9話 パーティー
長い螺旋階段を駆け上り、やっとの思いで最上階まで着くと、少し息を整える。
「結構大変だね、この階段」
「そうだよね。一瞬で上まで行ける物でも作ればいいのに。あ、着いたよ。いい眺めでしょ」
「うん、とてもきれいだよ」
着いた先は街全体を見渡せる展望台だった。どの建物よりも高く、街の中心に建っている。夕日に染まる街はとても綺麗だった。
「時間を気にしていたみたいだけど、ここで何かあるの?」
「うん、もうすぐだよ」
うきうきと笑ながらクレアさんは言った。何があるのだろうか。
「いったい何が―――」
ゴーン! ゴーン! ゴーン!
大きな音が鳴り響く。あまりの大きさに耳を塞いだ。上を見上げるとそこに大きな鐘がぶら下がっていた。どうやらあれが鳴っていたらしい。
「お昼と夕方の一日二回も鳴るんだよ。この街のシンボルみたいなものなの。クランベリー展望台って言うんだよ」
クレアさんも耳を塞ぎ、大声で言った。
クランベリー展望台。お昼と夕方に鐘が鳴る。街のシンボル。
何十回目かの鐘でやっと鳴り終わった。ゆっくりと耳から手を離す。まだ耳の中で鐘の音が鳴り響いている。
「この景色、ずっと見ておきたいですね」
「そうだね。でも、そろそろ帰ろう。アリスさんが待ってるよ」
「そうですね」
また今度ここに来よう。
「・・・・・・」
今度来るときは一瞬で行ける何かを考えてからにしよう。そう思いながら展望台から降りるための階段を下った。
「今日はいろんな所に連れて行ってもらいありがとうございました」
「うん。まだまだいっぱいあるから、また行こうね」
クレアさんは嬉しそうに笑った。
* * *
アリスさんのお店に帰ると、店内はきれいに飾り付けされ、テーブルにはたくさんの料理が並んでいた。どれも美味しそう。
「おかえり。楽しんできた?」
エプロン姿のアリスさんが新しい皿を持って来て料理を追加した。
「はい。不思議なお店や知らない場所などを見て廻りました」
「そう。ありがとうクレアちゃん」
「いえ、私も楽しかったです」
お互い楽しかったようだ。
「そういえば、どうしたんですか?この飾りつけや料理は」
「ボク君には言ってなかったわね。今日はボク君のためにパーティーをするの」
「仲間が増えるってことですか?」
「ちげーよ。食ったり飲んだり楽しむ方だ」
後ろから髪をくしゃくしゃにされた。振り返るとギルさんが立っていた。
「お前のためにアリスとハンナがうまいもん作ってくれたんだ。残すんじゃねえぞ」
「ハンナさんもいるんですか」
「こっちだよー!」
厨房から頭を出して手を振ってくれた。
「ヴァルデも来てるよ」
「おうよ!でかい図体してても隠れることはできるんだぜ!」
すると、ハンナさんの後ろからヴァルデさんが現れた。手に服を持っている。
「待たせたな小さいの!お前さんの注文していたローブ『獣の衣』が出来たんでな、持ってきてやったぞ!」
ヴァルデさんは手に持っているものをそのまま渡してくれた。広げてみると、ふさふさした毛皮にポケットがついている。
「このローブにはどんな特性がついているんですか?」
「そいつは丈夫で伸び縮みし、着ている者のにおいを抑える特性がある。しかし、意外と燃えやすいから注意が必要だ」
「分かりました」
「よかったね、ボク君。次のクエストで着ようよ。きっと役立つよ」
「そうね。それまでは部屋に置いておいたら」
「はい、ちょっと部屋に持って行きます」
もらったローブを持って部屋に行く。
「ミュー!」
「ん?どうしたんですか?」
部屋にいたラムファが足にすり寄ってきた。そういえば、今日はラムファに構ってあげてなかった。きっと寂しい思いをさせてしまったのだろう。
「一緒に行こうか」
クローゼットの中にローブを入れると、ラムファを抱きかかえて、みんなの所に連れて行った。
「おまたせしました」
「ん?やあ、こんばんわ」
戻ると、みんなの和の中に知らない男がいた。
「君とは初めましてなのかな?僕は情報屋のキム。キム・フェブラム・アムトだ。よろしく」
キムさんはにっこり笑って右手を差し出してきた。ラムファを置いて手を握る。
「ラムファか。珍しい生き物を飼っているね。ラムファなら食事を与える必要もないし、トイレの掃除もいらないからね」
「はい、そうなんです」
「これから進化するのが楽しみだね」
キムさんはにっこり笑った。
「ところでアリスさん、宝石は見つかりましたか?僕が教えた頃にはもう何人かが先に森に行ったと聞いたんですが」
「あちこち探し回ったけど見つからなかったのよ。ごめん、せっかくの情報を」
「そうでしたか。すみません、僕が教えるのが遅くて」
「いいわよ。私も出発するのが遅かったし、代わりにボク君にも会えたしね」
「そういえば、この少年はどなたですか?」
「この子は始まりの森で会って、うちで保護しているの。記憶が無くて一人ぼっちだったから」
「一人ぼっち?ライカンスロープのいる森の中で?危険過ぎますね」
「でも、そのライカンスロープを倒したのはこの子よ」
「本当ですか!?」
キムさんが肩を掴んできた。驚いた顔もしている。
ライカンスロープを倒したのはそこまですごいのか。
「噂は聞いていましたが、本当に子どもだったなんて」
「やったと言っても、自分自身何をしたのか分かりませんが」
「そうか。君は強くてとても面白い子だね」
キムさんはゆっくりと肩から手を離し、ポケットから一枚の紙を取り出した。
「実は、ここに来た理由はクエストに同行してもらいたくて来たんです。偶然にもギルドの精鋭部隊が揃っていますし、いいタイミングだと思いまして」
「クエスト?何だ、討伐か?採取か?それとも護衛か?」
ギルさんが嬉しそうに聞いた。この人は何処かに出掛けるのが好きなようだ。
「討伐クエストです。報酬は100万G」
「マジか?!」
ギルさんがまた嬉しそうに言った。
「ハンナさん、100万Gってどれくらいすごいんですか?」
「えっと、家を10個建てられるくらいかな。ただし、家財なしで」
どれくらいすごいのか、ちょっと分からない。
「で、何処に行くんだよ?遠出になるのか?」
「ええ。ここから馬車で半日ほど行った村で、場所は『廃虚の城』です」
なんだか幽霊が出そうな名前のお城だ。