『ボク』と『友達』との青春の思い出 2
教室に入ると、匠は男の子たちの方へと向かっていった。
ボクも付いて行こうかと思ったけれど、膝裏に当たるスカートが、そっちじゃないよと言っている気がして、自分の席に荷物を置くことにした。
カバンを置くと、後ろの席の女の子が声をかけてきた。
「ゆっきーやほー」
「おはよう、中家さん」
「やだなー、星奈って呼んでっていったじゃーん」
中家星奈さんはボクの後ろの席の女の子だ。
出席番号順で並ぶと後ろに来るというだけのことなんだけど、入学式の日からやたらとボクに話しかけてきた。
髪はボクよりも長くウェーブがかかっていて、顔立ちも整ったかなりの美人さんである。
背も匠と同じぐらいあって、立ったらボクは彼女を見上げなくてはいけないのだ。
……背が大きいのは羨ましい。ボクは結局背が伸びなかったから。
「……やっぱり、直ぐには無理かな。ごめんね」
ボクは人見知りだから、会ってすぐの人を名前で呼ぶのには抵抗があった。
紗枝さん?あの人は名前しか教えてくれなかったから別。ずるい人なんだよ。
「謝んなくてもいいけどぉ、あ、じゃあゆっきーって呼ぶのもだめ?」
「それは別にいいよ。ちょっと照れ臭いけど」
「ゆっきーはいい子やでぇ……」
……この子のノリはよくわからないや。
しばらくして、佳奈がやってきた。
「中家さん?あんまり悠希をいじめないでよ?」
「いじめてないって、いーんちょはかったいなぁ」
「別に私は委員長じゃ……」
今日のホームルームでクラス委員とかを決めるらしいけど、佳奈は三つ編み眼鏡だし、委員長っぽい見た目だからか、中家さんは佳奈のことをいーんちょと呼んでいた。
なんか言い方がちょっと可愛いなぁ。
「いいじゃん、いーんちょ。小学校とかでもやってなかったっけ?」
悪ノリして佳奈をいじってみる。
なんか『いーんちょ』って言い方が可愛いかったから真似してみる。
こう言ったら中家さんも乗ってくるんじゃないかと思ったけれど、予想は大きく外れてしまった。
「あ、待って、ゆっきーさっきのもっかい言って、めっちゃ可愛かった」
「え、やだよっ」
「いーじゃんいーじゃん、『いーんちょ』ってもっかい言ってー!」
言い出したのは自分なのに!
中家さんの目がマジだ。なんか怖い。
佳奈に助けを求めてみれば、
「あー、今のは悠希が悪い。私ももう一回聞いてみたいな」
どうやらボクに味方はいないようだった。
まだ入学して間もないために、授業という授業もなく、自己紹介や今後の授業の進め方の説明なんかばかりだけが続いていた。
同じような話がもう4回も続いていれば、いくら進学校の生徒でも飽き飽きしてくるというものだった。
後ろの席からは寝息が聞こえてくる。
まさかとは思いつつも、確認するのは怖かったのでそのまま授業を受けた。
授業が終わったのでひとつ伸びをして、恐る恐る後ろを見てみれば、すやすやと眠る中家さん。
彼女の肩を揺すり、起こしてみる。
「中家さーん、お昼休みだよー」
「ぐぅー」
中家さんは起きなかった。……起きなかった?
どうしたものかと困っていると、1人の女の子がこちらへと近づいてきた。
前髪が切り揃えられて、まるで日本人形みたいに真っ直ぐで綺麗な髪をした女の子だった。
「星奈ちゃーん、起きなきゃめーよー」
なんかおっとりした子がやってきたと思ったら、中家さんの頭をすぱーん!と叩いた。
ボクはなにが起きたかわからず、ただただ驚いていた。
叩かれた中家さんはむくりと起き上がり、
「ふぁ〜あ、ちー、おはよー」
「おはよーじゃなくてー、この子が起こしてたのよー」
「おー、ゆっきーもおはー」
半眼でそういう中家さんはまだどこか眠たそうだった。
ちー、と呼ばれた女の子がボクに話しかけてきた。
「えっとー、私は近江谷千里っていいますー。隣のクラスなんだけどー、星奈ちゃんとお昼一緒にしようと思ってきたのー」
「そうだったんだ。ボクは、
「東山悠希さんでしょー?星奈ちゃんが可愛い子と友達になったって自慢してきたから知ってるよー」
すでに名前を知られていたようで。
というか中家さんは可愛いだとかあんまり他の人に言わないで欲しいのだけど。
「私もー、悠希さんと仲良くしたいなー、って」
おっとりと間延びした調子で話すその女の子は、ニコニコ笑顔でそういった。
ボクとしては断る理由もないので、
「うん、じゃあ一緒にお昼食べよう」
「うんー、よろしくねー、悠希さん」
そう言って、近江谷さんは手を差し出してきた。
ボクも手を出して握手する。
そしてこう言った。
「さん、なんて他人行儀な言い方じゃなくていいよ。呼び捨てとか、中家さんみたいにあだ名とかでもいいし」
「じゃあー、悠希ちゃんでー」
「うん、よろしく、近江谷さ
「千里ー」
「近江谷「千里ー」
あれ、なんか段々近江谷さんの顔が近づいてきて、
「他人行儀じゃなくていいよー、千里ってよんでー」
自分の言ったセリフが帰ってきた。まさにブーメランだった。
だけど、初めて会った人に呼び捨てなんて恥ずかしいのだ。
「お「千里」
今度はかなりハッキリと言われた。
優しい笑顔だと思っていたけど、今はそれがちょっと怖い。
「……ち、千里……」
「最後声小さくて聞こえなかったよー?」
うぅぅ、周りを見れば、中家さんと、いつの間にか佳奈も一緒にニヤニヤとボクを見ていた。
ボクはやけくそ気味に『千里』の名前を呼んだ。
「千里っ。これでいいでしょっ」
「よくできましたー」
ボクの頭を撫でる千里。
ボクは恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってしまっている。まさに顔から火が出そうだった。
「ちーばっかりずるいなー」
「あーあ、星奈が可哀想よねぇ」
「おっ、いーんちょも良いこと言うねぇ」
いつの間にやら佳奈が中家さんのことを名前で呼んで、ボクの逃げ場は無くなっていた。
ボクは観念したと言わんばかりに、
「はぁ、星奈、これでいい?」
1人呼んだら2人も変わらない。
星奈は満足したようにニッコリと笑っていた。
今年最後の更新、なんとか間に合いました。
来年もよろしくお願いします。




