第8話 罪を抱いて、夜を歩く
──ギルド本部、最上階。
裏務課を作り、
アリアを“処分対象”にした幹部たちの部屋。
レオンの足取りは迷いがなかった。
だが、怒りに任せて暴れるような歩き方ではない。
まるで、
決められた場所へ戻る亡霊のように
静かに、淡々と。
ギルドの職員たちは、
レオンの姿を見ると道を開けた。
誰も声をかけない。
誰も止めない。
レオンの背中には、
“何かが終わる”気配が漂っていた。
最上階の扉を開けると、
ギルド幹部たちが会議をしていた。
レオンを見るなり、
一人が眉をひそめる。
「レオン。今は会議中だ。
裏務課の職員が勝手に──」
レオンは言った。
「アリアの件だ」
部屋の空気が止まる。
幹部の一人がため息をつく。
「……まだ引きずっているのか。
あれはギルドの判断だ。
貴族との関係を守るためには──」
「守るべきは、冒険者だろう」
レオンの声は低く、静かだった。
幹部たちは顔を見合わせる。
「レオン。
お前は裏務課だ。
冒険者の影を処理するのが仕事だ。
冒険者を守るのは、表の部署の役目だ」
レオンは首を振る。
「違う。
裏務課は……ギルドが見たくない“現実”を押し付ける場所だ」
幹部の一人が苛立ちを隠さず言う。
「何が言いたい?」
レオンは静かに告げた。
「アリアを殺したのは、俺だ。
だが──
アリアを“殺させた”のは、お前たちだ」
幹部たちの表情が凍る。
レオンは続ける。
「ギルドは冒険者を守らない。
守る気もない。
ただ利用し、使い捨てるだけだ」
幹部の一人が机を叩く。
「黙れ!
裏務課の分際で──」
レオンは短剣を抜いた。
アリアの短剣。
その刃は、
月光のように静かに光っていた。
幹部たちは慌てて距離を取る。
「レオン!
何をするつもりだ!」
レオンは答えない。
ただ一歩、また一歩と近づく。
幹部の一人が震える声で言う。
「や、やめろ……!
お前がこんなことをしても──
ギルドは変わらんぞ!」
レオンは静かに言った。
「変わらなくていい。
ただ──
終わればいい」
幹部たちの顔から血の気が引く。
レオンは短剣を構えた。
「アリアを殺した罪を……
お前たちに返す」
その瞬間、
部屋の中に悲鳴が響いた。
だがレオンの動きは静かで、
無駄がなく、
まるで儀式のようだった。
幹部たちは次々と倒れ、
会議室は静寂に包まれた。
レオンは血のついた短剣を見つめ、
小さく呟いた。
「……アリア」
ギルド本部の最上階から、
煙が上がり始めた。
レオンが火を放ったのだ。
書類も、記録も、
裏務課の存在を正当化するための“嘘”も。
すべて燃やした。
ギルド職員たちは逃げ惑い、
街の人々は騒然となる。
だがレオンは、
その混乱の中を静かに歩いていた。
誰も彼を止めない。
誰も彼に触れない。
まるで、
この世に存在しない亡霊のように。
レオンはアリアの墓の前に戻ってきた。
夜風が吹き、
墓に置かれた花が揺れる。
レオンは短剣を地面に置き、
墓に手を触れた。
「……終わった」
アリアは何も答えない。
レオンは静かに続ける。
「ギルドは……もう持たない。
俺が壊した。
お前を殺した場所を……消した」
風が吹く。
レオンは目を閉じた。
「アリア。
俺は……これからどうすればいい?」
答えは返ってこない。
だがレオンは、
その沈黙を受け入れるように微笑んだ。
「……そうか。
俺は……罪を抱えて生きる」
レオンは立ち上がる。
その背中は、
もう“裏務課の亡霊”ではなかった。
だが、
“英雄”でもなかった。
ただ──
光を失った世界を歩く、ひとりの男だった。
レオンは夜の闇へ消えていく。
アリアの墓の前には、
静かに揺れる花だけが残った。




