八重桜~恋の実る木~
「あんたは鬼かっ!
金は払うと言っているだに、おらの体を診てくんねぇなど!!」
ガンっ!と大きな音を立てながら、一人の男が怒鳴り散らす
「…あんたも、何度言やわかる?あたしゃ人間の医者じゃない。
草木花達専門の『花医者』だ
幾ら、金を寄越されても、人間を見る知識なんかないんだよ」
机に向かい、書物を読みながら言葉を返す
着物は桜色の花模様に、
髪は結い上げる事もせず、左肩に軽く流し、先の方を白い紐で一つに束ねている女
名を、乙蝶
「嘘こくでねぇや!
あんたに見てもらった隣町の絹問屋の女将が言っとったで!
他の医者には匙投げられてた不治の病だったに、あんたが診ていったらすっかり善くなってだだと!ほんだがらっ、おらのこの体も診てもらうがと思ってきただに!」 男は、泣きながら言い放つ
それを聞いていた乙蝶は深いため息をつくと、ぱちんと指をならす
「お呼びですか?主」
すると、そういいながら中庭から一人の女の子がひょこりと現れる
背は150あるかないかくらいで、髪はおかっぱ
服は深紅の椿があちこち咲き誇っている
「あのくそ親父を追い出しておくれ
うるさくて適いやしない」
「はい」
乙蝶がそういい顎で促すと、女の子はニッコリ笑って両手を広げた
そして、両腕を前後に何回も動かす
するとどうだろう…、どこからか少し強い風がヤシキノ中に広がる
そして………
「おい、聞いてるがや!
人がこんだけ頼みこ…っ、あ?
なんだやっ?体が浮いただっ!
どこさ行くだっ、やめ、……あ゛…!」
全く聞いて貰えない男は、甲高い声で乙蝶に講義していたが、どういうわけか体がふわりと浮き、入口からほわんと外に吹っ飛んで行った
「さいなら~もう来んでええから」
乙蝶は、笑いながら出ていく男を見届けると、バタンと扉を締めた
「すまんな、賀陽
無意味な事に力を使わせて」
「大丈夫ですよ~。私もあの人うるさい思ってましたから、すっきりしました」
「そうか?」
賀陽の言葉に、乙蝶はクスクス笑いながら、読書の続きに入る




