エピソード7:薬師
「シュンさん、この薬草いる?」
「あ、アレさん。お久し振りです。いります。今ちょうどう欲しかったところです」
「その、アレさんって呼び方止められないかな。ちょっとあれな人だと思われそう」
「え、でも呼びやすいし」
ワタシが彼と一対一で会ったのは勇者一行の皆と旅を始めて一年ほど経ったときのことだった。皆彼と良く会うな~、一対一で話す機会あって良いな~とか思っていたら一年経っていた。ふがいない。
「皆のところには行きました?」
「行ってない。今日はついでだったから誰かに会えたらいいなくらいだから」
「そしたらワタシと会ったと」
「そういうこと」
ワタシと彼。2人で薬草をチビチビと拾う。薬師の役目は薬を作り、薬効を調整し、治療すること。こういう地道なことも必要なんだよな~と考えながら作業を進めていた。それに付き合ってくれる彼もそれを理解してくれていて、手伝ってくれているんだろうなぁと察した。
「あの、ワタシ達一行に入りませんか?」
「……残念だけど入れないかな。俺は未練タラタラだから、昔の仲間を忘れられないんだ。今の部下達も見捨てられないしね」
不意に思いつき、尋ねるが、断られる。一行の皆が「アレストさん/アレスト/オーナさん/オーナが仲間になってくれればな」と口にする機会はこの時点で大分増えた。魔王軍との戦闘も増え、腐敗貴族との対立もあり、様々なトラブルに巻き込まれてきた。
そのなかで魔法が扱えて、戦闘も出来て、盗みも出来て、頭も良い。そんな彼が欲しいと皆が口を揃えて言った。でも、誰が誘っても彼はうんとは言わなかった。まあ、今考えれば、彼は魔王だったのだから、勇者の仲間にならないのは当然だと思う。
「部下って、コゥルくんが会ったレオナさんのことですか?」
「そうだね。一応、そのレオナを筆頭にカレンとかもいるはいて。先輩から任された人達だから放っておけない」
「沢山、仲間がいるんですね」
「……仲間って今のままでも言ってくれるのかなぁ、ユミさん」
薬草を拾っていた手を止める。その名前の呼び方に覚えがあった。薬師の仲間達がそう呼んでいた。歴代最高の薬師「ユミラ・ミグ」のことを。
「ああ、そうだ。これ、良いように使えないかな」
「ちょ、これ、もしかしっ!」
「門外不出だから」
ワタシがアレさんの方を向けば、彼は自分の腰に付けていたポーチから一冊の手帳を取り出し、ワタシに渡す。ワタシはそれを見て、目を大きく開く。
──――ユミラ・ミグ、ユミさんの手帳だ。先代勇者一行の薬師と言われた人物の紛失した分析手帳。
どうして、あなたが、と思いながら彼の顔を見れば彼の顔は酷く悲しそうだった。何かを言おうとして、結局口を固く閉じてしまった。
「何も、何も言わないよ。何も言えない。でも、ただ一つ、言えることはある」
ふっと、彼の口が開かれる。悲しそうにしていた顔が、穏やかな顔になる。ワタシの手を優しく掴んで彼は言う。
「ユミさんを追い越すためにしっかり学ぶんだよ」
その言葉がワタシを一生励ます言葉になるだなんて、彼は、アレさんは、魔王アルレストは一生思いもしなかっただろう。




