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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
タルワーリア教会編
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帝国の闇

 ノブナガが炎竜であるカレンと戦っている昼間の事。

 アンディエル帝国の帝都にある王城の謁見の間で、ある男が現王と次代王に謁見していた。

 謁見と言っても、その男は呼び出されたに過ぎないのだが。


「久しいな、ハルサーマン。傷が癒えたようで何よりだ」

「ありがたきお言葉。先の任務、果たす事が出来ず申し訳ありませんでした」


 次代王に呼び出された男ーー“剣聖”ハルサーマンは紅い絨毯の上で膝をつき、右手を胸に添えた形で首(こうべ)を垂らしている。

 ハルサーマンの前には階段のように段になっていて、その上に豪華な塗装がされた椅子が2つ置かれている。

 そこに現王アブリー・アンディエルと次代王サランが座っている。

 そして、サランの側には黒い翼を生やした少女ーーネルラが控えていた。


「しかし、お前があそこまでボロボロにされるとは。そんなに強かったのか?その少年は」

「殿下。それはもう強かったですわ。わたしも一戦交えましたけど、手も足も出ませんでしたわ」

「ほぉ。ネルラがそこまで言うか」


 さっきから話しているのはサランとネルラでアブリーは何も言わず座っているだけだ。

 これではどちらが現王なのかわからない状態だ。


「まぁ、よい。ひとまず、聖剣の事は放っておいて構わん。それよりも、次の戦についてだ」

「それでしたら、“勇者”マサル率いる第10番隊が先程カイリューン王国に向けて出陣しましたわ」


(カイリューン王国だと?すでにラン公国とも戦争をしているというのに、どういうつもりだ?)


 サランとネルラの会話を耳にし、ハルサーマンは頭で整理する。

 ラン公国とはアンディエル帝国の西側に位置する国で、3年前から戦争をしている。

 それなのに今度は東に位置するカイリューン王国と戦争だと言う。


(どうせ3年前と同じで、碌な宣戦布告などしていないのだろう。今度こそ四方からバッシングが来るぞ!?)


 胸を渦巻く怒気を必死に抑えるハルサーマン。

 だが、今のハルサーマンにはどうする事も出来ない。

 ハルサーマンが何かすれば、その罰は自分ではなく人質である妻と娘が受ける事になるのだから。


「明日にはタルワーリア町に着くでしょう」

「順調だな。そう言えば、今タルワーリア町にはお前の娘が遠征に行っているのだったな」

「……はい、その通りです」

「ふっ、安心しろ。お前の娘の監視は蜘蛛がしっかりとやってくれている。お前の為にも、お前の娘に死んでもらうわけにはいかないからな」


 まるで釘を刺すかなように言ってくるサラン。

 ハルサーマンはそれにただ黙って首を垂らすだけ。

 アブリーは黙って座っているだけだ。


「もう下がっていいぞ、ハルサーマン」

「はっ。失礼いたします」


 サランの言葉を受け、ハルサーマンは謁見の間を後にする。

 ハルサーマンが出て行くのを見届けたサランはつまらなそうに「ふんっ」と鼻を鳴らして言った。


「今日こそは奴の中に蠢く怒りをぶつけてくれるかと思ったが……やはり、人間はつまらん生き物だな」

「そんな事はないですわ。人間の中には強い怒りを武器にぶつけてくる者もいるんですもの」

「それは、お前とハルサーマンをボロボロにした“精霊術師”の事か?」

「えぇ。久しぶりに熱くなってしまいましたわ」


 ネルラはノブナガとの戦いに思い出したのか、赤くした頰に手を添えてうっとりとした目をする。

 そんなネルラを珍しそうに見るサラン。


「ほぉ。それは一度死合いたいものだ」

「えぇ。きっと満足されますわ、お父様(・・・)も」


 そう言われたサランは不敵に笑う。


「それよりも、カイリューン王国と戦争が始まれば、国境近くにあるタルワーリア町は戦争に巻き込まれる事になります。そうなれば滅ぶのは間違いないと思いますけど、よろしいのですか?」

「ふっ、町1つ造作もない。町の者が死のうが、どうでもいい事だ」


 サランの言葉には本当にどうでもいいように吐き捨てる。

 その理不尽な振る舞いと、自己中心的な考えは……まさしく魔王だった。



 **********************



 場所と時間は戻り、タルワーリア教会の奥の部屋の夕食の場。

 そこには教会の子供たちとイクレ、そしてノブナガたちとアリンカが集まっていた。

 子供たちがワイワイと食べているので、自然とその場が明るくなる。


 それがありがたく、ノブナガもそれに乗っかってアリンカに話しかけてみる。


「そう言えば、昼間の地震の原因はなんだったんですか?」

「地震?……あぁ、それはおそらくドラゴンが原因かと」

「えぇ!?ドラゴンが現れたの!?」


 地震の原因の張本人であるカレンはビクンッと肩を震わせる。

 しかし、他のみんなはドラゴンが出たという事実に驚いていて誰も気づいていない。


「ドラゴンは無事に討伐されました」

「え!?すごいですね!!」


 アリンカが安心させるようにそう言うと、ノブナガはオーバーリアクションで驚いたような声を上げる。

 イクレや子供たちが「すげぇ〜」とアリンカを見る中、3人だけノブナガにジト目を向けていた。

 見られている事を察しながらも、ノブナガはその視線をスルーする。


「いや、討伐したのは私じゃないんです。私は手も足も出なくて……通りすがりの方に助けて頂けなければ、死んでいました」

「通りすがりの人?」

「はい。すっごく強い人で、ドラゴンを軽々と倒してしまったんです!」


 イクレの問いに、アリンカは興奮したように言った。

 やれ炎を真正面から防いだだの。

 やれドラゴンを地面に叩き落としただの。

 やれ五色に輝く剣を掲げていただの。

 なぜか目をキラキラさせながら語るアリンカ。


 この時、ノブナガは心の底から謝りたい気持ちになった。


「そんなにすごいの?アリンカちゃんを助けてくれたお礼もしたいし、一度会いたいわね」

「それが、ドラゴンを倒すとすぐにどこかに行ってしまって……顔もよく見えなかったので」

「そうなの?それは残念ねぇ」

「はい……」


 アリンカは本当に残念そうに呟く。


「ドラゴンと戦ってケガとかは大丈夫でしたか?」

「まぁ、少しはケガを負ったけど、“治癒師”が回復魔法をかけてもらったので大丈夫よ」

「そうですか。よかったです」


 エリーナは心配そうにアリンカに尋ねる。

 アリンカがそう言うと目に見えてホッとしたようだ。

 そんなエリーナを、アリンカは少し目を見開いてエリーナを見ている。


(やっぱり、似てる……)


 エリーナを見る度にアリンカは親友の姿を重ねて見てしまう。

 よく見るとメガネと髪を銀色にすれば、エリーナ・アンディエルそっくりなのである。

 だが、さっきステータスプレートを見た限りは同じ名前の空似だった。

 それでも、親友の姿を重ねて見てしまうのは本当に似ているからだろう。


(と思ってるんだろうなぁ)


 アリンカの表情を見て、ノブナガはアリンカの考えている事を予想する。

 またチクリと胸に刺さる痛みが襲われる。


(早く、行動しないとな……)


 ノブナガは胸の中である決意を固めた。


 が、今は目の前の事だ。


「武器とかは大丈夫ですか?俺、“錬成師”なんで直しますよ?」

「え?いいの?」

「はい。これでも腕には自信があるんです」

「じゃあ、あとでお願いしようかな。今日の戦闘で結構刃がボロボロになっちゃったから」


 ノブナガは少しでもアリンカの為にと思い、そう提案する。

 案の定、ドラゴンの攻撃を受けたせいで剣がボロボロのようだ。


 夕食を食べ終わると早速作業に入る。

 子供たちは夕食を食べて湯浴びの時間になったので、ノブナガとアリンカは教会の外に出て作業する。


「この剣なんだけど」

「拝見しますね」


 受け取った剣を鞘から抜く。


「これは……ヒドいですね。ドラゴンの攻撃を受け止めるとこんな風になるんですね」


 刃毀れはもちろん、所々刃が凹んでいたり削れていたりしている。


「それに柄にもガタがきてますし……十数分ぐらい時間を下さい」

「え?それだけで出来るの?」

「まぁ、アリンカさんに確認して貰いながら修理するで、もうちょっと掛かるかもですけど……」


 ノブナガは教会を出てくる時に持ってきた旅鞄の中に手を突っ込みながら言う。

 鞄の中から素材を取り出すフリをして、“ストレージ”から素材を取り出す。


「剣の重心は同じ場所でいいですか?」

「う、うん」

「じゃあ早速、“錬成”」


 取り出した鉄を刀身に押し付け、“錬成師”の必須スキルを発動させた。

 ただ鉄と刀身を合体させただけなので不恰好になるが、すぐに“錬成”で形を作る。

 とりあえず、形は剣になった。


「え、もう出来たの?」

「いえ、まだですよ。これじゃ強度がまだまだです。柄の修理もまだですし」


 柄にも“錬成”で修理する。

 鉄板を刀身に押し付け、鉄を追加しては圧縮。

 さらに鉄を追加して圧縮、さらに追加いして圧縮を繰り返す。

 それなりの重さになると一旦“錬成”をやめて、アリンカに手渡す。


「重みを追加したんですけど、大丈夫ですか?」

「うん。前は軽過ぎるぐらいだったから、これぐらいが丁度いいよ」

「そうですか。圧縮したので強度は前よりも増してます。多少は無茶が効きますよ」

「ホント!?ありがとう!!」


 雰囲気が急に変わり、ちょっと驚くノブナガ。

 話している間にも見せなかった笑顔にドキッとする。


「君すごいね!こんな短時間に完璧に修理するなんてすごい!!」

「お褒めに預かり光栄です」

「ずっと気になってたけど、そんな堅い言葉遣いじゃなくていいのに。そんなに年変わらないでしょ?」

「え、あぁ。えっと、わかった。そうさせて貰うよ」


 半年前のノブナガならここで断る所だが、ザンという前例を作ってからは柔らかい口調でも話せるようになった。

 ただ、まだエリーナには堅い口調であるが……


「ノブナガって、旅してるのよね?」

「あぁ。と言っても旅を始めたのは半年ほど前の事だけど」

「じゃあ、割と最近なんだ」


 剣を修理してからも少し2人で会話を始める。

 話題になるのはノブナガたちの旅の話。

 ほとんどが捏(でっ)ち上げであるが、それでも結構話は弾んだ。


「そろそろ消灯の時間だな」

「あれ?もうそんな時間か?結構話したもんね」

「確かに」

「じゃ、私は帰るね。また明日、来るから」

「うん。待っているよ」


 別れの挨拶をし、手を振って別れた。

 アリンカが見えない所まで見送ると、ノブナガは“ストレージ”から新たな素材と魔石を取り出し、1分もしないうちに作業を終わらせて教会の中へと戻った。


「カレンいるかー?」

「はーいッス……いるッスよー」

「なんかすごく眠そうだな」


 夕食を食べた机までやって来るとエリーナとザン、カレンがいた。

 が、カレンは机に突っ伏して眠たそうな声で返答してきた。


「どうかしたんですか?」

「はい。カレンのステータスプレートを“生成”したので、それを渡そうと思いまして」

「へぇ、わたしも気になるなぁ。竜人族のステータス。おーい、カレーン。起きてー」

「わ、わかったッスよ」


 カレンは眠たいのを振り絞り、ノブナガからステータスプレートを受け取る。


「名前を呟いてくれ」

「えー、カレンッス」


 カレンは眠たいながらも名前を呟く。

 ステータスプレートが自動で魔力を解析し、ステータスが表示される。

 そこで力尽きたのか、勢いよく机に頭をぶつけて眠ってしまった。

 そんなカレンの手からステータスプレートを取ったザンは3人の中心に持ってきて仲良く見る。


 ======================

 カレン 94歳

 天紋:炎竜 レベル:24

 HP:3650/3650

 MP:3930/3930

 PHY:3750

 STR:3930

 VIT:3650

 INT:4210

 MND:3650

 AGL:3470

 スキル:竜化[+竜鱗硬化]・炎魔法[+遅延発動][+並列発動]・時空魔法・咆哮[+火炎放射]

 ======================


「「…………」」


 それを見た瞬間、ノブナガとエリーナは固まる。

 特に年齢の部分を凝視し、すぐ側で寝ているカレンを見る。


「すぅ……すぅ、すぅ……」


 無垢で純粋な寝顔。

 子供らしく可愛らしい顔だった。

 どう見ても2桁にもなっていない年齢の子供だ。


 が、なんだこの数字。

 視線を戻して、またステータスプレートに表示されている年齢を凝視する。

 もうノブナガとエリーナの頭は混乱に陥った!


「ふーん、結構普通だね」

「「えぇえ!?」」


 ザンがボソリと呟いた言葉にノブナガたちは驚愕の声を上げた。


「いや、年おかしいよ!?」

「そうですよ!おかしいですって!!」

「え?え?ちょっと2人ともどうしたの……?」


 ノブナガとエリーナが前のめりになって訴える。

 そんなノブナガたちを若干……いや、本気で引いた素の声で言った。


「竜人族は寿命が長い種族だよ?竜人族で90代はまだまだ子供なの」

「あ、あぁ、そうなの?」

「でなきゃ、家出なんて言葉使わないでしょ」

「まあ、確かにそうですね」


 ザンの説明で納得するノブナガたち。

 驚いた反動で、脱力感が強く感じられる。


 その後、眠ってしまったカレンをエリーナが部屋まで運び、エリーナもそのまま消灯した。

 ザンはまだここにいるらしく、ノブナガはノブナガでやらなければならない事があるので教会の出口へと向かった。


 通路を抜け、祈りの場にやって来たノブナガ。

 そこには石像を前にして、膝をつき祈りの構えをしているイクレがいた。

中途半端に終わってしまいました……

すいません。 作者より

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