君は時々心臓に悪い……
青葉視点です。
今日はいつもよりちょっとだけ早起きした。
知らず鼻歌を歌っていたようで“ご機嫌ね。いいことあった?”とお母さんに指摘された。
お弁当を盛り付けてると“おっ?今日は豪勢だなあ。なんかいいことあったのか?”とお父さんにまで突っ込まれた。
包んだお弁当を渡すと“お兄ちゃん顔が緩んでるよ。お弁当も気合い入ってたし彼女でも出来たの?”と妹に半眼で睨まれた。
友達に頼まれたんだと言ったらその友達は女の子かと聞かれ、男の子だよと答えたらお母さんとお父さんはがっかりして、妹は喜んだ。
不思議な反応をする家族は置いといて僕はやっぱり浮かれてたのかもしれない。
目の前で一心不乱に僕のお弁当を食べる二階堂くんは一見、険しい顔をしているけれど眉間に皺を寄せるのは彼が集中している時の癖だと短い付き合いの中で気づいた。
喜んでくれているであろう二階堂くんを見てあの時言って良かったと改めて思う。
『男のくせに料理とか女々しいやつ。そんなんだから友達出来ないんだよ』
いつの日か侮蔑と共に僕に向かって放たれた言葉。確か女の子たちと趣味の話になって僕が料理と答えた時のことだった。女の子たちは褒めてくれたけど、僕らの会話を聞きつけた男子たちが口々に嘲笑った。すぐに女の子が『そういうこと言う奴の方が女々しいのよ!』と反撃してくれたけどその言葉は僕の中で抜けない小さな棘として残っていた。そう昨日までは。
二階堂くんは珍しく感情を滲ませてお弁当に執着していた。僕のお弁当を羨ましそうに見るものだからついつい作ってこようかなんて口を滑らせてしまったのだ。
男が料理なんて二階堂くんにまで軽蔑されたらどうしようと不安になったのは一瞬。二階堂くんはいつになく真剣な表情で本当かと迫ってきた。
そこに軽蔑ではなく期待と歓喜の色を見て僕の中にあった棘は綺麗に溶けてなくなった。きっと二階堂くんはそんな僕に気づいていない。
頼んだと言って爽やかに笑う君に僕を含めた周囲の人がその笑顔に見惚れていたことにも気づいていないのだから。
気づいていないと言えばもう一つ。
二階堂くんは大抵、言葉足らずだ。前後を飛ばして相手に伝えたい部分だけを言葉にする節がある。大体は会話の流れから読み取れるけれど、さっきのは……。
思い出すだけで顔に血がのぼるのが分かった。慌ててぱたぱたと仰ぐも二階堂くんは僕には一切目を向けず黙々とお弁当を食べている。僕のお弁当を気に入ってくれてるというのは嬉しいけれど、どこか釈然としないのは僕が欲張りなのだろうか?お弁当のことだと分かってても跳ねてしまう心臓は悪くないと誰にでもなく言い訳してみた。
もうちょっとだけ言葉を選んで欲しいなという僕の思いを酌んでくれるはずもなく二階堂くんは更なる爆弾を落とすのだ。
「そうだ。青葉、今度の日曜日俺ん家来ないか?」
お弁当を食べ終わって満足げに手を合わせた二階堂くんはやっぱり眩しいほどの笑顔を浮かべていた。




