エピソード5:魔法使い
「コゥル、それ、ブースティングストーン?」
「……まあ、そう。オーナから2ヶ月前に貰った」
「……? それ、先代勇者一行の盗賊アクセルのなのに? どうして、アレストさんが?」
「2ヶ月前に入った屋敷にあって、オーナとそのお仲間さんが見つけて俺様に渡してきた。使い方、話し中だから話しかけんな」
「はーい」
僕が彼としっかり話をしたのは冒険を始めて、半年が経った頃のころだった。
その頃、コゥルは時間があればブースティングストーンを空に翳したり、握ったり、地面に投げつけたり。「それ」を弄っている間、彼は喜怒哀楽豊かだった。「それ」が意思を持っているかのように彼は接していた。
僕達ですら、見ることができていなかった彼の表情を先代盗賊の遺品が引き出しているのが何故かモヤモヤした。
「コゥルさんが感情豊かなのが気に入らない?」
「…………アレストさん、僕の背後に立つのはやめてくれません?」
「癖なんだよ、ごめんね、ユーグくん。次回からはしないように気を付けます」
僕達勇者一行の前に度々姿を現す正体不明の人物、アレスト・オーナ。サラやマリナが懐く人物。サラ曰く、治癒魔法を使え、コゥル曰く、敵には容赦ない人物。今考えれば、あまりにも怪しい人だった。後々で魔王アルレストだと明かされたときに納得してしまうくらいの不審人物だった。
「マリナやサラ、コゥルから色々あなたに関する話を聞きましたよ。明らかに一般人じゃないですよね? 治癒魔法使えるってことは教会の人かなぁと思ってたんですけど」
「使えるのは治癒魔法だけじゃないですよ」
「は?」
ブースティングストーンと話をするコゥルを横目に僕の背後から横に移動したアレストさんに視線をやる。他の仲間達は野営のために焚き火の薪を集めたり、訓練したり、水を汲みに行ったりとバラバラに動いていたから、ちょうど人に聞かれたくない話をするなら今だ、と思った。
アレストさんも同じことを考えていたのか、僕の言葉に指を鳴らす。
「──――、火炎に氷麗、風雪、死霊魔法……?」
「正解。皆から少しずつ、貰ったからなぁ。イリさんも、タカ師匠も、ジャッドも、カレンも、押しつけてきて。善意なんだろうけど」
彼の指先から真っ赤な炎が発される。その直後、炎は僕達二人の側にだけ発生した風雪によって姿を消す。代わりにアレストさんの掌の上に小さな氷のウサギが生まれる。そして、視線を感じ、彼の背後に視線をやればそこには一瞬だったが、一週間前に倒した魔人ジャドの姿があった。滅茶苦茶、ジャドは中指を立てていた。
いや、倒し方が僕の火炎での完全滅却だったからって、中指立てるのは酷い。
「イリさんって、アグラス先生のことですか?」
「そう。イリさんって、誰に対しても自分の魔法分けてたでしょう」
「いや、まあ、確かに、うん、まあ、死ぬ直前なんて特にそうでしたけど、っていや、まず、どうしてあなたがイリさんから?!」
ジャドに向けていた視線をアレストさんに戻す。
この時点ではとんでもない死霊捕まえた人だななんて思っていた。だが、よく考えれば魔王アルレストなんだから魔人の死霊を捕まえるなんて簡単なことだった。そして、先代勇者一行の魔法使いイリナス・アグラスの名前に気を取られ、「ジャッド」が「ジャド」のことだって、気付けない僕は本当にバカだと思う。
「なんでだろう。気まぐれかな」
「……先生ならやりかねない」
自由奔放、奔放だった先生を思い出す。先生なら魔法を要らないからと押しつけて他人に渡しそうだなと思ってしまった。アレストさんも僕の気持ちが読めたのか、困ったように笑っていた。
「でも、そんな彼だからこそ、君に眼を掛けたんだろうね」
「それ、嫌味ですか?!」
「違うよ、褒め言葉だよ、ユーグくん」
このときは彼が言った言葉の意味なんてあまり深く考えなかった。
そのときの彼の顔なんて見ていなかった。
「僕がもう少し弱かったら良かったのに。ごめんね、ユーグくん」
「何への謝罪です、それ?!?!」
彼の謝罪が魔王アルレストとしての言葉だと気付いたのは魔王アルレストが死んでからだった。




