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ドラゴンが次々と死んでいく謎の現象の正体が明らかになると、我々は極限まで雲の下へ降りる機会を減らすようになった。

とはいえ、契約者が既にいる場合はその保護を第一に考え逆に雲の上に行く機会を減らすという正反対の対応に追われた。

どれもこれも契約というお粗末な魔法を万能だと信じ切っていた…にんげんを信じ切って何の安全策も考えていなかったツケがまわってきたのだ。


ドラゴンたちは世界の終末の足音を聞いていた。

ひたひたと歩み寄ってくるその音は確実に近付き、息の根を止めに来る足音を。

この世界が終わらないとしても、この世界からドラゴンが消えさえすれば、それはもはや我々ドラゴンに取ってんぼ世界の終りも同然なのだから。

その足音は、もうすぐ近くまでやってきている……

 

 

なぜひとはドラゴンを殺すことを選択したのか。

なぜ、殺めたドラゴンの体をばらばらにして持ちかえるのか。どこに持ち帰り、誰が集め、何に使うのか。

そのすべてが謎に包まれていた。

王族、貴族と呼ばれるにんげんの中で地位の高いものの仕業だということは分かっているが、それが何のためなのか、何を指し示すのか、だれにも分からなかった。

 

ドラゴンは無知だった。

にんげんのことを知らなさすぎた。

 

 

 

 

 

「エーギル、あなたには悪いけど、雲の上にあなたを帰せないわ」

「知っている」

「別に、怒ってるわけじゃないのよ」

「そうか?」

「それに、あなたを信じてないわけでもないの」

ベッドのうえであぐらをかいたエーギルのうえにちょこんと座って見上げた彼女の声はどことなく独り言じみて聞こえた。

「あなた、怒ってる?」

「一ヶ月も妻をひとりぼっちにした埋め合わせだと思えばなんともない」

かれこれ二ヶ月近く自宅軟禁を強いられているのだが、エーギルから見ればほんの数日の間のことのようにしか感じられない。

しかもその間、自分の妻と好きな事を好き勝手できるのだから、これが罰っせられているのかどうかも怪しい。

 

聞けば、婚約を交わした男女は平気で数ヶ月部屋にこもりっぱなしになるという。

これははたして罰なのか?

それとも慰めなのか、いたわりなのか、ご褒美なのか……

 

 

「ソフィリアこそ、外に出たいとは思わんのか?」

「……あんまり」

「窓も扉も閉め切って、カーテンも…」

「外を見たくないの…」

そういえば数日前にとうとうまちにドラゴンが墜ちたときいた。

それを気に病んでいるのだろうか。

「ではもうしばらく家の中で暮らすのだな」

「ええ」

「なにか買わずともよいのだろうか?」

「…家の者がなんとかするわ」

そう、気付いたらこまごまとしたものや食料や何もかにもが補充されているのだ。

ひとが出入りしているのはなんとなく気配を感じるのだが。

本当にいつの間に、という感覚なのが逆に薄気味悪い。

 

最近、食料の補充だけを任せ食事をエーギルが作るようになってから心なしかソフィリアの体の調子がよくなりつつある。

エーギルからすればとても二十歳まで生きられないと言われた人間とは思えない。

うがった見方をすれば、他者が意図的にソフィリアの体を悪くするようなことをしていたのではないかとさえ思う。

 

ひと、という生き物に疑いのまなざしを持つようになると本当にきりが無いと思う。

昨日までは当たり前のように信じていたものが次の日には崩れ去ってしまうような、そういうことを平気でやってしまうのだから。

 

 

 

 

 

ひたひたと近づく足音に気づいているのはドラゴンだけではなかった。

男の腕の中に抱かれる彼女にもそれは耳を澄まさずともはっきりと聞こえている。恐怖に支配され目も耳もふさげないほど、それはもう近くまで来ている。

 



トントンと扉を叩く音に彼女は身を強張らせて、足音の主を待ちかまえた。

自分を抱く男の腕にしっかりとすがって離さないように。

 

トントンと扉を叩く音が彼女には足音がついにここまでたどり着いて、自分に向かって


「やってきましたよ」


とでも終末が挨拶をしたようにも聞こえた。


 

 

 

 

「誰だ?」

彼の問いかけに返事はなく、かわりに扉が蹴破られ窓が割れる音がして、たくさんの男たちがなだれ込み取り囲み、鈍く光るものを振りかざした。

次話も乞うご期待☆

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