#19
デパートに入って何をするか。僕としては、同行人の用事が済むまで本屋で立ち読みするか、ベンチに寂しく座るかのどちらかである。
人と廻るなんて考えは無い。面倒だし、趣味合わないし、家族以外来る奴がいない。そんな家族でさえ、数年は一緒に買い物してない。
「伊折君、早速だしゲームセンターにでも行こうか」
「ゲーセンだと?下原にあったのか...」
「私よりこの辺にいる期間長いのに、そんな事も知らないの?多分その辺の灯台でも知ってるよ」
「身近じゃないって事だろ」
「む...これは私のミスだね」
久々に揚げ足を取れたのはともかく、何故かゲーセンに誘われる。流石現代、デートの頭からゲーセンか。
少し拗ね気味の白渡に連れられ店に入る。電子音や機械音声で耳が痛いのだが、こいつは気にならないのだろうか。
「一応聞いとくけど、何か得意な遊びはある?」
「修学旅行に行ったとき、ワロルディが出るカプセルトイを6、7回ぐらい回したが」
「伊折君とは遊びの定義が違うみたいだよ、やはり君はゲームセンターと縁のない人生を送っているんだね」
そんな話をしていると、エアホッケー場に辿り着く。
「伊折君、せっかくだしこれでもやろうか」
「えぇ...僕の動体視力は落ちに落ちたぞ」
「卓球のブランクは同じぐらいだよ?早くマレットを持って」
この持つのマレットって言うのか...そう思いながら台の端に立つ。
実際のところ、中学の部活レベルの卓球なら動体視力が無くても少しは勝てる。サーブが取られなければ負ける事は無いし、用具にお金をかければ初見殺しも出来る。しかし、3回戦とかを越えるとそうもいかない。
全国目前まで行った白渡相手でも同じだ。こいつの強さは異様な反応の速さと力強いレシーブにあった。
「じゃ、行くよ?」
「...はぁ、お手柔らかに」
腰を屈める。
卓球で蹂躙されたあの頃を思い出す。負け戦だとは分かっているが、白渡に言われては仕方ない。