表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

第7話「魔女は賭けない」

 セント・グロリアスには空高くビルがそびえていた。あちこちでピンクや水色の魔導石の電灯が灯り、夜なのに道行く人々の顔がハッキリと見える。俺の生きた時代から、更に二百年分発展したと言われても納得の光景だ。

 ルリュイアがこの地の主について語る。


「アデラ様は怪盗出身の聖女様です。お金持ちから奪った財を貧しい人に配る義賊で、一代でこの街を築きました。賭け事が大大大好きで、盗んだお宝を元手に富を増やしたという伝説もあります」

「それ聖女じゃなくて悪女だろ、普通に」

「もー! 思っても言っちゃダメなのですっ!」


 ルリュイアはカンカンに怒った。俺の中で聖女=敵の図式はとうに固まった。撤回する気はない。

 フードを目深に被って街へ入ると、いきなりゴロツキが出迎えた。


「ぐへへ……お嬢さんたち、俺たちと遊ばな……ぶへっ!」


 迷わず顔面をぶん殴ってやった。


「アデラの所に案内しろ」


 残った男が血相を変えて先を歩き出す。繁華街を越え、カジノに着いた。深紅の絨毯と黄金の灯りに彩られたゴージャスすぎる空間。入ろうとすると黒服に止められる。


「あなたは指名手配の『黒歌の魔女』ですね。お引取りください」

「んだとぉ!?」


 揉めていると、人垣を割ってドレス姿の美女が現れた。


「あたいは聖女アデラ。この街の主さぁ! 面白そうだから見逃してあげなよ」


 彼女の一言で支配人は退がった。この世界では、聖女の意見は法律より優先される。


「ん? おチビちゃん、随分上等なお宝を持ってんじゃあないか。その魔導書は金貨五千枚のお値打ち品。さぁ、そいつを賭けて勝負だ!」

「はわぁ! あたしですかっ!?」


 名指しされたルリュイアが飛び上がる。俺はすかさず庇った。


「この子はカジノにも入れん子供だ。やるなら俺がやる」

「そうでした! ニル様、ファイトですっ!」


 警備員に外へ連れられながら、ルリュイアはファイティングポーズを作った。

 客の身分はまちまちで、上等なスーツの者がいればボロ布同然の服をまとう奴もいる。どいつもこいつも目がキマっていて、「ここで勝つしか生きる術がない」という面持ちだった。


「ルーレットでもバカラでも好きなのを選びな」

「……ルーレット。俺が勝ったら何をくれる?」

「何でもくれてやるよ。この街丸ごとだってな!」


 群衆から「冗談じゃない!」と野次が飛ぶ。だがアデラは意に介さない。


「俺が欲しいのは、聖女を生み出すアーティファクトの情報だけだ」

「いいねぇ! 金にこだわらないとこ。さぁ、勝負だ!」


 ディーラーが魔導書の価値ぶんのチップを積み上げる。盤が回り、銀の玉が走り出した。

 俺は赤の一列へ流す。アデラは黒の「17」へ山ごと押し出した。

 玉は縁を滑り、二度跳ね、17に収まる。

 二回目、アデラは「4」。当たり。三回目、「31」。また当たりだ。四回目で俺の手持ちが空になってしまう。


「おかしいだろ、この当たり方は!」

「あたいは豪運なのさ。これも実力のうちだねぇ」


 ふと、カジノの空気が歪む。

 俺には視える――聖歌の旋律だ。

 アデラは小声で歌い、確率を捻じ曲げていたのだ。


「おい! こいつイカサマしてんぞ!」


 客は誰も頷かない。


「証拠を見せてやる。もう一回回せ」


 アデラが堂々と「11」に置く。玉が走り出したところで、俺は背後から掌で彼女の口を塞いだ。

 宙に引かれかけた五線譜がちぎれる。銀球は二つ隣の22へ転がり込んだ。


「んっ、んーっ!」

「次は離してやるよ」


 もう一度回す。

 唇が動いて線を引き、玉は11へ落ちる。

 三度目。塞いだ。ハズレ。

 四度目。離した。当たり。

 暴いてみれば実に単純な仕組みだった。


「そういう能力ってこった」

「ちっくしょ~~!!」


 人々の眼差しが激怒に染まる。

「何が聖女だ!」「ペテン師め!」「よくも俺たちを騙しやがったな!」大ブーイングが飛び、アデラはテーブルに突っ伏した。



***



「まだだ。まだあたいは負けちゃいない!」


 聖歌を看破してもアデラは立ち上がってきた。「往生際が悪いぞ!」と野次が上がる。街の長としての信頼はとうに崩れているのに、恐ろしい勝ちへの執念だ。


「こうなったらロシアンルーレットで勝負だぁっ!」


 彼女が懐から拳銃を取り出し、弾丸を一発込めて弾倉を回した。銃口がこめかみへ向く。


「悪ぃな。銃撃戦は俺の十八番だぜ!」


 旋律をなぞる。黒い五線譜が円を描き、掌へリボルバーが落ちてきた。

 引き金に指をかけ、緊張が頂点に達したその時――


 ドッカアアァァン!!!


 カジノが大爆発した。

 瓦礫の隙間から、誇らしげな顔のルリュイアが現れる。


「ニル様、お助けに参りました!」


 周囲には魔法陣の跡。

 やるじゃん、ルリュイア。

 と心の中でガッツポーズした。

 結局、勝負はうやむやのままアデラは崩れた天井の下へ消えた。

 無傷だった客が縋りついてくる。


「魔女様! 新市長として何か一言!」

「俺たちを見逃せ! それだけだ!」


 市長なんて冗談じゃない。

 ルリュイアと二人で繁華街を飛び出した。


「ふぅっ、何とか助かりましたわね」

「……だな」


 ついでに大金を掠めておいた。今後二ヶ月は食うに困らない。

 ……ところで、この世界に『ロシア』という国は存在しないはずだ。

 ならばなぜ、アデラは『ロシアンルーレット』なんて言葉を口にしたんだ?

 この世界は、俺たちに壮大な何かを隠している……。

誤字報告などはお気軽にどうぞ。


感想・ブクマ励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ