エンジェル・キスは片手間で
片手間で読んでくださいう
———青い空に白い雲……ああ、なんて良い天気なんだろうか。
……というナレーションが流れれば、大体の人間は
1.空を見上げる
2.好青年
を想像するだろう。その手では決して届くことのない無限の蒼に向けて、想いを巡らす青春只中の好青年を———
その想像は、半分正解で半分間違いだ。ああ、間違いなのは、2.好青年の部分ではない。1.空を見上げる、の部分だ。
天使の奇跡《浮遊》を使用し、100km離れた高校へと登校するのは、僕こと烏井 透である。この奇跡を1ヶ月ほど前に使えるようになってからというもの、僕の生活はガラリとその色合いを変えた。
まず、満員電車に乗らなくていいこと。僕の暮らす家は、事情があって高校から遠く離れており、オマケに交通の便も悪いと来た。想像してみてほしい。プレハブみたいな無人駅に、二両編成の電車が一時間に一度しか通らない光景を。一本遅れたらそれこそアウトだし、だからと言って「一本分早く駅に行こう〜」なんてことをしようものなら、一時間早起きしなければならない。
そもそも、登校に2時間も掛かるのがおかしい……まぁ自分で選んだ学校なんだけど……
———なので、今はとんでもなく楽だ。登校自体にかかる時間はわずか30分ほどに短縮された。
それに、浮遊するからと言って、別にヒーローみたいなポーズを取って飛ばなければならないワケでもない。
はたまた飛んだから急激に体力を消耗するみたいなデメリットがあるワケでもない。おいおい、いい事ずくめじゃないか。
なので、しばらくはこの謎の力の世話になることとしたいワケだが———どうも、今日のモーニング・フロート・クルーズは気が散ってしょうがない。
———さっきから僕のことを超スピードで追いかけてくる謎の影が、背後にあるのが原因だろうか。
この感じは鳥でもない、蝶でもない、妖精でもない。
「……コラ烏……ま、待ちなさ……」
どうやら、その声には怒りの色が混じっているようだ。そして、僕はこの怒声を聞くのは初めてではない。軽く、飛行のスピードを上げる。時速100kmを超えた辺りだろうか。
僕が浮遊のスピードをほんの少しだけ上げると、背後の声がみるみるうちに近づいてくるのが感じられた。やべぇ追いつかれ……
その時だった。
「どおりゃああああああ! 奇跡返せッ!」
怒髪衝天とはこのことを言うんだ……と思わず頷きたくなるようなインパクトタップリの顔面と、そこから発せられたガキ大将顔負けの叫び声とともに———
「んむっっっ」
僕の唇は儚くも奪われたのであった。




