エピソード10:望まなかった未来
魔王城玉座の間
「……あんた、確か、オーナの部下の、レオナ、だったよな」
「お久し振りですね、コゥルさん」
目の前にいる血塗れの魔人は、コゥルにレオナと呼ばれた彼はコゥルの言葉に静かに穏やかに笑みを浮かべ、ボク達の前に立つ。この場に似合わない、優しい、穏やかな、笑み。
なんで、どうして、今、笑っていられるんだ。
魔王アルレストを殺した姿のまま、笑っていられるんだ。
「何故、何故、魔王の配下であろう者が魔王を殺すのです!」
マリナが声を荒げる。言っている内容は尤もだ。正論だ。
魔王の配下が魔王を殺すなんて有り得ない。況してや、アレストさんの、魔王アルレストの部下ならば、そんな残酷なことするはずがない。
「何故? はっ、笑わせますね。勇者一行ともあろうに」
「随分と舐めた口を利くな、魔王秘書レオナ」
「流石、暗殺者サラ。私の立ち位置まで把握しているとは」
「理由は、なんだ」
「───殺したかったから。それだけではいけませんか? 殺してくれと願われたから。それではいけませんか?」
サラの言葉への返答として、レオナさんの口から静かに発された、その言葉にボク達全員の息が一瞬止まる。
空気が、凍る。
殺してくれと願われたから?
「まあ、今のあなた達では分からないでしょうね。甘やかされて、守られて、何も知ろうとしないあなた達には分からないでしょう」
「何を、言って、」
ニコリとレオナさんは笑った。
「……あなた達は最初から最後まで勇者一行だった。でも、だからこそ、あなた達はアレスト・オーナには勝てない。だって、彼はもうこの世界にいないんだから!」
その言葉は酷く、酷く、ボク達の胸を抉った。
「もう、話すことがないのであれば失礼します」
「っ! 待て!!」
「…………たかが魔法使い風情が私を止められるのですか?」
「防衛魔法に、転移陣っ?!」
動けなかったボクとは違い、ユーグは魔王アルレストの遺体を抱き上げ、立ち去ろうとするレオナさんに向かって拘束魔法を放つ。瞬間、拘束魔法はレオナさんの手間で防衛魔法に弾かれた。さらにはレオナさんの周囲に転移陣が展開された。
何者、なんだ、彼、は。
「もう二度とあなた達と会わないことを願います」
彼は呆然としていたボク達にそう言い残し、姿を消した。
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「おお、遂に魔王が討伐されたか!」
「何事もなかったか、一行よ」
「素晴らしい! よくやった!」
「死んだのか!? あの魔王が!?」
魔王アルレストが死んだ日から数日後。
ボク達は各国首脳陣に魔王が死んだ旨を国際会議の場で直接伝えた。レオナさんが魔王アルレストを殺した事実は伏せた。
その事実はあまりにも非現実的で、あり得ないものだったから。
「何もなかったか、勇者サライス」
「…………ありません、陛下」
ユミラ・ジオ・レイガリー・ミーシリア国王陛下は感情の読めない顔でボクの顔を見る。
「会議中、失礼いたします。サライス様宛にお手紙が参ったのですが」
「誰からだ」
「……それが、」
「それが?」
「魔王アルレスト、と」
その言葉に騒がしかった議場が一気に鎮まる。亡くなった今、届くはずのない人物からの手紙。
手紙を受け取り、開く。ごく普通の封筒にごく普通のおしゃれな便箋。数年前に流行っていた柄じゃなかったっけと働かない頭の片隅で考える。
そんなことを考えながら、手紙を読む。
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勇者サライスくんとその一行へ
お久しぶりです。とは言っても、既に君達がこの手紙を読んでいるとき、僕は既にレオナによって殺されて死んでいるでしょう。
レオナにも君達にも僕は許されたいとは思っていません。迷惑をかけ、苦労をかけ、苦しませてしまったこと、本当にごめんなさい。
ただ、僕は人として争いを無くしたくて、って言うのは言い訳で、俺は魔王を生み出したくない、ってそうは言っても結局、皆に迷惑をかけて。
最終的に魔王としてさえ、何もできなかった。ただただ、魔王軍の皆にも迷惑をかけて、苦しませて。
でも、でも、最後の勇者が、勇者一行が君達で良かった。僕は君達に会えて本当に良かった。
最後に、元勇者アレスト・オーナとして。
僕を倒してくれてありがとう。
勇者アレスト・オーナ 改め 魔王アルレストより
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魔王アルレスト改め、アレスト・オーナ。
いつか、彼が言ったその言葉。その言葉の真実を知り、今までの全ての違和感が解かれた。
彼の強さも、性格も、言葉も、知識も、意味ありげな言動も、願いも。
全てが彼を先代勇者アレスト・オーナだと証明するに相応しいであろうことに。
……ボクは今でも後悔している。この真実に何故、気付くことができなかったのだろうと。
……魔王アルレストとは、アレスト・オーナどのような人物だったのだろうか。
今、それを知る術はない。
何故なら、彼の全てを知る者はただ一人を除いて、今はもういないのだから。
(完)




