最終話 いつねへ。
(来たよ、いつね。遅れちゃってごめんね)
私は冬馬と共に、いつねのお墓参りに来た。
引きこもっている間に、とっくに葬儀は終わっていて、参加できなかったことが悔やまれる。
いつねのお父さんお母さんにも謝ってきた。
「君も辛かったんだろう。いつねだって、それだけ惜しんで貰えれば本望だろうと思うよ」
お父さんはそう言ってお墓参りの許可を下さった。
もう気づいている人もいるだろうけれど、いつねのことは呼び捨てにすることにした。
いつねだけじゃない。
私が特別と思う人で、嫌だと言われなかった人はみんなそう。
でも、いつねは――やっぱり特別かもしれない。
私の初めての親友になってくれた人だから。
お線香とお花を備えて、手を合わせる。
ねえ、いつね。
話したいことがいっぱいあるよ。
あなたが亡くなってから、色んなことがあったんだよ。
引きこもったこと、仁乃の心を踏みにじってしまったこと、冬馬との約束、それから、それから……。
私は自分が思ったこと、感じたことを出来るだけ細かく、いつねに報告した。
いつね。
今でもあなたの姿を探してしまうことがある。
学園の中では特にそう。
今まで当たり前にあったものが無くなってしまうって、とっても寂しいものなんだね。
でも、私はもう、孤独に逃げたりしないよ。
どんなに悲しくても、どんなに辛くても、みんなと一緒に乗り越えていくって決めたから。
一人じゃないこと。
誰かがいてくれること。
その素晴らしさを教えてくれたのは、いつね、あなただよ。
あなたが教えてくれたことは、もう一つある。
それは、限られた時間を精一杯生きること。
人は、いつかどうしたって死んじゃうよね。
このまま医療が発達し続ければどうかわからないけれど、少なくても、私が生きているうちは無理そう。
だからね、人が死ぬっていうのは、早いか遅いかの違いでしか無いんだよね。
だったら私は、いつねがそうだったように、後悔しないように精一杯、生きたい。
もちろん、全然後悔しないなんていうのは無理だよね。
私にとっていつねのことがそうであるように。
でも、その時々の最善を尽くした結果の後悔なら、受け入れられる気がするんだ。
だから、私は冬馬を少しは見習って、何事にも全力で取り組んでいきたい。
私はまだへなちょこだから、すぐ凹むこともあると思う。
そんな時は、みんなに助けてもらうよ。
特に酷い時は冬馬に。
それでもダメなら、いつねのお日様のような笑顔を思い出すよ。
なーんて、こんなこと言うと、冬馬の奴が妬くかもね。
もっともっと、色んなことを一緒にしたかったな。
いつねが生きていたらどんな風になるかなって今でも想像する。
あなたは才能があったから、将来はトップスターになって芸能界入りしてたかもしれないね。
私、高校時代からの親友です、なんて紹介されちゃったりして。
私にもね、目標が出来たよ。
お医者さんになるの。
ニコ=アエジェル症候群の研究者。
あなたを奪った病気だもん。
放ってはおけないよ。
幸い勉強は得意だし、学費も出して貰える。
後は、私の頑張り次第。
私たちみたいな思いをする人たちが、少しでも減るように頑張るよ。
まだまだ話足りないことがいっぱいあるけれど、いつまでもいるといつねに怒られちゃいそうだから、今日はここまでにするね。
じゃ、またね。
「もういいのか?」
「ええ」
長く手を合わせていた私を、冬馬は辛抱強く待っていてくれた。
いつねには、また来ると約束した。
「行くか」
「はい」
いつねから貰った懐中時計は、今も刻々と時を刻んでいる。
時間は流れる。
いつでも、容赦なく、残酷に。
この胸の痛みも、いつかは薄れて消えてしまうのだろう。
それでも、彼女のことを私は決して忘れない。
私は歩き出す。
この一歩で、明日へとほんの少し近づく。
私たちは、悩んで、苦しんで、時々幸せを感じながら、人と思い出と共に生きていく。
だから、私はもう言わない。
私はぼっちになりたい、なんて。
Fin.
最後までお読み下さり、本当にありがとうございました。
執筆開始から約半年。
読者の皆様のおかげで、何とかここまでたどり着くことが出来ました。
本作品を読んで下さった全ての皆様に篤く御礼申し上げます。
本作品のジャンルは恋愛ということになっていますが、友情もとても大きな要素です。
あるいは、もっと大きく学園というジャンルの方がよかったのかもしれません。
既にお読み頂いた通り、この話では主人公の大切な人が亡くなります。
人が亡くなる話というのはデリケートなもので、安易な悲劇だという批判を頂くこともあります。
最初期のプロットから彼女の死は決まっていました。
それでも、書いていくにつれ、彼女というキャラクターに愛着が湧くにつれ、なんとか死なせずに済む方法はないかと模索した日々もありました。
ですが結局、このような話になりました。
彼女の死はこの物語にどうしても必要不可欠だ、と私が判断したからです。
この物語から読者の皆様が何をお感じになり、何をお考えになるかは皆様の自由です。
ですから、もちろんご批判も覚悟しています。
どうか、お感じになったそのお気持ちを大切になさって頂ければ幸いに存じます。
ここで一つお願いがあります。
今まで毎回、後書きに、
「お読み下さってありがとうございます。
ご評価・ご意見・ご感想をお待ちしております。」
という2文を書いてきましたが、ぜひこれをお願いしたいのです。
感想については、末尾の入力フォームが書きにくいという方もおられるそうなので、
活動報告へのコメント、メッセージボックスなどどれでも結構です。
何を書いたらいいのかわからないという方もおられると思いますが、あまり難しく考えないで頂ければと。
ただ一言、面白かったとかつまらなかったでも、私は泣いて喜びます(後者は結構凹みますが)。
感想までは面倒という方は、最後に得点評価だけでもお願いできれば幸いです。
皆様のお声を頂戴できれば、これに勝る喜びはございません。
なにとぞ、よろしくお願いします。
この物語は一応、これで完結とさせて頂きます。
多分、後日談を何話か書かせて頂くと存じますが、期日は未定です。
ご縁がありましたら、またお会いいたしましょう。
それでは、失礼させて頂きます。
2015年8月31日 いのり。拝




