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午後のお茶会に臨む

 この日の午後のお茶会は、宮殿内のティールームで行われる。

 国王や王妃だけでなく、宰相や何人かの閣僚とわたしの顔合わせをする。


 だいたい想像がつく。国王や王妃は、わたしのことを無視するか蔑み理不尽なことを尋ねたり言ったりする。あからさまに敵意や害意を見せつけてくるかもしれない。宰相や閣僚は、言うまでもない。


 これがふつうのレディなら、恐れおののくだろう。そして、逃げだすのだ。いくらロバートがいい人で、彼のことを心から愛しているとしても、多数の敵意に勝てるわけはない。


 が、わたしは違う。まず、わたしはふつうではない。それから、良くも悪くもそういう環境での経験が豊富にある。つまり、慣れまくっている。


 なにより、ロバートのほんとうの妻ではないという無責任な考えでいられる。さらには、彼のことを心から愛しているというわけではない。いま、彼にたいして抱いているのは恩義。なにがなんでもそれに報いたい。


 わたしの気持ちや信念は、それに尽きる。


 というわけで、わたしはただそれだけの為にここにいる。どんな相手であっても、どんな状況であろうとも乗り越える覚悟はしているつもり。


 というわけで、ロバートの偽装妻として国王たちに会う覚悟は出来ている。が、その前にひと仕事がある。


 そう。スイーツ作りである。


 料理長や料理人たちと話し合った結果、ワッフルとクッキーを作ることにした。


 どちらも、祖国では一般的に楽しまれているスイーツ。まぁクッキーは、このダルトリー王国でも一般的だけど。いずれにせよ、どちらも上流階級が楽しむようなものではない。


 だからこそ、あえてその二種類にした。


 上流階級が好むような複雑怪奇なスイーツは、宰相の遠戚にあたるパティシエのティモシーが作っているらしい。厳密には、料理人たちに指示して作らせている。


 正直なところ、わたしにはそういう複雑怪奇なスイーツはムリ。だからこそ、選んだという理由がある。


 メニューが決まれば、みんなに協力してもらってひたすら作った。


 お茶会用だけでなく、王宮で働いている人たちにも挨拶がわりに配るつもりにしている。


 料理長を始め、みんなの協力があって無事完成した。


 そして、本番を迎えた。



 どう考えても、ドレスは間に合わない。わたしの持ってきている唯一のドレスは、五年間の歳月によって色褪せ、虫に食われ、破け、ほつれ、とてもドレスとは言えない状態になっている。


 つまり、国王や王妃の前で着用出来るものがない。


「ユア様、いっそコック服でお会いになられてはいかがでしょうか? 今日のスイーツは、ユア様みずからが作ったもの。その紹介も兼ねてということでしたら、コック服でもおかしくはないかと」

「グッドアイデアよ、メリッサ。それでいきましょう」


 メリッサのアドバイスに従うことにした。


 料理長に相談すると、たまたま新調したばかりのコック服が何着か残っているらしい。その中から一番小さいサイズを借り、袖や裾を折りまくって体裁を整えた。


 コック帽も借りた。


 これで、なんとかセーフのはず。




 ロバートがわざわざ厨房に迎えに来てくれた。


 彼はシャツにズボン、それからジャケットを羽織っている。


 ジャケットの上からでも、彼がかなり筋肉質なことがわかる。


「ユア、すまない。ドレスの準備が出来てからにすればよかったな」

「いいのよ。どうせお茶会を延期してはくれないでしょう? それに、あなたのお父様とお母様にはすぐにでも挨拶しないと。今日は、メリッサのアイデアでこれでごまかすから」


 すまなさそうなロバートに告げつつ、コック服姿でその場をクルクル回って見せた。


 それから、彼にエスコートしてもらってティールームへと向かった。


 王太子殿下とレディの料理人だなんて、ほんと滑稽よね。

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