プロローグ 女神の涙
はるか昔、世界は闇と静寂に包まれていた。
空には星もなく、大地には花も咲かず、人々は生まれては消えていくだけの弱い存在だったという。
そんな世界を憐れんだのが光を司る女神ルミナだった。
ルミナは天上から地上へ降り立ち、自らの光を分け与えた。
すると空には星が灯り、大地には草木が芽吹き、人々は火を知り、言葉を知り、豊かに生きられるようになった。
しかし、人々に力を与えるほど女神の光は失われていった。
やがて世界を照らしていた光は尽きかけ、ルミナは再び天へ帰らなければならなくなる。
別れの日。人々は女神を慕い涙を流した。
ルミナもまた、人々との別れを悲しんだ。
そして最後に、一粒の涙を流した。
その涙は地上へ落ちる途中で美しい結晶となり、聖なる光を宿したまま大地へと降り注いだ。
人々はその結晶を、《女神ルミナの涙》と名付けた。
「この涙がある限り、私はあなたたちと共にあります。迷う時は光となり、願う時は力となり、愛する者を守る時は勇気となるでしょう」
それ以来、人々は聖堂を建て、《女神ルミナの涙》を祀った。
結晶から溢れる光は世界を満たし、人々は魔法を扱えるようになった。
生まれながらにその恩恵を受ける者もいれば、聖堂の儀式によって眠る力を呼び覚まされる者もいる。
だが、神官たちの間にはこんな言い伝えも残されている。
女神が流した涙は、一粒だけではない。
聖堂に祀られている結晶は最初の涙に過ぎず、世界のどこかには他の涙も眠っている。
もしすべての涙が再び集まる時、女神ルミナはこの世界へ帰ってくるのだと。
そしてもう一つ、別れの日に女神が最後に世界を振り返った時その姿を映していた鏡がある。
人々はそれを《ルミナの鏡》と呼んだ。
涙が「女神の嘆き」ならば、鏡は「女神の想い」
二つで一対の、女神の遺した奇跡だった。
これは、その奇跡が再び動き出す物語。
二つの世界を繋ぐ鏡と、それを受け継いだ少女の話。




