なんでそこでスマホいじっちゃうかなぁ
昼休み、部室。
西村が机にスマホを置き、真顔で言った。
「これが人類史上、最も摩擦係数の低い道具だ」
佐伯が首をかしげる。
「え、スマホが?」
「そう。欲求がベクトルになった瞬間、ほぼゼロ秒で行動に移せる。
連絡、買い物、情報収集、娯楽……全部指一本」
高橋が笑う。
「つまり“怠けたい欲”と“刺激欲”を同時に満たす最強ツール」
俺は机に肘をつき、ぼそっと言った。
「……仕事のやる気のベクトルが大きくても摩擦係数を掛けると簡単に摩擦係数ほぼ0のスマホに向く意識の方がデカくなる」
佐伯はため息をつく。
「そりゃ授業中にみんな触るわけだ」
⸻
ドアが開き、国枝先生が入ってくる。
「お、スマホの話? いいなぁ、俺も最新モデル欲しいんだよな」
高橋がニヤリとする。
「先生、それは物欲です」
「いやいや、顧問として必要な連絡ツールだよ。
部活の連絡とか、活動写真のSNS投稿とかさ」
俺が口を挟む。
「摩擦係数ゼロで承認欲求を満たす装置」
国枝は苦笑しつつポケットのスマホを取り出したが、
画面を見た瞬間、表情が変わった。
「……あ、今月のクレカ限度額、もういっぱいだ」
西村が小声で言う。
「限度額という摩擦係数、発動」
⸻
佐伯が話題を戻す。
「でもさ、摩擦が低すぎると、逆に動きすぎて止まらなくなるよね」
俺はうなずく。
「制御しないとベクトル暴走。時間も注意も吸い尽くされる」
高橋がスマホをくるくる回しながら笑う。
「ま、俺は摩擦ゼロで快適に生きるけどね」
——その隣で、国枝先生は“最新モデル 分割払い”を検索していた。




