ゲーム開始
濃厚な血の匂いと、吐き気を催す腐肉の悪臭が混ざり合い、冷たく湿った雑巾を無理やり鼻腔に突っ込まれたかのようだった。
ガバッと勢いよく目を見開く。胸が激しく上下し、荒い息を吐き出した。肺が粗い紙やすりで何度も削られているように痛む。
ぼんやり光るPCのモニターもない。出前の空き容器が散乱するシェアハウスの床もない。深夜三時半に原稿を書きながら寝落ちしたはずのキーボードもない。今、私の体の下にあるのは、凍てつくように冷たい金属のグレーチングだ。その隙間から、何かぬるぬるした正体不明の液体が「ぽた、ぽた」と下へ滴り落ちている。その液体は妙に温かく、生き物の体から流れ出たばかりのようだった。むき出しの腕にべっとりとまとわりつき、暗赤色の糸を引いている。
ここはどこだ? 誘拐? それともタチの悪いドッキリか?
虚弱な上半身をなんとか手探りで起こすと、指先がざらついた壁に触れた。コンクリートでもレンガでもなく、何度も酸を浴びた鋳鉄のような激しい凹凸があり、縁は手を切りそうなほど鋭い。
頭上にある錆びた換気扇の隙間から漏れる、微かな赤い光。それを頼りに目を凝らすと、壁一面に刻まれた無数の引っ掻き傷が浮かび上がった。浅い擦り傷から、鉄の壁に指の関節までめり込んだような深いものまで。そのすべてが、人間の生身の「爪」で抉られた痕だった。幾重にも重なった新旧の血痕が、すべての溝を黒黒と埋め尽くしている。
目の前の光景が、まったく理解できない。
巨大な、そして廃棄された地下の屠殺場——それが一番近い表現だった。錆びた鉄の檻が何段にも積み重なり、蜂の巣のように視線の先の闇までびっしりと続いている。一つの檻は長さ二メートル、幅一メートル、高さは一メートルにも満たない。大人が一人うずくまるのがやっとで、立ち上がることは不可能なサイズだ。扉には重々しい南京錠がかかり、中には錆で扉と一体化し、二度と開かないであろうものすらある。
檻の中には、骨と皮ばかりになった人影がうずくまっていた。まともな服も着ず、全身が垢と腫れ物にまみれ、肌は長年日光を浴びていない死体のように灰白色をしている。目は虚ろで、唇は赤黒い肉がめくれるほどひび割れ、よだれを垂らし続けている者。爪が完全に剥がれ落ち、膿を流すピンク色の肉がむき出しになっている者。
彼らが何者なのか、自分がなぜここにいるのか、何もわからない。自分の名前や記憶ははっきりとあるのに、「なぜここにいるのか」という経緯だけが、メスで正確にえぐり取られたようにスッポリと抜け落ちていた。
突然、右斜め前の檻から、人間のものとは思えない獣のような低い唸り声が響き、思考が断ち切られた。
声の主は、全身に膿疱を浮かべた男だった。彼は真っ黒に腐敗し、甘ったるい悪臭を放つ謎の骨を死に物狂いで握りしめている。その横で、左耳が欠け、耳の穴に黄色いかさぶたがこびりついた別の男が、相討ち覚悟の狂気を瞳に宿して猛然と飛びかかった。
罵声も、駆け引きもない。耳のない男は黄色い歯をむき出しにして、相手の肩にそのまま噛みついた。肉に歯を食い込ませ、狂犬のように首を左右に激しく振る。しかし、頸動脈と気管だけは極めて正確に避けていた。混乱の中の偶然ではなく、無数の殺し合いで染み付いた「本能」のようだった。
ブチブチッ——!
生の肉が引き裂かれる音が、死んだように静まり返った空間に響き渡る。厚手の布を力任せに引き裂くような、おぞましい音。赤黒い血が噴き出し、錆びた鉄格子を伝って流れ落ちる。生温かい血の飛沫が私の頬に飛び散った。その温度と粘り気に、全身の総毛が立った。
肉を噛みちぎられた男は悲鳴すら上げなかった。肩にぽっかりと空いた卵大の穴からは、白い筋膜と痙攣する筋肉が見えている。それでも腐った骨を絶対に手放さず、眼球を血走らせながら、空いたほうの手で襲撃者の眼窩に泥まみれの指をねじ込んだ。爪を眼球と骨の隙間に食い込ませ、力ずくで外へほじくり出そうとする。
ぐちゃ、ぬちゃり。
茹ですぎた卵の殻を剥くような、あるいは黒板を爪で引っ掻くような、おぞましい音が鼓膜を直接揺らした。
胃の腑が激しくせり上がった。
「オエッ……!」
思わず口元を押さえ、体がガタガタと制御不能な震えに襲われる。血を見るのすら苦手な、温室育ちの現代人である私にとって、ホラー映画なら迷わず早送りするような本物の殺し合い——むせ返るような血の匂いを伴うそれ——は、二十数年かけて築き上げた理性と常識を木端微塵に打ち砕いた。脳が完全にキャパシティを超え、ショートしてホワイトノイズを響かせている。
私は必死に檻の奥へ後ずさり、冷たく湿った鉄の壁に背中を押し付けた。壁に付着していた謎の液体が、いつの間にか着せられていた薄いボロ布の服に染み込んでくる。両腕で膝を抱え込んでも、歯の根が合わずカチカチと鳴り続けた。極度の恐怖が冷たい手となって心臓を鷲掴みにし、呼吸するだけで肺が軋んだ。
「ガァァァンッ!!」
廊下の奥で、耳をつんざくような轟音が炸裂した。密閉された金属の空間で音が反響し、鼓膜がキーンと鳴る。重厚な鉄の扉が外から蹴り破られ、暗赤色の錆が血の雪のようにハラハラと舞い落ちた。
続いて、規則的で重い革靴の足音が、粘つく水たまりを踏みしめながらこちらへ近づいてくる。その一歩一歩が、まるで私の心臓を直接踏みつけているようだった。
何本もの強力なフラッシュライトの光が、底層の闇を暴力的に切り裂いた。あまりの眩しさに反射的に腕で顔を覆う。
光が走ると、先ほどまで殺し合っていた二人は感電したように飛び退いた。強烈な光に晒された彼らは、天敵に見つかったゴキブリのように檻の一番暗い影へと縮こまり、丸まってガタガタと震え出した。さっきまでの狂気は嘘のように消え失せ、そこにあるのは本能に刻み込まれた絶対的な「恐怖」だけだった。
光の背後から、数人の人影が足を踏み入れた。先頭を歩く男は、仕立てのいい黒のスーツを隙なく着こなし、カフスボタンを冷たく光らせている。血と排泄物にまみれたこの場所にはあまりにも不釣り合いで、それでいて息の詰まるような威圧感を放っていた。まるで、正装した屠殺業者が自分の豚小屋を見下ろしているかのように。
彼の左胸には金属のバッジが留められており、光を反射している。上段には読めない記号が、下段には漢字で「柴田」と刻まれていた。
柴田と呼ばれたその男は、革靴で不快な音を立てて水たまりを踏むと、白い手袋をはめた手で露骨に嫌悪感を示しながら口元を覆った。少し開いた襟元からは太いシルバーネックレスが覗き、その先には、黒く乾いた血がこびりついた、壊れかけの金属キーがぶら下がっている。
「あれは……秋山の親分の……」
隣の檻で、全身膿まみれの老人がそのキーを目ざとく見つけ、瞳孔を極限まで収縮させた。喉の奥から、絶望に満ちた掠れ声を絞り出す。
秋山? 親分? 何のことかさっぱりわからない。だが、老人の顔に浮かんだ恐怖はあまりに生々しく、見てはいけない禁忌を目撃してしまったかのようだった。
「急げ」
柴田は周囲の視線など意に介さず、抑揚のない冷徹な声で言った。退屈な作業マニュアルを読み上げるような口調だ。「今夜の『暗夜ゲーム』に使うカナリア(捨て駒)を見繕え。手足が揃っていて、そこそこ走れる奴なら誰でもいい。全部連れて行け」
暗夜ゲーム? カナリア? 言葉の意味はわかるのに、全く状況が理解できない。
彼の言葉が終わるや否や、七、八人の屈強な黒服たちが、飢えた狼のように両側の鉄檻へと殺到した。彼らの手にはゴムで覆われた異様な特殊警棒が握られている。先端には無数の金属棘が埋め込まれ、青白いスタンガン特有のスパークが無音で弾けていた。
一瞬にして、悲痛な絶叫が狭い通路に響き渡った。黒服たちの動きは残酷なまでに手慣れており、腰や太ももの内側など、致命傷にはならないが神経が集中している部位だけを的確に殴りつけていく。殴られた者たちは全身を痙攣させ、泡を吹いて倒れたが、決して気絶することは許されなかった。
一人の黒服が、隣の檻で狂乱して壁を掻き毟っていた男の髪を掴み、ボロ布を引きずるように強引に引きずり出した。男は必死にもがき、爪で鉄網を引っ掻いて不快な金属音を立てたが、黒服は容赦なく男の腎臓の辺りに警棒を突き立てた。男の体はエビのように大きく反り返り、四肢を不自然な角度で痙攣させ、悲鳴すら上げられないまま泥のように崩れ落ちた。白目を剥き、まぶただけがピクピクと痙攣している。
私は冷たい鉄の壁に張り付き、周りの連中と同じように頭を抱えて死んだふりをしたかった。彼らのほうがよほど、この地獄での生き抜き方を熟知している。しかし、極度の恐怖で全身の筋肉が完全に硬直してしまっていた。見開いた目の前で繰り広げられる地獄絵図をただ呆然と見つめ、呼吸をすることすら忘れていた。
その「呆然と立ち尽くす」という異常な態度は、地面に這いつくばる群衆の中で、ひどく目立ってしまった。
「おい」
強烈な光が、顔面を直撃した。光の暴力に涙が溢れ、網膜が焼かれるように痛んだが、手で遮る動作すらできない。全身に速乾セメントを流し込まれたように、肉体も魂も完全に凍りついていた。
柴田が檻の前に立ち、全身を震わせる私を値踏みするように見下ろしている。下からライトで照らされた彼の顔は、眼窩と頬骨に深い影が落ち、まるで浮世絵の悪鬼のように冷酷だった。唇の端が、カミソリで切り裂いたような冷たい弧を描く。
「こんな怯えきった役立たずじゃ、走ることもできねえ。ゲームエリアに放り込んでも通路の邪魔になるだけだ」
柴田は傍らの部下に視線を流した。
「柴田の兄貴、どうしやすか」
柴田は白い手袋をゆっくりと外し、手入れの行き届いた細長い指を露わにすると、部下の腰から無造作に山刀を引き抜いた。前腕ほどの長さがある分厚い刃にはいくつもの刃こぼれがあり、正体不明の赤黒い汚れがこびりついている。ライトの光を反射した冷たい刃の輝きが、私の瞳に絶望のアーチを描いた。
「最近、底辺のゴミどもが図に乗ってやがる。基本的なルールすら忘れちまったらしい」柴田は山刀の峰でポンポンと自分の手のひらを叩きながら言った。今夜の酒のツマミを相談するような、あまりに軽い口調で。「こいつの四肢の腱を全部切って、入り口に吊るして飾りにしろ。他の連中に『静かにする方法』を教えてやれ。お前がやれ」
彼が山刀を放り投げると、部下が慣れた手つきで柄を受け取った。
脳内が、爆発したように真っ白になった。
腱を切る。入り口に吊るす。飾りにする。
その言葉が、焼けた鉄串のように脳に突き刺さる。命乞いがしたい。叫びたい。「違う、何も知らないんだ、ここにいるはずじゃないんだ」と喚き散らしたかった。しかし、恐怖が喉を締め上げ、壊れたふいごのような「ヒュー、ヒュー」という息漏れの音しか出せなかった。
二人の男が左右から檻の扉を蹴り開け、私をヒヨコのように鷲掴みにして血まみれの通路へと引きずり出した。顎が鉄網に打ち付けられ、舌を噛み、口の中に鉄錆の味が広がる。ゴツゴツした巨大な手が私の首根っこを押さえつけ、頸椎のくぼみに指が食い込み、呼吸すら封じられた。もう片方の手が私の右腕を無理やり引き伸ばし、鉄網に押し付け、五本の指を強引に開いて固定する。
先ほどの部下が前に歩み出で、山刀を高く振り上げた。刃に残る血の跡が、薄暗い照明の下で妖しく光り、生臭い匂いが鼻を突く。
必死にもがき、床の鉄網を爪で引っ掻いて指先が血だらけになった。だが、無駄だった。首を押さえる手はコンクリートの塊のように重い。山刀が風を切る冷気が手首に迫り、死そのものが指先を撫でているかのようだった。骨髄まで凍るような絶望が、私の最後の理性を完全に呑み込んだ。
目を固く閉じ、喉の奥から瀕死の獣のような嗚咽を漏らす。真っ暗な視界の中で、自分の心臓の音だけが今にも破裂しそうなほど狂ったように鳴り響いていた。
ドンッ!
だが、訪れたのは肉が断たれる嫌な音ではなく、鈍い衝撃音だった。
予想していた激痛は来ない。首を押さえつけていた圧迫感が不意に消え去る。私は勢いよく目を開き、錆臭い空気を肺いっぱいに吸い込んだ。涙でぼやけた視界の先に——
岩のように分厚く、広い背中が立ちはだかっていた。
周りの痩せこけた連中と同じボロボロの麻布を着ているが、体格はまるで違った。張り詰めた背筋が麻布をテントのように押し上げ、腕には太い青筋が浮かび、過酷な労働で鍛え抜かれた鋼のような筋肉をしている。ボサボサの褐色の巻き毛の下には、彫りの深い中東系の顔立ち。顔の半分を覆う濃い髭には、泥か血の塊のようなものがこびりついている。
だが、その汚れの奥で、男の目はギラギラと強烈な光を放っていた。男は瞬時に振り返ると、山刀を振り下ろそうとした部下の手首を、丸太のような腕でガッチリと受け止めていたのだ。ギリッ、と部下の関節がきしむ音がする。
「てめえ、死にてえのか!」別の黒服が激高し、蹴りかかろうとした。
「お待ちください。私めはアミールと申します」
中東系の大男は反撃するどころか、スッと腰を深く折り曲げ、極端なまでに卑屈な態度をとった。頭を腰よりも低く下げ、まるで飼い慣らされた犬のようだ。その滑らかな土下座まがいの動きは、先ほどの力強い制止とはあまりに不気味なほど対照的だった。
柴田は面白そうに眉をひそめ、手袋をいじる手を止めた。「なんだ? 代わりに腕を切り落とされたいのか? 腕を一本切り飛ばして血を見る程度じゃ、『報復ペナルティ』は発動しねえぞ」
アミールは頭を下げたまま、大きな手をゆっくりと腰の布袋に忍ばせた。その動きに黒服たちが一斉に殺気を放ち、無数のフラッシュライトとスタンガンが彼に向けられる。青白いスパークがバチバチと鳴った。
彼が取り出したのは武器ではなく、銀色のアルミホイルに包まれた小さな四角い物体だった。アミールの親指がホイルの端をめくると、淡いブルーの蛍光を放つ半透明のフィルムがわずかに顔を出した。
「もうすぐ『開局』です、柴田様」アミールの日本語は訛りが強いが、発音は異様なほどはっきりしていた。「暗夜ゲームには罠が山ほどあります。ここでは人を殺せませんが、もし今この男の手足を切ってしまえば、五体満足な“歩く地雷探知機”が一人減ってしまいます。長官たちの攻略率にも影響が出るかと」
彼は両手でそのアルミ包みを捧げ持ち、先ほど蹴りかかろうとした黒服へと恭しく差し出した。
「これを、この若造の命の代金としてお納めください。手足を残しておけば、入場した際に少しでも長く走って、皆様の代わりに地雷を踏めましょう」
柴田はそのホイル包みを見下ろし、それから自分の胸元の壊れかけのキーに目をやった。数秒の沈黙の後、鼻で冷たく笑い、わずかに顎をしゃくった。
黒服がひったくるようにホイル包みを奪い取る。待ちきれない様子で包装を剥がし、半透明のフィルムをむき出しにすると、貪るように自分の首筋の頸動脈に貼り付けた。フィルムが肌に触れた瞬間、黒服の瞳孔がわずかに開き、その顔に病的なまでの安堵感が広がった。
「……礼儀はわかってるようだな」柴田は一歩歩み寄り、白い手袋でアミールの頬を軽く二回叩いた。強くはないが、明確な屈辱を込めた手つきだった。解剖医のように冷たい視線がアミールの目を射抜く。「列に戻れ。中に入ったら、お前ら二人が先頭だ」
言い捨てると、柴田は振り返り、鉄檻の柵を思い切り蹴り飛ばした。底層全体が共鳴し、暗赤色の錆が雨のように降り注ぐ。
「死んだふりしてんじゃねえ! この豚どもを全部叩き出せ! 入場だ!」
革靴の音が次第に遠ざかっていく。私は血まみれの鉄網の上にへたり込み、マラリアの発作のように全身を激しく震わせていた。無傷の右手を見つめ、何度も指を動かして確かめるが、頭の中は真っ白だ。つい数秒前まで四肢を切断される恐怖に直面していた反動で、凄まじい虚脱感に襲われている。涙と鼻水が顔面を覆い、それが自分の体液なのか他人の血なのかすらわからなかった。
不意に、ゴツゴツした巨大な手が私の襟首を掴み、乱暴に地面から引きずり起こした。
アミールの顔から、あの卑屈な笑みは綺麗さっぱり消え失せていた。まるで薄っぺらい仮面を剥ぎ取ったように。彼は私を薄暗い死角へと引きずり込み、その大きな体で黒服たちの視線を遮った。影の中で見せるその冷酷で鋭い瞳は、先ほど柴田に見せていた顔とは完全に別人のものだった。
何か言おうと口を開きかけた。礼を言うべきか、なぜ命懸けで助けてくれたのかを聞くべきか。
「しっ」
アミールが太い人差し指を立て、私の震える唇に強く押し当てた。濃厚な汗と血の匂いが鼻を突き、指の腹の分厚いタコが、乾いた唇を紙やすりのようにこすった。
「死にたくなければ呼吸を整えろ。涙を引っ込めろ」アミールの声は極限まで押し殺されていた。「よく聞け。ここは『第十(癸)区』。最底辺の牢獄だ」
彼は周囲でうずくまる痩せこけた人々を一瞥した。「こいつらは『肉人』と呼ばれている。お前もだ。このクソみたいな場所では、お前に名前はない。身分もない。死に方すら自分で選べない」
彼は時間を惜しむように、低い声で早口に続けた。「さっきあの柴田の首にかかっていたキーは、第十区の前のリーダー、秋山雨のものだ。秋山は前回のゲームで死んだ。柴田はここのナンバーツーだ。スーツを着ている奴らは全員柴田の手下で、監視役だ」
私はまだ状況が飲み込めず、何かを聞こうと唇を動かしたが、アミールはそれを制した。
「あいつらが言う“地雷探知機”ってのは、お前と俺のことだ。暗夜ゲームのルールは極めて凶悪でね。安全なルートを切り開くために、大量の使い捨ての駒に罠を踏ませて、死のギミックを強制発動させる必要がある。さっきの警棒を見ただろ?」彼の目が氷のように冷たくなる。「この場所には絶対的な掟がある。ゲームエリア以外での『致死的な暴力』は、ルールの『報復ペナルティ』を招く。人を殺した者には千倍のダメージが跳ね返るんだ。だから監視役は直接人を殺せない。だが、ルールのギリギリを攻めて、手足の腱を切ったり肋骨を折ったりすることは『致命傷』とは見なされない。あの警棒も、意図的に出力を調整してある」
一呼吸置き、彼は先ほど殺し合っていた二人を顎でしゃくった。「あいつらが奪い合っていたのは骨じゃない。この場所では空腹感なんてとうに麻痺していて、物を食う意味がない。あいつらが欲しがっているのは、護身や鍵開けに使える『道具』だ。さっき俺が黒服に渡したのは『神経遮断パッチ』。外の世界じゃただの医療廃棄物だが、ここでは殺し合いが起きるほどの通貨になる。痛覚をブロックできるからな。自殺すらペナルティの対象になるこの地獄じゃ、痛みを感じないことが最高の贅沢なんだ」
言い終えると、彼は私の目を真っ直ぐに見据え、一語一句、脳に刻み込むように言った。
「今夜を生き延びたければ、三つの鉄則を覚えろ」
「第一に、頭を下げろ。スーツを着た監視役とは絶対に目を合わせるな。奴らはルールの抜け穴を使って、お前を生き地獄に落とす方法をいくらでも知っている」
「第二に、口を閉じろ。ゲームが始まったら、隣の奴が生きたまま噛み砕かれようが、腸をぶちまけようが、絶対に声を出すな」
「第三に、死んだふりをしろ。ゲームの中でどんなバケモノに遭遇しても、自分の番が来ない限り、呼吸すら忘れた石ころになりきれ」
私は呆然と目の前の大男を見つめた。暴れ狂っていた心臓が、わずかに落ち着きを取り戻す。彼の目的が何であれ、少なくとも今、私の手足はまだ自分の体にくっついているのだから。
この残酷な生存のルールを消化する間もなく、底層の空気が突如として鉛のように重くなった。目に見えない重力が四方八方から押し潰してくるような圧迫感。人類の理解をはるかに超えた「巨大な何か」が目を覚まそうとしている。
換気扇の隙間から漏れていた赤い光が、前触れもなくフッと消えた。底層全体が完全な死の静寂に包まれ、自分の指先すら見えない漆黒の闇がすべてを呑み込む。狂乱していた者たちすら無意味な争いをやめ、怯えたように空を見上げた。空気中には、嵐の前のオゾンのような、奇妙な焦げ臭さが漂い始めた。
頭上の分厚い鉛色の金属天井から、鼓膜をひっかくような機械の駆動音が響き始める。ズズズ……という重低音が、空間全体を震わせた。
とてつもなく巨大で、冷酷な何かが、ゆっくりと覚醒しようとしている。
耳をつんざくような金属の破断音とともに、天井が裂けた。反射的に首をすくめると、アミールの大きな手がすかさず私の肩を力強く押さえつける。
「動くな」彼の声には、初めてわずかな震えが混じっていた。「……来たぞ」
天井の金属板が左右に大きく開き、舞い上がった赤錆が血の霧のように空間を満たす。そこに星空はない。夜空もない。
漆黒の虚空の中、無数の深紅のクリスタルで構成された「巨大な機械の瞳」が、突如としてカッ!と見開かれたのだ。
直径は優に数十メートルはあり、はるか上空に浮かんでいる。深紅のクリスタルが精密な同心円状に並び、中央には底なしの純黒の瞳孔があった。周囲の赤いクリスタルは絶えずゆっくりと回転し、配列を変え続けている。まるで万物を解析し尽くす、永遠に動き続ける神の観測機のように。
血のようにドロリとした赤い光が、その巨大な目から一気に降り注いだ。底層の隅々までを、死者のような蒼白さで不気味に照らし出す。それは単なる光ではなかった。ある種の質量と粘り気を持ち、肌に触れると冷たい泥水に浸かっているかのように、全身の毛穴が痛いほど収縮した。
「あれが“神の目”だ」アミールは唇をほとんど動かさず、歯の隙間から声を絞り出した。「この場所の監視者であり、絶対の裁定者。すべてのルールはあれが定めた。あれが『見た』ものすべてが、ここでは法になる」
『暗夜ゲーム:血肉のブラインドボックス、まもなく開始します』
感情の欠片もない機械音声が響いた。いや、空気を伝わったのではない。脳の奥深くに直接、強制的に信号が書き込まれたのだ。方向も、距離もない。自分自身の思考の声のようでありながら、完全に制御不能なノイズ。私は苦痛に顔を歪め、両手で耳を塞いだが、何の意味もなかった。自分の思考を手で塞ぐことができないのと同じだ。
静まり返っていた群衆が、先ほどよりもさらに凄惨な絶叫を上げた。狂ったように檻の奥へ逃げ込む者。泥水にひざまずいて狂信者のように額をすりつけ、鉄網に頭を打ち付けて顔中を血と泥まみれにしながら命乞いをする者。
「死んだふりしてんじゃねえ! 立て! さっさと入れ!」
柴田の怒号が、群衆の阿鼻叫喚を切り裂いた。彼は懐から漆黒の特殊警棒を引き抜き、鋭く振り下ろす。先端で眩い青白いスパークが弾け、オゾンの刺激臭が空気を焦がした。彼は大股で歩き出し、檻に逃げ込もうとする者の背中を容赦なく打ち据えた。
肉が焦げる異臭が鼻をつき、私は思わず吐き気を催した。打たれた者は激しく痙攣しながら地面を転げ回り、喉を潰されたような凄絶な悲鳴を上げた。
柴田は冷たく鼻を鳴らし、二度目は打たなかった。
黒服たちが即座に散開し、屠殺場で家畜を追い立てるように、低出力の警棒と蹴りで群衆を広場の中央へと追いやる。
赤い光に照らされた中央の広場が、突如として激しく震動し始めた。足元の鉄網が低周波で共鳴し、足の裏から骨の髄までがビリビリと痺れる。地鳴りのような轟音とともに、地面が中央から陥没し、真っ暗な亀裂が走った。
亀裂はみるみるうちに広がり、三階建てのビルほどもある巨大な「青銅の門」が、地底からゆっくりとせり上がってきた。赤錆に覆われた門の表面にはおぞましいレリーフがびっしりと刻まれ、赤い光の下でうねうねと蠢き、まるで生きているように見えた。
これこそが、アミールの言っていた「ゲームの扉」だ。
門の隙間がわずかに開いた瞬間、息が詰まるほどの生臭い突風が吹き付けた。それは底層に何ヶ月も堆積した排泄物や腐肉の臭いを十倍に濃縮したような、物理的な質量すら感じるほどの悪臭だった。見えざる手が胃袋を直接掴んで裏返そうとしているかのようだ。
「俺から離れるなよ。絶対にだ」アミールは押し殺した声で言うと、私の後ろ襟を掴み、強制的に人の波へと引きずり込んだ。
足の震えが止まらず、一歩踏み出すごとに膝から崩れ落ちそうになる。せり上がってくる胃酸を無理やり飲み込み、喉が焼けるように痛んだが、アミールに引きずられて前に進むしかなかった。死を免れたわずかな安堵は、この門から放たれる圧倒的な「死の気配」の前に完全に粉砕されていた。
「地雷探知機」の本当の意味を、私はここに至ってようやく理解した。
私たちは、未知の罠に押し込まれ、死のルールを自らの肉体をもって解明するための——「生きた肉塊」なのだ。
私とアミールは、群衆の最前列へと押し出された。青銅の巨門が目の前にそびえ立ち、隙間から漏れる冷気が無数の氷の蛇のように手足に絡みつく。門の向こうの闇は、光すら逃がさない深淵のように深かった。
この息の詰まるような圧迫感の中、脳の奥底で突然、鋭い痛みが走った。普通の頭痛ではない。頭蓋骨の裏側で、何かのプログラムが急速に展開し、インストールされているような奇妙な感覚。
血に染まっていた視界の隅に、前触れもなく淡いブルーのデータストリームが浮かび上がった。無数の記号と文字列が、滝のように網膜を滑り落ちていく。続いて、この絶望的な世界にはあまりにも不釣り合いな、無機質な文字列が視界の中央にポップアップした。誰かが眼球の裏側に直接文字を焼き付けたかのように。
『高次元ルールフィールドを検出……脆弱性解析エンジン、起動完了』
その瞬間、私の視界に映る世界に、微細だが決定的な変化が起きた。
第十区の底層にあるすべてのもの——鉄の檻、飛び散った錆、うずくまる人々——その輪郭に重なるように、半透明の淡いブルーのグリッド線が浮かび上がったのだ。
それが何を意味するのかを理解する前に、背後の高台から柴田の声が響いた。
彼は空の鉄檻を積み上げた即席の足場に立ち、見下ろしていた。これから無惨に死にゆく使い捨ての駒たちを。下からライトで照らされた彼のシルエットが、壁に巨大な影を落としている。彼は胸元の壊れかけのキーに触れ、陰湿な視線で群衆を素早く見回した。何かを探すように。そして最後に、アミールのいる方向で一瞬だけ視線を止めた。
「急げ! 黒焦げになりたくなきゃ、さっさと中に入りやがれ!」
黒服たちの警棒が群衆の最後尾で次々と火花を散らし、絶叫が連鎖する。
群衆は押し合いへし合いしながら、まるでゴミ箱に廃棄されるように、あの粘つく闇の中へと無理やり雪崩れ込んでいった。青銅の門の敷居をまたいだ瞬間、気温が氷点下まで急降下した。泣き叫ぶ声も、スタンガンの音も、柴田の怒号も、この門を境にプツリと途絶え、ただ自分自身の荒い呼吸と激しい心拍音だけが響く。
本能的に顔を上げた。
網膜に浮かぶ淡いブルーのグリッドが激しく点滅し、続いて血のように赤いデジタルの数字が、視界のど真ん中に浮かび上がった。
【カウントダウン:00:00:59】
数字は容赦なく時を刻み始めた。58、57、56……。一秒ごとに、自分の寿命が削られていくようだ。
そして、門の向こうの底知れぬ闇の奥から。
おぞましい「咀嚼音」が、はっきりと聞こえてきた。
グチャ、グチャ……。
湿り気を帯びたその音は、ゆっくりと、一定のリズムを刻んでいる。何か巨大な怪物が、口の中の肉片をじっくりと味わい、時折、満足げに喉を鳴らしているかのように。




