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落ち着けー!一度立ち止まって
方向性と静止摩擦
放課後の部室。
西村が黒板に「静止摩擦」と大きく書いた。
「え、また変な呪文〜?」
佐伯が机に身を乗り出す。
「呪文じゃない。方向が違うベクトルが同時に働くと、動くほどズレる。
だから一度立ち止まって“静止摩擦”を作るんだ」
「ピタッと止まって様子見するタイムってことね〜!」
佐伯が机に両手を置いて固まる。
「そう。で、方向が決まったら“ズレ”を探す。
進行ベクトルと目標ベクトルの差、それが誤差ベクトルE。
あとは逆向きの修正ベクトルを当てればいい」
高橋が笑う。
「つまり、間違ってるとこにピンポイントでぶつけるってことね」
──ガラッ。国枝先生が入ってきた。
「お前ら、文化祭の準備進んでるか?」
佐伯が元気よく手を挙げる。
「はいっ! 今、静止摩擦タイムで〜す!」
先生の目が輝く。
「いいね、それはまるで戊辰戦争前の薩長同盟だ。
まず立ち止まって方向を決め、次に誤差——幕府勢力——に正面から修正ベクトルをぶつけた」
高橋が肩をすくめる。
「じゃあ俺らも龍馬役が必要ですね」
「いや、今は俺がやる。さあ静止摩擦を解除して動け!」
「え〜っ! 文化祭版・大政奉還始まっちゃう〜!?」
佐伯が机にしがみついた。




