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第4話「天使を撃つ魔女」

 そのリノンという姉は、ルリュイアよりも更に小柄な女の子だった。身の丈に合わないほど大きな三角帽を被り、上等なローブの裾を床に引きずっている。ルリュイアの姉のはずだが、銀髪のボブカットにローズピンクの瞳、気の強そうな顔立ちは似ても似つかない。血縁のない、義理の姉妹なのだろうか。


「ルリュ、模擬戦の時間だ。魔導書を持って庭に来い」

「もう、お客様の応対中ですよ? それにまだ、約束の15分前じゃありませんか!」

「うるさい! 私が来いと言ったら来るのだ!」


 な……なんだこいつ?

 ラシェルほどではないにしろ無茶苦茶な奴だ。

 聖女って全員こうなのか?


「来ないなら、孤児であるお前を、この家から追い出してやってもよいのだぞ」

「出ていけなんて禁止カードですの〜! もう、わかったから庭で待ってなさい!」


 やはり義理の姉妹であった。

 ルリュイアはこちらへ詫びると、魔導書を持って部屋を出て行ってしまう。

 しばらくして、窓の外から物凄い音が響いた。

 模擬戦が始まったのだ。

 召使いに道を聞いて中庭に向かう。すると、広い芝の上で姉妹が派手に魔術を撃ち合っていた。

 いや……正確には、リノンが一方的にルリュイアを追い詰めていた。

 リノンが放つ雨霰のごとき火の玉から、ルリュイアはちょこまかと逃げ回るばかり。聖女リノンの火球は、まさにこの世の法則そのものを操るかのように精密な軌道を描いていた。


 ど……どうする?

 俺が聖歌で異世界の兵器を召喚すれば一瞬でケリがつく。

 だが、ルリュイアは恩人だ。たとえリノンがどうしようもなく傲慢な聖女だとしても、恩人の義姉を殺す訳にはいかない。


「ニル様ぁ~お助けください~! あたしの大魔術は、成立に時間がかかるのですわ〜!」


 泣きつくルリュイア。せめて陽動だけでもしてやろうと、炎が吹き荒れる中庭の中心、二人の間に飛び込んだ。


「そこのお前もかかってこい! 二人がかりでも負けはしない!」


 挑発的な言葉に歯軋りする。

 リノンの火球が服を、肌を焼き焦がした。

 だが俺も聖女の端くれ。“半分神様”の肉体はさしたる苦痛を感じず、動きも止まらなかった。

 しばらく肉盾を演じても、ルリュイアの魔術が発動する兆しはない。長い長い詠唱が続くだけだ。


 (おいおいおい、どんだけ大掛かりな魔術なんだよ!)


 3分、4分、5分。

 飛んでくる火球をしのぎ続けるうちに、周囲に焦げ臭い匂いが充満していく。

 もう限界だ……と思ったその時。


 ドオオォォンッ!!


 凄まじい轟音と共に庭の地盤がせり上がった。

 リノンの身体が庭木や地面ごと吹っ飛ぶ。

 ルリュイアの大魔術は、本物だった。

 空中から芝生に叩きつけられ、倒れ伏したリノンは泣き出した。


「うわああぁぁぁん! 二人がかりとは卑怯である~~!!」


 先程と言ってることが真逆だ。

 我儘もここまでくると立派である。

 だが彼女の泣き声が五線譜となって可視化した瞬間、空気が一気に凍りついた。


(((奴らを引き裂けッ! エグリゴリ!)))


 聖歌の詠唱が天空に響き渡る。

 雲を割り、降り注ぐ光と共に異形の集団が現れた。

 白銀の鎧をまとい、背中に白い翼を生やし、頭部があるべき位置に光輪を浮かべる彼らは――天使だ。

 それぞれの手には剣や槍。

 冷酷なる切っ先を、ルリュイアに向ける天使達。

 剥き出しの殺意を見た瞬間、心に渦巻いていた躊躇が消えた。


「子供の喧嘩に、親が出るもんじゃないぜ」


 向こうがるつもりなら、っちまって構わない。

 俺は心の中にある異世界の兵器の名を叫んだ。


(((唸れ、M(エム)249(ニーヨンキュウ) SAW(ソウ)ッ!)))


 周囲に沢山の黒い魔法陣が現出した。

 陣の中央から突き出た機関銃が、自動で天へ向けて弾を乱射し、天使どもを蹴散らす。

 無機質な悲鳴が上がった。

 鮮血と金属片、白い羽根が虚空へ舞い散る。

 やがて天使の集団は、肉片一つ残さず光の粒となって消えた。


 ……終わった。

 聖歌の反動で眩暈じみた空腹が襲う。

 それでもメンツだけで地面に立ち続けた。

 ルリュイアはしばらく震えながら固まっていた。

 無理もない。姉妹喧嘩の末に義姉から化け物をけしかけられ、更にそいつらが得体の知れない武器で皆殺しにされるところまで目の当たりにしたのだから……。

 かける言葉を探しているうちに、彼女はやがて我に返ったようにリノンの元へ駆け出した。


「大丈夫ですか!? リノン姉さん!」


 ルリュイアは慌ててリノンを抱き起す。

 幸いにも、リノンは気絶しているだけだった。

 俺も()()殺さずに済んで、ほっと胸を撫でおろす。


「まさかニル様も聖女様だったとは思いませんでした。助けていただき、ありがとうございますっ!」

「いえいえ……」

「ところで、M249 SAWって何ですか?」

「え!? ええと……即興の必殺技名さ」

「か、カッコイイのですわ~!」


 俺自身もなぜ異世界の武器を知ってるのか、よくわからない。

 色々と腑に落ちないところはあるが、ルリュイアが目の輝きを取り戻したのでよしとした。

誤字報告などはお気軽にどうぞ。


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