エンターテイメントの憂鬱
昼休み。
佐伯がスマホを見ながら言った。
「ねぇ、また“日本の少子化が過去最悪”ってニュース出てる」
西村が首をかしげる。
「これ、ずっと加速してるな」
高橋がスマホを取り、画面をスクロールする。
「ふーん……でもさ、俺はパチンコのせいもかなりデカいと思ってる」
佐伯が驚いた顔をする。
「え、そこ?」
高橋は指を立てて説明する。
「金と時間。日本人が何十年もパチンコに吸い込まれた額は数十兆円規模。
例えば地方の商店街、昔は家族連れで賑わってたのに、今はパチンコ屋と駐車場ばっかり。
その金で住宅買ったり、自己研磨に時間とお金を投資しとけば出生率は少しは変わった」
西村がメモを取るように頷く。
「依存症で金と時間が流出し続けた構図か」
——
俺「……でも、パチンコだけじゃない」
「他に?」佐伯が聞く。
「ゲーム、SNS、娯楽全般。
仮想世界で欲求を満たせば、現実で欲求を満たす必要は薄れる。
昔は縁側で近所と話すのが承認欲求の舞台だったけど、今は通知音ひとつで満たされる」
西村が興味深そうに顔を上げる。
「つまり、帰属欲求や承認欲求が現実から切り離される?」
「そう。昔は家族や地域の寄り合いとかで満たしてた欲求が、
今は画面の向こうのコミュニティで手軽に満たせる。
その上、長時間労働、都市部の住宅価格、教育費の高騰。
生活コストが高いと、防衛欲求が“子どもを作らない選択”を正当化する」
頭のいいふりは疲れるぜ
高橋がニヤリとする。
「なるほど。結局、摩擦は社会構造と娯楽構造の両方に仕込まれてるってことやね」
こいつもロックの作詞志望だったよな
ネタ探しに俺らと絡んでる訳か
西村が黒板に書き加える。
「社会摩擦係数:金銭摩擦・時間摩擦・精神摩擦」
こいつだけはだだの天然秀才に感じる
——
国枝先生が入ってきた。
「お、少子化の話? じゃあ先生も意見言うぞ」
佐伯が笑う。
「先生はどう思います?」
「結婚するメリットをもっとアピールすべきだな。例えば……結婚式で新郎新婦のSNSフォロワーが倍増するとか」
高橋が冷たい声で突っ込む。
「先生、それ自分の承認欲求フィルター通ってます」
——俺は心の中で思った。
少子化問題は、摩擦の種類より、人間の欲求のベクトルのXYZ軸と速度が完全に変化を遂げたんだと。




