『ボク』と『友達』との青春の思い出 1
ピンポーン、ピンポーン。家のチャイムが鳴り響く。
朝食を食べていたお母さんが先に反応した。
「あらあら、佳奈ちゃんかしら」
「多分そうじゃないかな、ボクが見てくるよ。はいはーい、今でまーす」
お弁当を作っていたので、エプロン姿のままだったけれど、ボクは返事をしながら玄関のドアを開ける。
すると、そこには予想通り佳奈が立っていた。
真新しいブレザーの制服は、ちょっとまだ着慣れてない感じだけれど、ボクよりは似合ってるんじゃないかと思う。
……ボクも同じものを着ているわけだし。
「おはよ、悠希。迎えに来たよ」
「おはよ、佳奈。後ちょっと待ってて、もうちょっとでお弁当出来るからそのまま待ってて」
ボクはスリッパをパタパタさせて、キッチンへと向かう。
お弁当は後は詰めるだけなので、もう5分もかからないだろう。
あの事故から1年と半年ぐらい経った。ボクたちは高校生になった。
受験勉強はちょっと大変だったけど、どうにか合格できて、佳奈と匠と3人で同じ高校だ。
クラスも3人同じになって、不安だった学校生活もどうにかなりそうだと思う。
お昼に食べるお弁当が出来たので、スクールバックに入れて最後に忘れ物がないか確認。うん、大丈夫。
エプロンは外して、洗濯カゴに入れておく。
行く前にリビングに顔を出して、お母さんに学校に行くことを伝える。
「お母さん。行ってきます。」
「いってらっしゃい、あんまり無理しちゃダメよ?」
「うん、わかってる。心配性なんだから」
ボクはクスリと笑って、佳奈の待つ玄関へ向かう。
つい数ヶ月前まで松葉杖をついて歩いていたからだろう、心配されているんだけれど、体育が無ければどうということもない。
心配してくれてるのは嬉しいんだけどね。
ボクはスリッパをローファーに履き替えて、佳奈と一緒に家を出た。
「お待たせ、行こうか」
「うん、匠も迎えに行かないとだしね」
「寝坊してなきゃいいけど」
「あー、あるかも」
小学校中学校の時と同じように、佳奈がボクを迎えに来て、最後に匠を迎えに行く。
……違うのは悠希がいない事だけだ。
だけど、いつまでも言っていても仕方がない。
悠希がもういないのは、誰にもどうにもできないのだから。
悠希の身体を使っているボクが言うことではないかもしれないけどね。
そんな考えを顔に出さないように気をつけながら歩いていると、佳奈が話を振ってきた。
「そういえば、なんというか、すっかりエプロン姿が様になってたね」
「う……またそうやってからかう」
「本当だって。可愛かったよ?」
「可愛いってゆーなー!」
エプロン姿が似合うっていうのは多分、家でお母さんの手伝いで料理をすることが多かったからだと思う。
勇気だった時は料理なんて調理実習とかでしかしたことがなかったけれど、いざ始めてみると、これが楽しいものだった。
お母さんは前までは働いていたから知らなかったけれど、かなり料理上手で、いろんなレシピを教えてくれた。
お父さんはなんでも美味しいって言って食べてくれるけど、それはそれで張り合いがないなぁ、って言ったら、
「娘の作った料理が不味いわけないだろう?」と謎理論を展開された。
その時ばかりは本当に弁護士なのだろうかと疑ってしまった。
そんなわけで毎日料理していたら、結構凝り始めてお昼も自分で作るようになってしまった。
お母さんも今年から職場復帰するようだったし、あまり負担になりたくないからね。
そうこうしているうちに、匠の家に着いた。
佳奈がチャイムを押す。
「はーい」と返事が聞こえたけれど、匠の声ではなかった。
ガチャリとドアが開き出てきたのは、匠のお母さんだ。
「あらあら、佳奈ちゃんに悠希ちゃん、ごめんね。匠もう出てくるから」
「あー、寝坊ですか」
佳奈がそう尋ねる。
匠のお母さんはバツの悪そうな顔をしてこう言った。
「可愛い女の子が2人も迎えに来るっていうのに、うちのアホはなにしてるんだかねぇ」
「あはは……」
ボクは笑うしかなかった。
やっぱり可愛いっていうのには慣れない。
どうにもむず痒く感じてしまうのだ。
悠希として、女の子として暮らしていくと決めたけれど、14年は男だったから、やっぱり可愛いと言われるのは抵抗がある。
……勇気だった時も、一部からは可愛いと言われていたこともあっただけに余計にだろうか。
玄関の奥からどたばたと匠が出てくる。
完全に準備出来ていないのかわざとなのかーー間違いなく前者だろうけどーー制服を着崩した匠がやってきた。
「わりーわりー、待たせた」
あんまり悪びれた様子がない匠に、匠のお母さんと佳奈から指摘が入る。
ボクも乗っかることにした。
「あんた、制服ぐらいぴしっと着なさい!ぴしっと!」
「顔洗ったの?なんか寝ぼけた顔してない?」
「匠、寝癖たってるよ」
順番に、匠のお母さん、佳奈、ボクがそれぞれに言った。
匠はバツが悪そうに、
「お袋はいいから家に戻ってくれ!佳奈はお袋みたいなこと言うなよ。悠希、これは寝癖じゃなくてセットしてあるんだ、というかわざと言っただろ」
匠のお母さんはさっさと行かないと遅刻するよと言って戻っていった。
佳奈もいいから行くよ、と先に歩き出した。
「ゴメン、いっつもそれだからわかんなかった」
ボクは、意地悪い笑顔を浮かべて佳奈を追いかける。
匠も慌てて追いかけてきた。
3人で歩く通学路。
少し足りない気がするけれど、こればっかりは慣れていくしかない。
佳奈と匠には、1年半も待たせているわけだし。
他愛もない話をしながら、学校へと歩いていく。
匠がふと言った。
「やっぱいいな、こうやって幼馴染同士で学校行くのってさ」
「……熱でもある?学校休む?」
佳奈がジトッとした目付きで匠を見る。
まぁ匠っぽくない物言いだったから、佳奈の気持ちはわからなくない。
匠が慌てて否定する。
「風邪は引いちゃいねぇよ。本当にいいよなって思ったんだよ。悠希もこうやって歩いて学校行けるようになったしさ」
「年明けぐらいから毎回言われてる気がするんだけど」
実際松葉杖無しである程度歩けるようになったのは、去年の年末からお正月にかけてぐらいだった。
その時から、匠は感慨深いように毎回言っている気がする。
「だってよー。受験も終わって、悠希も歩けるようになって、これでやっと色々遊びに行けるんだぜ?高校生になったんだし、青春しないとな!」
「なんか、今年も匠に振り回されそう……」
毎年長期休暇に入ると、匠がみんなを集めてあれやろうぜ、何処何処にいこうぜと、みんなを振り回すのだ。
……悠希と佳奈は上手いこと逃げてることもあったから、実質毎回振り回されてるのはボクだけだったか。
「まぁいいじゃない。一昨年の夏休みは悠希と勇気に散々振り回されたし」
なんか予想外の方向から攻撃された。
それボクの所為でもないし。
「佳奈ぁ、その言い方は酷くない?」
「えー?だから今年は、悠希がいっぱい遊んでくれるって話でしょ?」
「そうだな!いっぱい遊ぼうぜ!」
しょうがないなぁと呟いて、僕たちは学校へと足を進めた。




