮮を使ったソースも美味しいですけど、私はベターなトマトソースが一番だと思うんですよ!」
「そ、そうなんですか……?」
突如として力の入った言葉にノブナガは少し戸惑ったような声で返す。
ノブナガはただ感想を口にしただけだったので、急な事に素で反応してしまった。
「まぁ、今は海鮮を使ったソースなんてないから、比べられてもねぇ」
「?ないのか?」
「3年前まではあったんだけど。貿易が止まってなくなったの」
「あー、確かに。四方八方に囲まれて海ないもんな」
なぜ貿易が止まったのかは、3年前という単語で想像がつくので皆までは聞かないノブナガ。
この時、3人は気づかなかったが、対面に座っているザンは不自然に感じないように口元を隠し、隠れた頰をニマニマさせていた。
なぜかと言うと、ノブナガがエリーナの食べかけを口にしたから。
エリーナが使ったフォークを口にしたから。
つまり……そういう事である。
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結局、最後までザンのニマニマに気づかなかったノブナガたちは食事を取り終え、ナルマ街の外へ。
100枚分のパスタを食べたカレンはそのままお店で爆睡し、アリンカに抱えられながら西の街道へと出てきた。
「さて、ここまで来れば大丈夫だろ」
一応、“気配探知”も発動して辺りに誰もいない事を確認する。
確認を終えたノブナガは“ストレージ”から馬車を取り出した。
急に馬車が出てきてポカンとする一同。
「これからは馬車で移動だ。さすがに“スカイロープ”での飛行移動だと、見つかった時に怪しまれるからな」
「なるほど。快適な旅はここまで、って事ね」
「まぁ、そう言う事だ」
アリンカのちょっと嬉しそうな声に、ノブナガは馬車と馬を繋げながら言う。
そんな2人の会話をエリーナとザンは胡散臭そうに思いながら、怪しむように馬車を見る。
だって、あの馬車どう見ても手作りなんだもん。
ノブナガ作である事がバレバレである。
つまり、ノブナガが今まで作ってきた物が1つとしてマトモだった事があるのか!?と2人は言いたいのだ。
「よしっ。みんな、乗っていいぞー」
「そう言えば、ノブナガさんって馬車を操縦できるんですか?」
「いえ、できませんよ?やった事ないですし」
「え?じゃあ、どうする気なの?」
「そこは“召喚師”を使ってちょちょっと、な」
「いや、なって言われても」
ちょっとノブナガの行動が読めないエリーナたち。
「バズとビズと[+主従契約]したんだよ。操縦はできなくても、バズとビズに運んでもらうんなら問題ないだろ?」
「なるほど。それなら問題ないけど、新たな問題が発生した。バズとビズって誰?」
「え?こいつらの事だけど?」
と、2頭の馬を指差すノブナガ。
アリンカたちも薄々わかってはいたが、どうやら馬の名前らしい。
「なぜ、バズとビズ?」
「んー、カッコいいからじゃないか?な、バズ、ビズ」
「「ヒィイ〜〜〜〜ン」」
ノブナガの問いかけにリーゼントのブラックホースーーバズとさらさらヘアーのブラックホースーービズが肯定するように鳴く。
どっちも黒いので、見分け方は髪型しかない。
この時点で、エリーナたちは名前を覚える気を失った。
「それじゃあ、ポチッと押してと。よしっ、出発だ、バズ、ビズ」
「「ヒヒィイ〜〜〜〜ン!」」
馬の名前に気を取られ、操縦席のところに存在するいくつかのボタンの内の1つを押した事に気がついていないエリーナたち。
そんな事を平然とした自然な流れのように押したノブナガは格好だけでも手綱を握り、バズとビズに声をかける。
返事をするかのように鳴いたバズとビズは足を動かし、馬車を引いてくれる。
こうして、ようやく城塞都市ガラールに向かい始めたノブナガたちだった。




