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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
セインズ村編
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25/123

セインズ村の未来 その6

説明回です。

ごちゃごちゃしていると思うんで、また説明すると思います。

温かい目で読んで頂くと助かります。 作者より

 魔王と精霊王の娘ーーネルラがセインズ村に戦闘向けの天紋集めにやって来た翌日。

 “奪還者”であるノブナガたちとベリン、チヨ、クレハの6人はセインズ村の村長の家であるチヨの家に集まっていた。

 木製の机を6人で囲むように座っている。

 村の人たちは昨日の騒ぎで焼かれた物や壊れた物の片付けをしている。


 そんな村人たちを放ったらかしに、ノブナガたちは何をしているのかというとーー


「これからこの村はどうしていくんですか?」


 そう、ノブナガがチヨたちに問うたように、セインズ村のこれからについての話し合いである。


 昨日、戦闘向けの天紋集めに来た騎士たちに対し、ベリンは戦闘を挑んだ。

 それにノブナガたちも加わった事で、その騎士たちを倒す事に成功した。


 しかし、それは完全なる国へと反逆行為である。

 この村へ行った騎士たちが帰って来ない事に疑問を持ち、新たな騎士たちが送られて来るのはもちろんの事、反逆がわかれば滅ぼそうとするのは当たり前のことだろう。

 今、このセインズ村は滅びの危機にあるのだ。


「……正直、これからの事は考えておらん。急な事であるのもそうだが、国を相手に逃げ果せるなど無理じゃ。いっそ他国に渡ろうかとも思っているが……」

「それはやめておいた方がいいです。他国に渡るまでに現れる魔物や野獣に襲われますし、辿り着けたとしても自由の保障はありません。それに……」


 ノブナガはさっきから机に肘をついて明後日の方を見ているベリンを見る。

 ノブナガが言った通り、戦闘向けの天紋持ちがいない村人たちに魔物を追い払う事は出来ない。

 それにベリンの容態もある。

 昨日の戦闘のせいで、ベリンは国境渡りに耐えられるような身体ではない。

 可能性はないかもしれないが、無謀という面が強いだろう。

 だから、それよりも可能性があるものをノブナガが提案する。


「そこで、俺から提案があります。ベリンさん、チヨさん、それにセインズ村のみなさんを“奪還者”に勧誘します」

「…………私たちがお主たちに所属しても足手纏いになるだけだ。やめておけ」


 ノブナガの提案をベリンが却下する。

 どうして?という風に全員がベリンの方を向く。


「なんの戦略にもならん私たちは完全な足手纏いだ。私たちを勧誘するメリットなど無いだろう?」

「そうでもありませんよ?俺たちに活動拠点と言える場所ができます」

「その活動拠点になるであろう場所が潰されそうとしているのだが?」

「それについては俺に考えがあります」


 ノブナガは自分たちのメリット、それと自身が考えた対策を説明する。


「ベリンさんが山に仕掛けていた結界を村規模で展開します。そうすれば、国から派遣された者たちは村に近づく事もできません」

「ふん、なるほど。しかし、山ならともかく村を覆うほどの規模となると維持が難しくなるぞ?」

「結界を維持する為に必要な術式を4つに分けます。たとえ、結界を破壊しても後3つ残って結界は維持されます。これなら、破壊される面と維持の面は解消されるのでは?」


 話が完全に魔法の技術的な話となり、ノブナガとベリン以外は何を言っているのかわかっていない。

 ベリンのログハウスがある山に張られた結界は、ベリンが組み出した空間魔法というものらしい。

 それはベリンの魔法の本にも書いてあり、ノブナガもそれを読んで理解していた。

 “魔術師”と“魔導師”の天紋を持つノブナガはベリンの空間魔法をアレンジも作る事ができた。

 それには、ベリンの結界を拡大化も含まれていた。


「うむ。それならば、村への侵入は無理だろうな」

「じゃあ、俺たちのメリットはわかってくれましたか?」

「……お主たちが求めるのはそれだけか?」

「はい。俺たちがセインズ村を守ります。その代わり、村の人たちには俺たちの活動の支援をお願いしたいんです。緊急事態に隠れるぐらいですけどね」

「…………」


 ノブナガの言葉にベリンはチヨの方を見る。

 村長であるチヨに判断を任せているのだ。

 ベリンはノブナガの言葉に嘘がないかと測り、嘘はないと判断した。

 条件も決して悪いわけではない。

 いや、待遇といってもいいだろう。

 チヨもその事はわかっている。

 故にーー


「わかったよ。私たちセインズ村は“奪還者”に協力する。かい?」

「はい。必ず守ります」


 チヨが頭を下げ、ノブナガも頭を下げた。

 こうして、セインズ村はノブナガたちが守る事になった。

 それから空間魔法の結界の事や食糧の事などを話し込んでいる。


 と、そこにーー


「チ、チヨばあちゃん!!」


 家の扉が勢いよく開けられ、そこからユウベイが飛び込んできた。

 ノブナガが初めてこの家にやってきた時とまったく同じ光景に、嫌な予感を感じさせる。


「なんだい!?何があったんだい!?」

「マーレがっ、帰っ「おばあちゃん!!」ゴヘッーー」


 未だ床に倒れ何かを伝えようとしているユウベイの頭を踏み付け、家の中へと駆け込んで来る少女。

 少女は家の中へ入ってチヨとクレハの姿を確認すると、家の中だというのに駆け寄っていく。


「おばあちゃん!クレハ!!」

「マーレっ!」

「お姉ちゃん!!」


 チヨとクレハも席を立ち、駆け寄って来る少女を抱き締めて迎える。

 少女の呼び方から察するに、その少女が今日村にやって来る予定だったチヨの孫だろう。


「うわぁ。頭踏まれた子、大丈夫?すごい勢いで顔面を地面にぶつけてたけど……?ノブちゃん?」


 ザンが寝転がって伸びているユウベイを見ながら呟く。

 しかし、そこでノブナガとエリーナが抱き合っている3人に視線を固定して驚いている事に気がつく。

 いや、正確には今入ってきた少女に視線を向けていた。


「ノブナガさん……あの方って」

「はい。ナルマ街のあの薬剤屋の店員さん、ですね……」


 そう、何を隠そう。

 チヨの孫にして、ナルマ街の薬剤屋の店員さんである少女だった。



 **********************



「へぇー。この人たちが助けてくれたんだ」

「あぁ。魔物が襲ってきた時も助けれくれたし、それにガンタとナンナも治療してくれてのぉ」

「お父さんもお母さんも……本当にありがとうございます」

「いえ。俺たちも見ていて腹が立っただけなので」


 チヨのもう1人の孫ーーマーレはチヨたちからノブナガたち“奪還者”の説明を受け、ノブナガたちに頭を下げる。

 サラって説明にあったが、ベリンを誘き出すためのエサにされていたベリンの息子と義娘をエリーナが治療した。

 まだ意識を取り戻していないが、命に別状はない。


 ちなみにマーレはノブナガたちの事に気づいていない。

 髪の毛の色を変えているせいでわからないようだ。

 チヨたちと抱き合っているうちに“ストレージ”の指輪を外したので、途中で気づく事はないだろう。


「で、あなたたちは調味料を買いたいんだよね?」

「はい。ですが、数日はこの村に滞在するので、急いで買う予定はないです」

「そっか。私も数日はいるからよろしくね〜」


 それから少し話した後、マーレはクレハと一緒に村の片付けを手伝いに行った。

 エリーナとユウベイもそれに同行し、家にはノブナガとザン、チヨ、ベリンの4人が残った。

 少し静寂が流れた後、ノブナガも席を立つ。


「それじゃ、ザン。俺たちは村に張る結界を設置して来ましょう」

「うん。そうだね」


 ザンも立ち上がり、扉の方へ歩いて行く。

 ノブナガは出口に向かう前に、ベリンの耳元で何かを囁いてから家を出た。

 そして、家に残ったのは老夫婦の2人のみ。


 2人っきりになるのが久しぶり過ぎて、2人は互いに意識して黙り込む。

 気まずい空気を感じながら、チヨは自分で用意したお茶を煽る。

 そして、一息吐くと口を開いた。


「……あんたは相変わらず無茶をするねぇ」

「…………そうだな。心配させてすまん」

「まったくさね。この3年間、あんたを心配しなかった日はなかったよ」

「……すまん。その、夕飯美味かったぞ……相変わらずの腕だな」

「…………そうかい」


 年寄りたちの照れた言葉。

 互いに恥ずかしいような、嬉しいような気配が伝わってくる。

 また少し沈黙が流れ、2人は茶を啜る。


「それで、あんたはこれからどうするんだい?」

「……私はもう戦えん。それにガンタとナンナも取り戻せた。もうやり残した事はない」

「じゃあ……」

「……あぁ…………ここに居てもいいか?」

「ーーっ。いいも何もっ、ここはあんたの家だよっ。誰の許可がいるんだい!?」


 嬉しさを必死に隠そうとしているが、まったく隠せていない。

 そんなチヨを見て、ベリンは昔を思い出す。

 チヨと結婚し、ガンタを生み、義娘ができ、孫を初めて抱いた、楽しく幸せな思い出。


「ふっ……」


 それを思い出し、ベリンはまた明後日の方を見て鼻を鳴らす。

 その頰には目から流れる水が一線に垂れていた。



 **********************



 ノブナガとザンはセインズ村を出、ベリンが住んでいた山の中へと入って行く。

 この村を覆う結界の術式の1つをここに仕掛ける為である。

 慣れた道無き道を歩き、山の頂上にあるログハウスにたどり着く。


「で〜、どこに術式を置くの?」

「あっちにこの山を覆っていた結界の術式があるそうです。それを囮にするような形で仕掛けようかと思っています」

「なるほどねー」


 ログハウスから少し離れた所に歩き、術式を発見する。

 そこから10メートル離れた木の陰に仕掛ける事にする。


 仕掛け方は術式を地面に描き、“生成”を発動させる。

 早速作業に取り掛かるノブナガ。

 落ちていた木の枝で地面に術式を描き始める。

 ザンには周囲の警戒を行ってくれている。


 “ストレージ”から取り出した自作の術式を見ながら、丁寧に描き続ける。

 そして、術式を細々と見て完成を確認すると地面に手をついて唱える。


「“生成”」


 瞬間、ノブナガが描いた術式が光を放ち、地面に染み込んでいくかのように消えた。

 少しの間、ジッと術式が消えていった場所を眺め、満足気に頷いて立ち上がる。


「終わったー?」

「はい。ここは終わりました。次の場所に行きましょう」


 ついさっき通って来た道を引き返て下山するノブナガたち。

 特に会話をせずに進んでいると、ノブナガはザンの顔を眺めながら言った。


「昨日に比べて随分と落ち着いたようでよかったです」

「あ。あー、ははは。まぁね」


 ノブナガの言葉に、ザンはいつもとは違う中途半端な笑顔を見せる。

 ノブナガが言ったように落ち着いてはいるが、まだザンの中で整理出来ていないようだ。


(まぁ、仕方ないか。自分の故郷はもう無いって言われたら……)


 ノブナガは昨日の事ーーネルラがザンに話した事を思い出す。



 **********************



「精霊界は滅んだわーーーー魔界から攻めてきた魔族によってね」

「ーーッ!?どうしてそんな事に!?」


 ネルラが放った言葉にザンが真っ先に反応する。

 食い付くように前のめりになっている間、ノブナガたちはわからない単語を前に疑問符を浮かべている。

 ただ、ザンの反応が良いものではない事は明確に伝わってくる。


「魔族が精霊界に渡る力なんてない!どうやって精霊界に!?」

「そんなのはわたしが生まれる前だからわからないわ。わたしはただ、『今回の“魔神”にはそれが出来た』としか聞かされていないわ」

「ッ!?そんな……精霊界が滅ぶなんて……そんなの嘘…………」

「嘘じゃないわ。証拠はわたしという存在そのもの。魔族の卓越した魔力と精霊の膨大な通力を同時に有する、このわたしが」


 ショックが大きかったのか、ザンは糸が切れた操り人形のように座り込んだ。

 ずっと疑問符を浮かべていたノブナガが駆け寄る。

 それを見計らったかのようにネルラが立ち上がる。


「さて、約束通り話したし、わたしは帰るわ」

「っ。待て!!」


 ノブナガが斬り飛ばしたはずの黒翼を広げ、飛び上がる。

 ノブナガは逃すまいと魔法を放とうとする。

 しかし、ノブナガの魔力は“エレメント・ソード”にすべて使い果たしてすっからかんなのだ。

 もちろん、ネルラも魔力がすっからかんなのは変わりない。

 しかし、飛ぶ事自体に魔力は必要ないようだ。


 飛び上がったネルラはそのまま騎士たちを放置して、飛び去ってしまった。



 **********************



 そして一晩が経ち、ザンも落ち着きを取り戻していた。


「さすがにショックだったけど、まぁ眠ってたわたしが悪いんだから。自業自得だよ」

「昨日から聞きたかったんですけど、精霊界とか魔界とかってなんなんですか?」

「何って……精霊がいるのが精霊界、魔族がいるのが魔界なんだけど?」

「でしょうね」


 そりゃそうだ。

 だって魔界だもん。


「いや、俺が聞きたいのはそういう事じゃなく……えーと、なんて言えばいいんだろう。どうして、魔族が精霊界に渡る事に驚いてるのか?的な問いなんですけど」

「え、あー、そりゃそうか。ノブちゃんは……というか人間は知らないもんね」


 ノブナガの問いの意味が通じたのか、ザンは頷くと歩きながら話を始める。


「この世界はね、いろんな次元が並列になって出来てるの。ここ、つまり人間界もその内の1つなの」

「っ。パラレルワールド……ですか?」

「あれ?ノブちゃん、知ってるの?」

「えぇ、まあ。前世の世界にもそんなのがあったので。だから、俺はてっきり異世界かと思っていたんですけど……」

「あ〜、違うよ?ノブちゃんはもっと遠い場所から来たんだと思うよ?ノブちゃんの記憶的に言えば、銀河が違うんだよ」


 ザンがわかりやすいようにノブナガの記憶にあった言葉を使って説明する。

 すでに想像を遥かに超えた話に驚きながらも、必死に頭の中を整理しているノブナガ。


「じゃあ、魔族に精霊界へ渡る力はない。でも、事実それが起きた。て事ですか?」

「そういう事だねー。次元を自由に行き来できるのは精霊や竜族だけだったんだけど、今回の魔神にはそれができるみたいだし。前代未聞だよ」

「やっぱり、それができるとマズいんですか?」

「マズい。今まで保たれてきた次元の力関係が崩れたんだもん。精霊の力も手に入れちゃった魔族たちが他の次元の世界を攻めれば、間違いなくその世界はおしまいだよ」

「……その他の次元の世界、っていうのは」

「まぁ、魔王の娘がいるって事は想像はつくよね」


 どうやら、ノブナガが危惧した事は当たっていたらしい。

 それは、魔族の襲来だ。

 この世界……しかも、あのネルラの態度から考えて、魔族がこのアンディエル帝国の中心にいるのは間違いない。


「魔族の目的って、やっぱり世界征服ですか?」

「そうなんじゃない?まぁ、まだ大々的に動いてないって事は未だに準備中なんだろうけどね」


 魔族の力がどれほどのものかはわからないが、精霊界を滅ぼすような力があれば間違いなく人間界も滅ぼせるはず。

 人間界に居ながらまだ行動を開始していないという事は、人間界を確実に潰すための準備をしている、と思っていいだろう。


「ま、これでわたしの目的も決まったね。わたしは魔族をぶっ潰すよ」


 ザンは今まで見た事がない鋭い目で、そう言う。

 その目には、確かな殺意と憤怒が宿っていた。


 だが、それも一瞬の事。

 すぐにその表情を崩し、いつものザンに戻る。


「という事で、これでわたしたちの目的は一緒になったね」

「そうですね。この国を取り戻すのなら、魔族を潰さなければならないのは確実ですから」

「そう。じゃあ、わたしはノブちゃんの契約精霊じゃなくて、もう仲間だよ。これからは敬語なしだよ?」

「えー、今までも仲間だと思っていたんですけど……わかりました。あ、じゃなくて……わかった。これでいいか?」

「うん。まだちょっと不器用だけど、それでお願いね」

「はい。あ、じゃなくて……わかった」


 不器用に話すノブナガ。

 それを見て、ザンは小さい子供を見るような目をする。

 完全に慈愛の目である。


 それからノブナガたちは他の3箇所を回り、そこに結界の術式を設置していった。

 村の復旧も終わり、ノブナガたちの建前の調味料もマーレから購入し、旅の準備は完了した。


 そして翌朝、旅立つ時がやって来た。

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