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殿下、溺愛展開は契約違反です~「追放の廃妃」の私、わけあって元敵国の王太子と契約結婚することになりました~  作者: ぽんた


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王宮の厨房にて

「たしかに、魔女というのはわたしっぽいですね。ですが、ロバート、いえ、殿下を誑かすような魔女が、ここで野菜のクズや切れ端や皮をねだるとは思えませんが」

「それはそうだ。そういうレディは、こんな朝早くに目をさますこともないしな。昼頃目覚め、寝台の上で『なにか持ってこい』と命じてぐーたらすごすか、腕によりをかけたものを出してもひとくちふたくち突っついて『ダイエットしているから』と言って残すか、だな」

「そういうのって、上流階級のご令嬢にはあるあるですね。あいにく、わたしは食いしん坊です。作るのも食べるのも大好きで、男性以上に食べますよ」

「面白いレディだ。さあ、使ってくれ」


(よかった。すくなくとも、料理長はわたしにたいして好意的みたい。彼さえいてくれれば、どんな困難だって乗り越えられそうね)


 あらためて料理長に礼を伝え、朝食づくりにとりかかった。



 われながらうまく出来た。味はともかく、美味しそうに見える。


 食材や調味料や調理器具がいいからに違いない。とはいえ、おおげさなメニューではない。根菜とソーセージの煮込み料理、葉物野菜のサラダ、ミートパイ。それから、オーソドックスな食事パンも。酵母菌は、自家製のを持ってきている。それを部屋まで取りに戻って使った。食後のデザートも抜かりなく、ミートパイ用のパイシートを多めに作っていたので、それでアップルパイを焼いた。


 皮がシナシナになったリンゴが、食糧庫の片隅のカゴに積まれていた。それを使ったのである。時間はかかったけれど、その分食べる楽しみが増える。


 それだけでは飽き足らず、そのリンゴを使ってジャムも作った。もっと煮詰めたかったけれど、それでも美味しそうに出来上がった。


「うわ、美味そう」


 料理人たちや見習いたちがやって来た。


 彼らも自分たちの仕事が終ったみたい。


「多めに作りました。王宮付きの料理人の方々には足許にも及びませんが、よろしければつまんでみて下さい」


 どうせバカにされるだろう。


『レディの料理など食えるか』


 なんて言って。


 男尊女卑の精神が色濃く残るこのダルトリー王国。そもそも、厨房内に足を踏み入れることが出来ただけでも奇跡に近いかもしれない。


「ほんとうですか?」

「楽しみだな」


 が、意外にもみんなうれしそう。


「おいおい、まだ後片付けが残っているぞ。それが終ってからゆっくりご馳走になろうじゃないか」


 料理長のスチュアートまでやって来た。彼の一声で、みんな慌てて後片付けに戻っていく。


「きみの分を食ってもいいのか? というか、きみは自室で食うべきだろう? ああ、そうそう。なにかの行事ではないかぎり、王族はそれぞれの部屋で朝食をとる。彼らが大食堂で一緒に食うのは、夕食だけだ」

「そうですか。それをきいて安心しました。だったら、わたしはここでみなさんと一緒に食べます。煮込み料理やパイは、たくさん作ってあります。その方が美味しく出来ますので。どれも祖国の料理ですし、みなさんの腕にはほど遠くてたいしたものではありませんが、いっしょに食べていただければうれしいです」

「だったら、おれたちは奥のテーブルでいつも食っている。準備を頼めるか? おれも、はやいとこ片付けてくるから」

「もちろんですとも」


 というわけで、人数分のお皿やカトラリーやコップを準備した。


 それらが置いてある場所が、尋ねなくてもわかったから不思議だった。 



「シンプルな料理の方が美味い」


 料理人たちは、社交辞令で褒めてくれた。


 大勢で食事をするのは、ひさしぶりというよりか、五年ぶりくらいだった。


 楽しかった。ワイワイと食事をすることが、こんなに楽しいことだったなんて。


 ずっとひとりだった。だから、だれかといっしょに食事をすることに自信がなかった。


 おそらく、マナーなどかまわずにざっくばらんに食事が出来たこともよかったのかもしれない。


 だれかといっしょに食べることで、よりいっそう美味しく感じられる。


 心からそう思った。


 食べている途中、侍女たちが食器を運んできた。多めには作ってはいるものの、かぎりはある。料理人たちも、侍女や執事たちの分の朝食は作っている。朝食をとりにやって来た執事たちや他の侍女たちも加わり、さらに賑やかに食事をした。


 アップルパイは、争奪戦だった。ふだん、スイーツが提供されることはないらしい。だから、彼女たちもよろこんでくれた。みんなの笑顔を見、わたしもうれしかった。こんなこと、以前にはなかったから。ひきこもる前、どれだけ政務にしろ私事にしろ、だれかの為になにかをしても、非難されることはあってもよろこばれたり感謝されることはなかった。よくても「やって当然」という風潮だった。それが、皇妃の務めだから。皇族としてすべきことだから、というわけである。


 だからかもしれない。うれしすぎたあまり、調子にのってみんなに「スイーツを作る」という約束をした。



 いっしょに朝食をとったことで、それ以外にも収穫があった。すくなくとも侍女たちの一部は、昨夜会ったオスカーやライラとは違って友好的だった。


 そんな友好的な侍女たちに尋ねたところ、オスカー・ユーイングは執事長で、ライラ・ノーランドは侍女長らしい。親衛隊の隊長がラッセル・フォロンだということもわかった。


 ラッセルは、可愛い系の顔だったはず。


 その彼は、ロバートの片腕のモーガンや宰相の遠戚でパティシエのティモシー同様あらゆる階層のご令嬢たちの人気の的らしい。


 そして、その人気の的は彼らだけではないという。


 もうひとり、宰相の息子で外交官のマット・ファイアストンもまた、そうとうな美貌の持ち主らしい。





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