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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
タルワーリア教会編
30/123

“剣聖”の娘、“剣聖”アリンカ

 竜人族の女の子、カレンを仲間に迎える事になったノブナガは教会に残して来た面々を安心させる為、急いで教会へと戻った。

 竜人族であるからかカレンの敏捷は高く、すぐに教会の前まで戻って来られた。


「いいか。お前が竜人族なのは仲間以外には秘密だ。仲間たちは後で紹介するから、とりあえず今は絶対に言うなよ」

「わかってるッスよ」


 教会の扉の前で最後の確認をする。

 カレンは力強く頷いたが、ノブナガさんの内心は非常に不安であった。


(だって、こいつ哀れなんだもん)


 と思っても口にはしない。

 たとえ、もうノブナガの態度で完全に表現されていたとしても決して口にはしないのだ!


「じゃ、行くぞ」

「はいッス」


 ノブナガは教会の扉に手を掛け、押し開ける。


「只今、戻りましたー」

「お邪魔するッス!」


 扉を開いて入った祈りの場には誰もいなかった。

 奥にいるのだろうか?と思った瞬間、奥に繋がる通路からバタバタという音が聞こえてくる。

 少し待つと、そこから“神官”のイクレとエリーナがやって来た。


「お帰り!なかなか帰ってこないから心配したわよ」

「お帰りなさい。外は大丈夫でしたか?」

「はい。もう混乱は収まりました。外は安全ですよ」


 ノブナガはザブワードでエリーナに「ドラゴンはどうにかした」と伝える。

 それを聞いて、エリーナはホッと胸を撫で下ろした。

 2人とも安心したせいか、ノブナガの隣にカレンがいる事に気がついた。


「ノブナガくん、その子は?」

「あー、この子は俺たちと目的を共にする者、です」

「目的を共にする者?」


 ノブナガの言葉にイクレは疑問符を浮かべる。

 しかし、その隣にいるエリーナは声には出さなかったものの目を見開いて驚いていた。


「旅の仲間、という事です」

「カレンッス!よろしくお願いするッス!!」

「あら、元気のいい子ね。私は“神官”のイクレよ。仲良くしましょう」


 あまり詳しく話を聞いていないにも関わらず、イクレはすでにカレンを受け入れているようだ。

 相手が子供だからって無条件に受け入れ過ぎではないだろうか……?

 とりあえず、カレンとイクレから視線を逸らしたノブナガは目でエリーナに「後で話します」と伝える。

 それに対し、エリーナは瞬きで肯定した事からちゃんと伝わっているようだ。


「あー!お兄ちゃんっ、帰って来たー!!」

「お帰り!ノブナガお兄ちゃん!!」


 奥の通路からバタバタと子供たちが現れ、ノブナガを見るなり抱きついてくる。

 5人分の子供に勢いよく抱きつかれてもビクともしないノブナガ。

 子供たちの後にザンも現れる。


「ただいま。もう外は安全だし、遊びに行くかい?」

「「「「「行くー!!」」」」」

「あ、自分も遊ぶッスー!!」


 子供は無駄に元気である。

 年齢的には、まだノブナガたちも立派な子供なのだが……


 子供たちはノブナガを引っ張り、外へと走っていく。



 **********************



「それで、この竜人族は?」

「カレンッス!よろしくッス!!」


 子供たちと遊び始めたノブナガとカレンだったが、今は子供たちだけで砂遊びをしている。

 そのタイミングを見計らい、ノブナガは仲間のみんなを集めてカレンについて話した。


「あれ?竜人族なの言ったけ?」

「わたしたち精霊には種族が一眼でわかるのよ。で、竜人族って事はもしかして……」

「そうだ。カレンが言っていたドラゴンだ」

「やっぱり……あんた何やってんのよ」

「じっ、自分は悪く無いッスよ!先に襲って来たのはあっちなんス!!」


 という事で、ノブナガの時とまったく同じ説明が始まったので割愛します。


「どうして、人間族に来たんですか?」

「それは……その、あれです…………」


 *注:割愛します。


「家出……じゃあ、早く竜界に帰りなよ」

「それがーー」


 *注:割愛ーー


「え、繋がらない?なんでそんな事に……」

「多分なんスけどーー」


 *注ーー


「なるほどねー。確かにそれは魔族っぽいわねー」

「ぽいッスよねー。なので、ノブナガさんに誘われて仲間になりました!よろしくお願いするッス!!」


 話を終え、カレンの事情を把握するエリーナたち。

 今度は逆にノブナガたちについて話す。


「改めて名乗るが、俺はノブナガ。とりあえず、説明すると長くなるんだがーー」


 本当に長かったので割愛させて頂きます。

 スキルやら契約の事やらを1から話してたら、それだけでこのページ終わるわ!

 とりあえず、ノブナガについて知ったカレンは驚きを通り越して真顔になっていた、とだけ言っておこう。


「私は“聖女”でエリーナ。よろしくね、カレンちゃん」


 エリーナは自分が旅を始めたきっかけを話す。

 これも割愛……あんまり思い出したくなかったので……

 ちなみにカレンは泣いた。普通に泣いてた。


「ザンだよー。精霊で、ノブちゃんと契約してるんだよ」


 ザンの説明は短かった。

 どうして人間界に来たのか話すのかと思ったノブナガだったが、やはり話してくれなかった。

 どうやら、ザンはそれについて話すつもりはないらしい。


「なっ、なんか、すごい面子ッスね……」

「あははは、確かにそうだね。カレンも含めて、濃いよねぇ」


 元奴隷、王の娘、聖剣の精霊、炎竜の竜人。

 確かに濃い……

 4人中、人外が半分もいる……


「みんな〜、ご飯できたよー!」


 話がひと段落するとイクレが教会から姿を現し、夕食の準備を知らせる。

 砂遊びをしていた子供たちは一斉に教会へと戻っていく。

 ノブナガたちもそれに続いて、教会へ戻ろうとする。


 瞬間、ノブナガは何かに気が付き、町に続く道の方を見る。

 ノブナガはみんなと話をしながらも、子供たちを見守る為に“気配探知”を使っていた。

 それは今もそうで、ノブナガはこちらへ向かってくる1人の人を捉えた。


 もう日が沈みかけている時間帯。

 それに教会は町の中にも存在するので、この教会に訪れる人はいない。

 つまり、人が来る理由がわからないのだ。


「みんな、誰かがこっちに向かって来てます。エリーナさんはイクレさんに伝えて来て貰っていいですか?ザンとカレンは俺と一緒に」

「わかりました」

「はーい」

「了解ッス」


 エリーナが教会の方へ入っていく所を確認し、ノブナガは“ストレージ”から“ハール”を取り出して偵察に向かわせた。

 メガネも取り出し、こちらに向かってくる人物を確認する。


「あれ?」


 その人物を確認した瞬間、ノブナガは自然と声が漏れた。

 ノブナガの反応にザンは珍しそうな目で見ている。

 カレンはカレンで“ハール”の方が気になって、ノブナガの反応なんてまったく気にしていない。

 ノブナガは「なんであの人が……?」と呟いた事で、ザンとカレンはようやく我に返った。


「それで、誰が来たんスか?」

「あぁ、それが…………て、どうやらもう来たみたいだ」


 カレンも知っている人だったので口にしようとするが、どうやら本人が来たようなのでノブナガは道の方に視線を向けてみる。

 自然とノブナガの視線を追う、ザンとカレン。


「ゲッ!」


 こっちに来る人物を目にした瞬間、カレンはそんな声を漏らした。


「君たち。こんな所で何をしている?もう日が沈む時間だ。早く家に帰りなさい」


 ノブナガたちを視認するなり、そう言って来た人物はーーーー数時間前にカレンと死戦を繰り広げていた“剣聖”アリンカだった。



 **********************



「おい。聞いているのか?」


 “剣聖”アリンカは自分の言葉を無視するノブナガたちに再度声を掛ける。

 アリンカの左手には色とりどりの野菜が入ったカゴともう1つのカゴを持っていて、腰には剣が帯剣されている。

 カレンは昼間の後めたさが残っているのか、若干ノブナガの後ろに隠れるかのように移動する。


「俺たちは旅をしている者です。宿が遠征にやって来た騎士の方々でいっぱいな所を、こちらの教会に泊まらせて頂いているんです」

「この教会に?ならば、イクレさんを出して貰おう」

「今、仲間の1人が呼びに行っている所です。もう時期ーー」

「あら、アリンカちゃんじゃない!」


 そこでタイミングよくイクレがやって来る。

 その後ろからエリーナも姿を見せ、アリンカを見た瞬間に目を見開いて硬直した。

 それに気づいたのはノブナガとザンのみ。

 アリンカはイクレにノブナガたちの事実確認をする為か、イクレの方しか向いていない。

 カレンはカレンでアリンカを警戒していて、それどころではない。


 アリンカがイクレに事実確認をしている間に、ノブナガとザン、それにノブナガに首襟を掴まれたカレンがエリーナの下に集まる。


「どうしたんですか?エリーナさん」

「あ……えっと、その…………私の親友、です」

「親友ですか?」


 ノブナガの問いで我に返ったエリーナ。

 本当に驚いているのか、エリーナの身体が小刻みに震えている。


「彼女の名前はアリンカ、です。上級紋の“剣聖”で……ハルサーマンさんの娘さんです」

「ッ!?」


 ハルサーマンは聖剣の部屋でノブナガが死闘を繰り広げた“剣聖”だ。

 つまり、親子揃って“剣聖”なのだと言う。

 ハルサーマンを知らないカレンはともかく、ノブナガの表情は驚愕そのもの。

 ザンもそれなりに驚いてはいるようだが、ノブナガほどではなかった。


 天紋に親は関係ない。

 “調理師”と“家事師”から“剣士”が生まれる事もあるし、“賢者”と“守護師”から紋無しが生まれる事だってあるんだ。

 そんな中で、親子同士で、しかも数少ない上級紋である“剣聖”が揃うとは。


「すいません。少しいいですか?」

「っ、はい」


 さっきの驚きが抜け切れていなかったノブナガはアリンカに声を掛けられる事で我に返り、振り向いた。


「先程は疑うような物言いをしてしまって、すいませんでした」

「いえ、誤解が解けたようでなによりです」


 お辞儀をしてくるアリンカにノブナガは物腰を柔らかくして答える。

 そんなノブナガの言葉に安心したのか、面を上げたアリンカは少しでも顔を明るくしようと心がける。


「私はアンディエル軍13番隊隊長のアリンカです。私たちのせいで泊まる宿がなかったみたいで、本当にすいません」

「俺はノブナガといいます。そんな事、気にしないでください。そのおかげで、良い人に巡り会えたので旅の一興みたいなものです」

「そう言って貰えるとありがたいのです。よかったら、他の方のお名前を伺っても?」


 特に断る理由もないので、了承するノブナガ。

 ザンは初めに元気よく名乗り、カレンは控えめな声で言う。

 そして、エリーナの番。


「エリーナです」

「……エリーナ?」


(やっぱ、反応したか……)


 先程エリーナから親友だと聞いていたから、もしかしたら反応されるかもしれないと思っていたノブナガ。

 その嫌な予感は、やはりというか的中した。


 まじまじとエリーナの顔を見出すアリンカ。


「すまないが、ステータスプレートを見せてくれないだろうか?」

「え?あ、はい」


 そんな事を言い出すアリンカ。

 普通ならこの時点で正体がバレる所だ。

 だが、作っててよかった偽ステータスプレート!


「……ありがとう。ごめんなさい、変な申し出をしてしまって」

「……いえ、大丈夫です」


 偽ステータスプレートの情報を見たアリンカの表情は明らかに落ち込んでいた。


 それそうだ。

 失踪した親友かもしれないと思えば、誰だって落ち込む。

 正直、条件付きであれば彼女にだけでも正体を明かしてもいいと思ったノブナガ。

 しかし、ある事を危惧して明かす事が出来ない。

 今尚、ノブナガは人知れず周囲を警戒しているのだ。


「あ、イクレさん。これ野菜とお肉です。それと今月の寄付金を」

「ごめんね、毎月毎月寄付してもらって」

「私が好きでしている事ですから、気にしないでくださいよ」

「寄付、ですか?」


 気になる言葉が耳に入り、エリーナはつい聞いてしまった。


「そうなの。アリンカちゃんは遠征の時期に教会にやって来てくれて、子供たちの生活費を寄付してくれているの」

「すごいですね。俺とそんなに年が変わらないのに……」

「軍でも、一応お給料が出るんですよ。でも、軍の寮で必要最低限のものは手に入るんで子供たちの為に使って欲しいだけです」

「それでもすごいですよ……アリンカ、さんは優しんですね」


 昔の事を思い出したのか、エリーナは少し遠い目を見せる。

 そんなエリーナを少し目を見開いて凝視するアリンカ。

 その光景を少し胸に棘が刺さるような痛みを感じながら見るノブナガ。


「あ、そうだ。アリンカちゃん。夕食食べて行ったよ。子供たちも喜ぶし」

「良いんですか?では、お言葉に甘えて」


 イクレが思い出したようにアリンカをご飯に誘い、2人は教会の中へと入っていく。


「あっ!そう言えばご飯なんだった!!」

「ご飯!?急がないとッスね!!」


 ザンとカレンはご飯の事を思い出し、走って教会の方へ入っていた。

 残ったのはノブナガとエリーナだけ。


「俺たちも中に入りましょう?」


 とりあえず、そう声を掛けるノブナガ。


「ノブナガさん」


 歩き出そうとするノブナガを呼び止めるエリーナ。

 今のエリーナの気持ちを痛感しているノブナガは無視するわけにもいかず、振り返る。


「アリンカに、私の事を打ち明けてはダメですか?」

「…………すいません。少し待ってくれませんか?」

「どれぐらい、ですか?」


 エリーナはもっともな質問をノブナガに掛ける。

 すると、ノブナガは周りをキョロキョロと見回し、誰もいない事を確認する。

 確認が終わったノブナガはエリーナに近づき、エリーナの耳元に顔を近づけた。


「えっ!あ、そ、ちょ」

「落ち着いてください」


 顔を近づけられ、耳まで真っ赤にするエリーナ。

 ノブナガに落ち着けと言われても、落ち着いなどいられない状態だった。


「アリンカさんがハルサーマンさんの娘さんなら、きっと近くにいるはずです。アリンカさんはハルサーマンさんの人質なのですから」

「ッ!!」


 ノブナガの言葉で、さっきの混乱が一瞬にして吹き飛んだ。


(そうだった……アリンカは今人質になってるんだった)


 ノブナガがさっきから警戒している理由はこれだ。

 ハルサーマンに監視の使い魔を差し向けるぐらいなのだから、きっと人質であるアリンカにはいつでも殺せるように監視兼刺客を付けているはずだ。


「もう目星は付いています。ですが、今すぐ動くのは危険です。安全が確保できるまで、待ってはくれませんか?」

「…………わかりました。我儘を言って、すいません」

「いえ、それでいいんですよ」

「え?」


 ノブナガの言葉に目を点にするエリーナ。

 耳元から顔を離し、間近で目を合わせあうノブナガとエリーナ。


「言ったじゃないですか。1人で抱えずに我儘を言ってくれる事、頼ってくれる事が嬉しいって。今回、エリーナさんが俺を頼ってくれて、すごく嬉しかったです」

「ノブナガさん……」

「その件は俺がなんとかします。もちろん、俺に出来ない事があったら、全力で頼らせてください」

「……はい!」


 適材適所。

 この半月でノブナガが学んだ事だ。


「それじゃ、中に入りましょう」

「はい」


 そう言って、2人は教会の中へと入っていた。

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