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エピソード9:魔王

「あ、アレストさん。お久し振りです」

「本当に久し振り。数ヶ月ぶりかな」

「2か月と5日は会っていない」

「サラくんは容赦なくなってない?」

「あら、あなたに容赦する必要が私達にあって?」

「うーん、マリナ嬢もいよいよ、手加減がなくなってきたな」


 勇者一行としての旅を始めて一年と7か月ほど経った日。その日は運命の日だった。


「それにしても会わないうちに皆強くなったなぁ。魔王軍もそこそこにやられてるとは知ってたけど、会わない2か月でここまで強くなるとは」

「もしかしなくても鑑定魔法使ってます?」「ますます。察しが良くて何よりです〜、ユーグくん」


 魔王城まで残り1か月ほどで着くという場所。魔王軍との戦闘もそこそこにやり、魔人達も有力な者達はある程度、倒した頃。

 勇者一行として名乗るにも相応しくなってきたなと思っていた頃を明らかに狙って彼は来た。


 ルイスと一対一で話した後から現れなくなったアレストさん。ルイスから話した内容を聞いた2か月前は何でだろう、なんて思っていたけれど今になると分かる。


「今日は君達に言うべきことがあってね。あと頼み事も少し」

「何だよ、うざってぇな。さっさと言えよ」

「なんか、アレさんに真面目な顔で言われると背筋がこう、ピンってすような」

「コゥルさんもシュンさんも僕に興味ないな?」


 2か月間会わなくても、それまでに多分に会い、話し、拳を交わしたボク達の会話は慣れた調子でトントン進んでいく。

 彼の、アレストさんの運命が魔王アルレストとして固定される瞬間だったのに。


「改めて自己紹介しようかと。今しか、タイミングがなくて」

「オーナ、さん、」

「では改めて」


 彼はルイスさんの言葉を遮りながら、いつもと変わらない笑顔で。優しく、穏やかな笑みのまま。


「アレスト・オーナ、改め、魔王アルレスト、だ。ねぇ、勇者、レオナのことを頼むよ。彼は優しいんだ、あまりにも」


 その言葉はあまりにも想定外で、でも、そのときもその言葉にどこか納得してしまった。


「……あー、え? ……あー、言われれば。そっか。そりゃそうか。はい、分かりました。レオナさん、ってコゥルが会ったって言ってた部下の人ですよね。了解しました」

「だから、テメェ、あんだけ強かったのかよ!! そりゃ、魔王なら強いわな!」

「強さについてはルベルに同意です。でも、魔王が誘拐、されてたって今思うと中々情報量、あるわね」

「…………だろうなとは思ってました、オーナさん」

「皆、反応うっす」


 正直、魔王アルレストがアレスト・オーナと名乗って敵情視察で勇者一行に接触してましたと言われても納得してしまうくらい、彼は凄かった。強かった。

 あと、彼が魔王アルレストだとしても今までの彼の対応から、明らかに彼が魔王であっても敵意がないのは分かっていた。

 戦いなくない。彼がそう考えているのは皆、察していた。


「…………まあ、正直、これから、サライスくん達が魔王城に来るのは分かってた。だから、後腐れをなくしたくて会いに来た」

「……戦わない選択肢はないんですか」

「ない。僕が死なない限りは終わらない。それは勇者一行であれば、全員、分かっているはずだ。そうでなければ滅ぼしていたところだよ」


 魔王アルレスト。彼はそう称されるに相応しい人物だった。

 優しく、穏やかな笑みを浮かべながら、言葉ではボク達に自分を倒すように誘う。

 滅ぼす。勇者一行に対して、そんなことを真正面から言えって。実際にそうできる実力を持つのは彼だけだった。


「魔王城に来い。そして全てをその目に刻んでくれ」

 ──最(・)後(・)の勇者一行たれ、勇者サライスとその仲間達。


 彼は最期の最後まで勇者(魔王)であったのだとこのときのボクはまだ、微塵も気付いてはいなかった。

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