Episode.34 「マズいことになった…」
(鬼蓮side)
蓮花に言われた通り親友ちゃんを影の中に引き込んだ。
鬼蓮「親友ちゃん。いや、旭。俺だ、鬼蓮だ」
旭「鬼蓮ちゃん?あれ何で?」
鬼蓮「説明は後だ。とにかくあいつらの所に移動するぞ」
俺の移動範囲は『影』。つまりは、「この屋敷内に死角なし」。
時間は距離に関係ない。第三者から見れば「瞬間移動」に見えるだろう。
旭を抱え影から出た場所は…
鬼蓮「居るかい坊や」
夕陽「うおっ!?」
ブレイズ「あ、出た」
鬼蓮「誰が出たじゃ」
まぁ確かに俺は半不死身の半幽霊だが。
旭を下ろしてかなり大雑把に説明した。
夕陽「……なんだと!?」
ラトナ「オイ!!それで蓮花の奴は!?」
坊やと女顔少年がかなり焦った顔を見せる。
…成る程、そういう…。いや、今はそれどころじゃない。
鬼蓮「分からないが…あの飄々君がいるとはいえ、無事ではないのかもな…」
ラトナ「飄々君って…お前人の名前覚える気はないのかよ」
鬼蓮「今のところない」
基本興味のない奴の名は覚えん主義だ。
特に…自分の感情に気付かない奴はな。
ブレイズ「リューも無事なのか心配だ。急ごう」
俺の現れた位置はちょうど背後に扉がある場所だったらしい。坊やが扉に触れる直前。微かに殺気を感じた。扉の向こうからだ。
鬼蓮「開けるな!」
だが遅かった。そう言った時には既に扉は開いていた。
咄嗟に坊やの頭を右腕で床に下げた。
刹那。銀色に光るナイフが後ろの壁に突き刺さる。
それは俺の左腕を肘の下からぶった斬り、床に落ちる。床に落ちた方も斬られた方も尋常でない出血量が流れている。
だが、俺はもう人間じゃない。妖怪である。化け物じみた驚異の回復力で一瞬のうちに床に落ちた腕が『影』に吸い込まれ、俺の腕が復活する。
…まぁ、痛いものは痛いが。
鬼蓮「っ……!!」
夕陽「お前っ…大丈夫なのか!?」
傍にいた彼らが俺を心配するのは当然だ。
影に引っ込めば痛みは消える。だが、こんな時に引っ込んでられるかよ。
コツコツと規則正しい音と、不規則な音と何かを引きずるような音。
「……残念ですが、蓮花様の所には行かせられません」
鬼蓮「…やはりな。お前様か。あのナイフを投げたのは」
夕陽「……!?」
ラトナ「おいおいマジかよ…」
ブレイズ「何か怪しいと思ったけど、まさか貴方とはね。
Mr.バトラ、Ms.メード」
バトラ・ディーコン。メード・サーバンド。
眼鏡執事君の方は…巨大な十字架に斧みたいな刃、ハルバードを肩に乗せて持っている。
不思議メイドっ子の方は、やはりあの巨大なハサミを…引きずっているのか。意外にも床は傷ついていない。
バトラ「おや、最初から分かっていたのですね。鬼蓮様、ブレイズ様」
メード「…ふゎぁ…」
バトラ「メード。分かっていますね」
メード「…うん」
あの眼鏡執事君の投げるナイフは銀製。それも無数…いや。どこからでも、どんな状況でも、どんな形でも、どんな大きさでも、いくつでも。つまり自由自在にあのナイフを使えるらしい。更に厄介なのは他の武器…ハルバードも出せるらしい。というか主に使うらしい。現に俺達に構えている。
それにあんな眠そうな不思議メイドっ子とはいえ、馬鹿でかい鋏振り回されたら…おまけによく見れば黒く塗られているが銀製。…こいつら、吸血鬼狩人なのか?
…俺はともかく、まだ幼い九尾の旭や生身の人間の坊や達が危険だ。
鬼蓮「…下がってな。坊や達」
夕陽「…いつまでも坊や坊やといわれる年じゃない。自分の身ぐらい自分で守る」
ラトナ「流石に大人といえ女性に守られる程弱くはねぇよ」
ブレイズ「君が言うかい?」
鬼蓮「…馬鹿野郎!あれがわからないのか?あの武器を見る限り、あいつらは…!」
夕陽「ヴァンパイアハンター。…戦闘に関してプロと言いたいのか?」
まさにその通り。
とはいっても俺は元々山風麻奈美が自己防衛の為に生み出した唯一無二の人格だ。
つまり。元一般人である。
つまり。この二名にはほぼ敵わない、言ってみれば「RPGにおいてラスボス倒した直後に出くわす序盤の雑魚敵」のような存在である。
いや、むしろ蚊か蟻のようなもんか?
『バトラ。メード。もう相手はしなくていいよ』
この声は…さっきの奴の。
バトラ「畏まりました。マスター『ブラッド・ヴァンフェーニ』様」
メード「…了解」
二人は持っていた武器を床に突き刺す。
赤い光があふれ、二人が消えた。
…ブラッド・ヴァンフェーニ…。
どうやらソイツがこんなことを目論んだらしいな。
覚えておこう。そして…
鬼蓮「──徹底的に、ぶっ潰す」
たとえ俺が地獄に送られても。蓮花を守る為なら、それでもいい。