1話 ギフト
〝Falgarn age〟
これは沈没都市が世界各地に建設されてから呼ばれた、この世界の時代だ。
沈没都市はAI〝MSS〟によって湾岸に作られた都市型の船である。
21ヵ国が、沈んだ湾岸と内陸の情勢を懸念し、沈没都市の建設を行った。
交通機関は潜水艇を大幅に占め、歩道も水面に浮かんでいる。
家電に及ぶ金属の資源回収と、テクノロジーの全てが集約されて完成された。
この都市の最も特徴的な点は治世が内陸の政治から独立しているところだろう。
内陸政府が一切干渉できないほど強力な都市であったが――
「人々の未来を繋げる」…その理念のために生まれた〝MSS〟は、Fage.18.を迎えた時、停止した。
しかし、沈没都市のキャプテンであった〝MSS〟が不在でも、残されたAI、テクノロジー、沈没都市の住民の能力の高さにより、沈没都市の強さは不変のまま維持をした。
一方、資源回収された内陸は、生活レベルが19世紀近いところまで落ち、沈没都市に憧れと恨みを持っていた。
そしてテクノロジーの結晶である沈没都市の住民は、資源が生まれる大地を守れない内陸住民に失望していた。
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Fage.44.
エジプト内陸。
ダハシュール付近で武装集団〝アロンエドゥ〟が40人ほど集まり、PPS-42やスオミKP-31などを空に向けて狂ったように発砲している。
彼らアロンエドゥは、沈没都市・ひいては〝MSS〟の存在が人と神の敵だと信じている。
アロンエドゥとして集まる兵士は、上記の信念を持っていれば誰もがアロンエドゥを名乗れる。
そのため、世界各地にこのような集団が大小の規模で歩き回っていた。
このアロンエドゥはあるものを手に入れようと躍起になっていた。
それは数年前から確認されている、〝魔法のような武器〟のことだ。
黒い雲と共に現れ、誰かがその武器を手に入れている。
武器の性能はそれぞれ異なるようだが、そんなものは捕まえてから確かめればいいと、殺す勢いで標的を追いかける。
激しい砂嵐の中、標的は鳥のように飛んでいる。
集団の一人が「絶対に取れ‼噂の〝ギフト〟かもしれない‼」と叫ぶ。
1940年代の武器ばかりをもつアロンエドゥより、遥かに装備レベルが上の一行が砂嵐の中を音も無く移動していく。
生体信号を読み取る軍用ゴーグルを使い、アロンエドゥたちを捕捉していった。
これはFageで確立したテクノロジーの一つで、〝MSS〟が沈没都市と内陸の力を大幅に広げた技術である。信号を発するあらゆるものを調整・制御したことで、この世界には〝エンドレスシー〟という信号世界が存在する。
FageのAIの〝本体〟が存在する場でもあり、電子機器を通して人間をサポートすることができる。
アロンエドゥたち――各人間から発する固有の信号を全て読み取ると、一行はHK416を構えた。
アロンエドゥが上空に向けて発砲する音に紛れ、次々と頭部を撃ち払っていく。
襲撃に遭っていると気づいたアロンエドゥの一人は声を荒げて仲間に知らせる。
通信機器を持たない彼らの意思疎通の方法は声か笛だけだ。
状況が行き届かなかった兵士が次々と勝手に発砲してしまう。
同士討ちが加わり、実はたった二人であった襲撃者によってそのアロンエドゥは壊滅した。
「マナ。あと5秒後に砂嵐がひらける。怪物にエンドレスシーは使えない。〝ラダル〟で躱しながら注意を引きつけてくれ」
アロンエドゥを壊滅させた――声は女性だが、男性に引けを取らない高身長の兵士が仲間へ指示を出す。
エンドレスシーを介して彼女の指示を受け取ったのは150㎝くらいの小柄な兵士だ。
マナと呼ばれた少女は自身の持つ〝ギフト〟を起動させる。
それと同時に、砂嵐が膨らみ、波のように吹き流れた。
快晴の青空。
そこには長い真っ白な髪をマントのように広げ、粗末な布を纏った幼女が浮いていた。
耳は細長く短い羽毛に覆われ、人間でないことが分かる。
マナが軍用ゴーグルを首元に下げると、肩につかないくらいの茶髪と同じ色の瞳が現れる。
迷彩服を着ていなければ、温和で整った顔立ちをした、ただの少女に見えるだろう。
マナに気が付いた怪物は、砂にかかるアロンエドゥたちの死体に力を向けた。
40人の死体と彼らの武器たちが怪物と同じ高さまで浮き上がる。
そして、マナに向けて過剰な重力を加えて落としていった。
マナはそれらに視線すら向けず全て走りながら避けていく。
〝魔法のような武器〟――総称してそれは〝ギフト〟と呼ばれる。
その一つを持つマナは、〝ラダル〟を起動させている。
驚異的な危険感知能力であり、五感全てがそのために機能するもの。
例え目が使えなくとも、風の動きや音の距離間で脅威が届く前に回避することができる。
マナはグロック18cに持ち替え、怪物との距離を感知し、死体の雨を避けながら発砲した。
小さい的だが頭部、頬、肩、胸、腹に当てた。
しかしマナは苦い顔を浮かべる。
怪物の身体に穴は開いたが、体内から黒い液体が銃弾を体外へ押し出し、穴は消えてしまった。
(怪物には人類兵器が通用しないって聞いてはいたけど…)
依然として、アロンエドゥの雨が止まない。地面に叩きつけては空に引き上げ、またマナを狙って落としている。
既知の情報なので驚きはしないが、彼女のギフトでは決定打にはならないので、命令通り注意を引きつけ、時間稼ぎに徹する。
マナに指示をした女性は後退し、遮蔽物として設置していた半球の盾に入った。
そこで軍用ゴーグルを外すと、妙齢の美形が顔を出した。
青みがかかる銀髪に雫のような瞳をしている。儚い印象を抱かせる外見だが、無表情で声質に暖かみがないため雰囲気は研ぎ澄まされたナイフのようだ。
その半球の盾には女性の他に少年が待機していた。
「ルカ。マナが怪物の注意を引きつけている間に近寄って、怪物の動きを止めるぞ」
ルカと呼ばれた10歳程度の少年は小麦色の髪にかかった砂を払っていた。
可愛らしい顔立ちだが、表情は凛々しいので女の子だと間違われることはない。ただ、不安そうに眉を八の字にすると可愛さが引き立った。
「ねぇニーナ。あんな風に空を飛べる怪物に僕の銀糸を巻きつけたら、僕、風船みたいに持っていかれない?」
ニーナは砂から目を守るため、ルカに軍用ゴーグルを装着させながら「大丈夫だよ」とさらっと言った。
「最後のツメは〝ヴィアンゲルド〟がやるからな」
〈ニーナ!そろそろ逃げそうだよ!〉
耳に取り付けた小型の通信機からマナの催促が聞こえた。
ニーナはルカに合図を出し指定の位置に走らせ、ニーナ自身はマナの方へ向かった。
マナとすぐさま合流し、威嚇と牽制射撃を繰り返して怪物の注意を引く。
怪物がマナとニーナに集中している隙に、ルカは両手の親指・人差し指・中指の銀の指輪から大量の銀糸を解いた。
銀糸を怪物に投げ付け、ぐるぐると絡めとった。
「よし。うまくいっ――」
ルカは少し頬を紅潮させて喜んだが、嫌な予感は当たり、足元が地面から離れた。
「わわわっ。ニーナ!マナー!」
大きな風船の紐でも持っているかのように、ルカの体はどんどん上昇していく。
「〝ヴィアンゲルド〟」
ニーナが通信機に向かって、もう一つの戦力に合図を出す。
傍らのマナは速やかにルカの真下まで駆けていった。
怪物がルカを振りほどくため大きく動こうとした時。
―――――ゴッッッッ‼
巨人が使うような金の三叉槍が怪物を貫いた。
怪物の身体が黒い糸が解けるように消えていく。
拳銃のような人類兵器は効かなくとも、ギフト同士は効果がある。
明らかに、ギフトのどれかだと怪物は察した。
金の三叉槍が飛んできた方角を瞳に映す。
おおよそ人間の視力では確認できない距離だが、怪物の目にはフードを深く被った誰かがいた。
開く口はもう解けて消えてしまい、怪物は上空から姿を消した。
「わぁぁ」
か細い声を上げたルカは怪物の消失と共に重力に従って落下する。
それをマナがしっかりと抱き留めた。
マナの肩を握りながら、ルカは地面でなにかを拾っているニーナにムッとした顔を向けた。
「大丈夫って言ったのに!」
嘘つきだと言わんばかりの抗議に、ニーナはやれやれと肩をすくめる。
「〝グラビティ〟と〝ヴィアンゲルド〟の戦力差は歴然らしい。あいつが仕留め損ねることはないよ」
だから大丈夫って意味だ、と言いながらルカの頭になにかをポンとのせた。
丁度マナの目線にあるもので、彼女は興味深そうにしげしげと眺める。
「どう見ても焦げた繭にしか見えないよね、これ」
ルカを降ろしがてらそれを手に取ってそう呟く。
〈でもそれはとても重要なものなんだよ。〉
通信機から柔和な男性の声が聞こえた。
〈まずは〝グラビティ〟の回収、ご苦労様。重力に干渉するギフトがあれば海面を走ることもできるよ。〉
「水面を走るトカゲを思い出しちゃうね」
マナがくすりと笑ってそう言うと、ルカもくすくすと笑った。
声の主も二人に合わせて〈うふふ。〉と微笑する。
〈一度拠点に戻っておいで。今後の方針を伝えるから。〉
三人は半球の盾を手早く片付け、砂にまみれた雑巾のような死体を置いたまま、その場から撤退した。
〝ヴィアンゲルドと呼ばれた人影はとっくに姿を消し、アロンエドゥたちの死体も内陸の死体拾いによって全て回収されたため、風と砂が争っていたようなそこには最終的になにも残らなかった。
―――――――――――
「私だけ日本?」
民家が密集する拠点に戻り、指示を受けたマナは目を丸くした。
石材で使われている家具はテーブルと椅子、そしてベッドの土台。ベッドはそれに薄い板を敷き、更に植物を編んだ敷布がかかっている。
今は午後なので灯りは使っていないが、天井からガラスに入った蝋燭が吊り下げられている。
マナは通信機をテーブルに置き、椅子に座ってふむ、と顎に手を当てる。
〝ギフト〟は特別な機能を人間に宿すが、その機能を全力で使うとギフトそのものに食われるとされる。
今回の〝グラビティ〟は宿主の人間を食いきってしまい、ギフトの機能が形を得ていた。それを彼女らは「怪物」と呼んでいたのだ。
怪物は人間がギフトを使うより遥かに強く機能を使えるため、大地を上空に持ち上げられる前に回収する必要があった。
それも無事完了し、次は日本…と思ったら、ギフト相手に1人で任務を任せるというので、マナは納得のいかない顔になる。
「日本にはもう〝イング〟御一行が潜入しているんだよね?そこに〝笛持ち〟まで参戦されたらどうするのさ。どっちにもギフト持ちが複数人いるのに。私一人だと戦力不足じゃない?」
〝イング〟と〝笛持ち〟とはギフトを巡る、アロンエドゥ以外の勢力だ。
ギフトが世界各地に出現するようになってから、ニーナたち〝ボア〟とそれらは幾度となく争奪戦を繰り返していた。
ニーナは火をかけて陶器のポッドを沸かし始める。
彼女の隣には茶葉の入った小瓶を握るルカが、まだかまだかとそわそわしている。
ニーナがルカから小瓶を受け取ると、ルカは「次はミント」と楽しそうにお茶の準備を手伝う。しかし、目当てのミントは窓の上に吊り下げられており、手が届かなかった。
椅子は石材なので運べず、足台にもできない。ルカがうるりと目を潤ませてマナを見つめる。
ルカの表情はクールなのだが、行動は結構感情豊かである。
マナはやれやれと腰を上げた。
マナ自身も小柄だが、この高さは背伸びをすれば届く。
ぷるぷるとつま先を震わせ、引っかけからミントを取り、ルカに差し出す。
「はい」
「ありがと」
お礼を言って、ルカはまたニーナの隣に戻り、紅茶に浮かべるミントを持って紅茶ができあがるまで待っている。
ニーナは湧いたお湯に茶葉を浸してから言う。
「残りの〝ギフト〟はあと二つ。〝チューニング〟か〝シメイラ〟だ。誰がどの機能かは使ってみてもらわないと分からないんだが、日本のギフト持ちは今まで起動させたことがないらしい」
ニーナが三人分のカップに紅茶を注ぐ。
ルカはミントを綺麗に浮かせるべく、カップを手元に寄せた。
どれも綺麗に表の葉を開かせて浮かばせたので、満足そうにふぅ、と額を拭った。
それをトレイに乗せてニーナがテーブルへ運ぶ。
「起動させないのか、起動しないのか知らんが、慎重に確認した方がいい。刺激して出てきたのが〝シメイラ〟だったらまずいからな」
ニーナがテーブルにカップを並べている間にルカも席につく。
ルカが座ったところでニーナは一口紅茶を嚥下した。
マナはじとっと目を座らせる。
「…なんで?」
「〝シメイラ〟はギフトで一番攻撃性が強くて凶暴らしい。勝てるのは〝ヴィアンゲルド〟くらいだってさ」
「あはは。〝シメイラ〟の可能性があるのに私一人で回収?…せめて〝ヴィアンゲルド〟に同行を要請してよ!」
空笑いをした後、マナは勢いよく立ち上がって抗議する。
その衝撃は隣のルカに及び、行儀よく座って紅茶を堪能していた彼は慌ててカップを押さえた。そしてむぅ、と頬を膨らませる。
マナの抗議にニーナは「まあまあ」と宥める気のない声で、彼女にデーツ入りのクッキーが並んだ皿を前に置いてやる。
「〝ヴィアンゲルド〟は別任務がある。それに、なにも日本での任務を終始お前にだけ任せようってわけじゃない。な?」
ニーナは、あとはそっちで説明してやってくれ、と通信機を指先でトントンと叩いた。
それまで黙っていた通信相手が〈ふふ。〉と微笑してから続けた。
〈ルカを狙う〝笛持ち〟がここに追い付きそうだからね。ニーナとルカがそれを撒く間、マナには日本のギフトを他に連れて行かれないように見張っていて欲しいんだ。君なら最悪、日本のギフト持ちを連れて行かれてしまっても、気配を追尾できるだろう?〉
マナはひとまず座り直し、まだ納得のできない面立ちでいる。
「私の〝ラダル〟は海に出られたら基本追えないよ。特にFageの海路は海中だもの。〝イング〟の拠点が潜水艇なんだよね?連れて行かれたらおしまいだよ」
〈それならそれでもいいんだ。優先順位はね、まず日本のギフトが〝チューニング〟なのか、〝シメイラ〟なのかを知ることだ。だから〝イング〟一行の襲撃はむしろ歓迎。襲ってもらって、日本のギフト持ちに機能を使ってもらおう。〉
マナは少し腑に落ちたのか、カップを持って一口飲んだ。
彼女が静かに話を聞くことにしたと感じ取り、通信機の声は続ける。
〈〝チューニング〟だったら即回収。〝シメイラ〟だったら〝ヴィアンゲルド〟が来るまで時間稼ぎか一時撤退。でもできれば日本のギフトの子の勧誘も考えてはいるから、最終決定が決まるまでは友好的に接触してほしんだ。〉
通信機に取り付けられた小さなレンズから、テーブルに画像が映し出された。
17歳の少年の顔と、その周辺情報だ。
まだまだ成長途中の背丈に、凡庸でぼんやりした外見の少年。
内陸生まれらしいが、日本の内陸が他よりマシというのは事実のようだ。
右目に赤紫の痣が小さくあるが、目つきに凶暴性はなく、むしろ小動物のようにつぶらだ。
マナは静かにその情報に目を走らせ記憶する。
所在地は日本内陸ウォームアース。
沈没都市に近く、支援を手厚く受けている地域に住んでいるようだ。
「この子の〝お友達〟になっておいて、回収と勧誘、どちらにでも転べるようにしておくってことだね。了解」
デーツ入りのクッキーを一つ口に放り込み、紅茶を飲み干したマナは、さっそく立ち上がった。
手早く支度を済ませていくマナに、ニーナは声をかける。
「北上してから日本に向かう。日本にアロンエドゥはまだいないし、一年前の大火災も逃れている国だが、油断はしないように。後で合流しよう」
リュックを背負ったマナは朗らかな笑みを浮かべて振り返る。
「待ってるよ」
手を軽く振って拠点を出ようとすると、ルカが慌てて棚に向かい、引き出しから何か取り出した。
それを握りしめて、マナのもとへ駆け寄る。
「マナ。これ持ってって」
すっと差し出されたのはうっすらとピンクがかった花だ。一つの幹に沢山の小さな花をつけ、ルカのような子供が持つと子供用のブーケのようだった。
マナはルカの行為に目を丸々とさせた。
マナとルカには幼少の時期の記憶がない。というのに、会った時から、ルカには花を渡す〝クセ〟みたいなのがあった。
いつも深い意味などなく、渡されるたびにいつもどうしてだろうと思いながら受け取っていた。
いつも通り、マナは「枯れたら捨てちゃうんだよ?」と言いながら受け取る。
それでも受け取ってくれたことが嬉しいのか、ルカは得意げに微笑んだ。
「いいよ。枯れるまでは綺麗でしょ。頭にのせておいて」
「頭になんかのせないよ。なんの遊びさ」
銃器や火薬、ナイフなどが入ったリュックの外側にてきとうに挿してルカに見せてやった。
ルカは親指を立てて「悪くない」と頷く。
マナは呆れ笑いを浮かべ、ルカの頭を軽く撫でた後、その拠点を出て行った。
外に出たマナは眩しい陽光を手で遮る。
全力で輝いている太陽だが、そろそろ陰ってくる頃だ。
夜になる前に、海に出なくてはいけない。
マナたちの所属する〝ボア〟が手配した潜水艇があるので、それに乗って日本へ向かう予定だ。
歩きながら、マナは風と砂から守る布をしっかり前で合わせる。
改めて勢力と戦力を思い返す。
(ギフトは全部で16個。
〝ボア〟には私と〝ヴィアンゲルド〟。監視下に2人。
回収済みが〝グラビティ〟を含めて3個。
〝イング〟に3人。
〝笛持ち〟に4人。
日本に1人。
そして〝シメイラ〟)
マナは足と振り返りを止めた。
内陸の〝死体生産屋〟が自作の武器を持ってマナを囲っているからだ。
黒曜石を研ぎ澄ませた黒いナイフは、いっそ粋な作品にすら見える。
アロンエドゥでなくとも、内陸の治安は一般人ですら脅かしていた。
マナは小さなため息をついてリュックを置く。
ささいな争いは数分で終わったが、ルカの花が不運にも潰されてしまった。
リュックを背負い直した時に、花がぽとんと落ちた。
マナはそれに視線を向けるが、何度か瞬いた後、背を向けた。
そうして死体を通り過ぎ、日本へ向かった。