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フツメンに生まれたかった…  作者: 橘アカシ
新しい始まり編
9/63

青葉(…)争奪戦!?



俺は今とてつもなく感動している。ふわっふわのだし巻き卵に、野菜入りミートボール。定番の唐揚げ、金色に輝くきんぴらごぼう、人参と椎茸の煮付け、付け合わせのミニトマト、に見せかけて肉詰めだったのにはいい意味で騙された。ご飯もただの白米ではなく上に梅干しと昆布が乗っているのが心憎い。大きめの弁当に隙間なく並び綺麗に盛り付けられていた。

夢にまで見た理想の弁当がそこにはあった。

「……本当に、食べていいのか?」

「もちろん。二階堂くんに作ってきたんだから食べてくれないと余っちゃうよ」

恐る恐る確認をする俺に青葉は菩薩の微笑みを浮かべて箸を手渡してくれる。俺はそれを受け取りいただきますと手を合わせ箸を構える。

「召し上がれ?」

青葉が冗談のように言いそれを合図に俺は出し巻き卵に箸を伸ばしその勢いで口に放り込む。噛んだ瞬間口いっぱいに出汁の旨味が広がり、俺は無言で身悶えた。

「どうかな?まずくはないと思うんだけど…」

青葉が不安そうに聞いてくるが答える余裕はなかった。答える代わりに俺は続いて唐揚げを頬張る。こちらは冷えているにも関わらず揚げたてのようにカリッとして肉汁が溢れ出す。

なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ!?うますぎるだろう!想像以上の味に俺は箸が止まらなくなった。

そんな俺を青葉が嬉しそに眺めてることにも、クラス中が羨望と嫉妬の目線を送ってきていることにも気づかずに。

この至福の時間に辿り着くまでの死闘も今なら寛大な心を持って許せるだろう。



転校生が来た翌々日。青葉が約束通りに弁当を作ってきた。

「はい。これ。口に合うか分からないけど」

四限が終わり昼休憩に入って早々青葉が弁当を持って俺の机までやってきた。とうとう来たか!と期待の眼差しを青葉が持つそれに向けて俺が何か言う前に隣の席からから横槍が入った。

「まさかそれは……っ!?青葉さんの手作り弁当ですか!?」

その一言は決して静かではなかった教室に響き渡り教室中が俺たちに注目した。まだクラスに残っていた化学の飯沢先生も興味津々で生徒に混じっている。

「え、あ、…うん。そうだよ」

「やっぱり!お弁当が二つ……もしかして一つは僕っ」

青葉はなぜか気まずそうに返事しているが俺はそれどころではなかった。

「おい、転校生。なに大声で暴露してんだよ!」

何かを言いかけた天野さんを遮り弁当を隠すように青葉の前に立ち塞がった。クラスの女子が肉食獣の目をして俺の弁当を狙っているのが分かる。目の前にいるこの美少女も同じだ。天野さんもまた親の仇を見るような目で俺を睨みつけてきた。

「口を挟まないでくれますか。僕は青葉さんに話しかけてるんです。関係ない人は引っ込んでてください」

「はあ?お前がしゃしゃり出て来たんだろ!他の女子とさっさと食堂行けよ!」

「僕は青葉さんとお昼を食べるんです!あなたこそ僕と青葉さんの視界から消えてください!」

ここは早急に追い出さねば俺の取り分をぶんどられそうだ。女子がじりじりと近づいてきている。どのタイミングで接触しようかと間合いを図っているのが手に取るようにわかった。この際恋だの美少女だのは置いといて青葉の弁当は死守せねばならない。今は天野さんだけだが他の女子が参戦してきたら俺に勝ち目はないだろう。数というのは時に正義をも陵辱して勝者の椅子に君臨する。敗者はその足元に平伏し泣きながら泥水を啜るのだ。しかし!俺の弁当に対する情熱はここで屈したりしない!!

「青葉は……俺のだ!!」

あ、間違えた。青葉の弁当と言おうとしたのに言葉を抜かしてしまった。……まあ、いいか。意味はそんなに変わらないし。俺の中で青葉=弁当の方程式が出来上がっている頃クラスはしんと静まり返り目の前の少女と言えば…あんぐりと口を開けてあほ面を晒していた。

何故だろう。素材は一級品なのにだんだん残念な子に見えて……いや。気のせいだろう。俺の初恋が二日で終わるとかありえない。

「うそ……ですよね?青葉さんがこの男のものなんて……」

天野さんは信じられないものを見るような目を青葉に向ける。その問いかけにいち早く正気に戻ったであろう青葉は機会的に口を開いた。

「エット……二階堂くん?」

振り向くと若干涙目で見上げてきたのでまさか天野さんに譲る気だったんじゃないかと目を眇める。

「俺のだろう?」

青葉は肩を揺らして壊れたからくり人形のようにこくこくと頷いた。

「ほらな。もういいだろ。青葉、弁当食うぞ」

いつもなら食堂に向かうところだが今日はなんと言っても青葉の弁当だ。移動する時間も惜しいため机を二つくっつけてそこで食べる。ちなみに前の席の高坂はとっくの昔に避難していたため遠慮なく使わせてもらった。受け取った弁当の包みをいそいそと開ける俺を見て何故だか青葉は苦笑を漏らした。高校生にもなって弁当一つではしゃぎすぎただろうか。ちょっとだけバツが悪い思いをしたが弁当の蓋を開けた途端全部吹っ飛んだ。

理想の弁当を作ったのは理想の彼女ではないけれど俺の腹と心は十分に満たされた。優しい味付けにこの時ばかりは青葉を囲む美少女たちの気持ちが分かった気がした。





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