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8話 カスタードとホイップ

コーリィは10歳になった。

あと、数ヶ月もすれば晴れて紋章を手にできる

だからといって気持ちは浮かなかった。


タブレットのアプリを起動し合成音声が朗読を始める。


『君との出会いを楽しみに待っている。今度は対面で会いましょう。』


最後の朗読が終わるとアプリは自動終了する。


「あと、3ヶ月か…」


タブレットを操りながらつぶやくコーリィ

出会うきっかけの日となる可能性を考えた結果、

解紋の儀の日遭遇する確率が高いと見ていた。

ただ、自分の頭で考えられることはそこまでだ。

そこからは唯自分の推測と妄想を繰り返すだけであった。


自分がこの端末を手に入れてからは、書庫に篭りっきりだ

今後何が起きても良いために、サバイバル知識となるものは

片っ端から模写してきた。

こちらの言語を日本語に翻訳するのも一苦労だった。


コーリィは一息つきタブレットの時間を確認する。

そして、腰を上げタブレットを鞄の中へ入れた後、

外へと向かっていった。


・・・


ラータ村中央広場の商店入り口前

コンフィル、ライル、マミル、コーリィの4名は

商店入り口横にあるベンチに座り、

商店新商品であるお菓子を頬張っていた。

見た目は饅頭みたいだが、中には

カスタードクリームとホイップクリームが

半々で詰まったお菓子だ。


「おっいし~つ!」


マミルが目を光らせながら喜んでた。


「これおいしいね!っあ!コーちゃんいらないの?じゃあ食べてあげるね!」


マミルが饅頭カスタードを取った。

するとコンフィルが口を開く


「おいマミル、たしかに美味いががっつき過ぎだ。もう少し淑女としての自覚をもて」


「コンちゃんうるさ~い、難しい言葉はわからないの」


マミルはコーリィのだった饅頭カスタードを美味しそうに頬張った。


「コーちゃん甘いもの嫌いっだったっけ?」


指についたクリームを舐めながらライルが疑問を口にする。


「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、

 マミルが美味そうに食うなって見てたら

 いつの間にかなくなっていたんだ」


「奪われてるんじゃんそれ!」


ライルから鋭いツッコミを頂いた。

しかしマミルはしらんふりを突き通していた。

意外と図太い神経をお持ちのようだ。


「まぁいいさ、構造は単純だから自分で作るさ」


「えっ!コーちゃんもう紋章持ってるの!?」


紋章がないと物が作れないその思考はどうかとコーリィは思った。


「んなわけあるか、趣味でよくお菓子作ってるの」


途中、マミルが割って入ってきた。


「と言うことはコーちゃんのお嫁さんに行けば

 お菓子が食べ放題ということ?」


うむ、そのとおりだが、マミルとの付き合い方を

少し見直さないといけない。


「おいマミル、お前は血なまぐさい未来が見たいのか?」


「見たくない、言ってみただけ」


「容易に想像できちゃうって所が怖いよね」


皆、理解しているのだろう。

私ことコーリィ・サスウェイの幼なじみであるセシリアさん。

この3人は知っている。セシリアさんの本性を。


少し間があり再度コンフィルが口を開く


「そういえば、コー、そろそろお兄さんの兵役も切れる頃では?」


「その事だけど、どうも向こうで知り合った女の子との関係もあるから

 もう少しだけ都にいるって手紙が来てたんだよ」


「マルクスさんらしいな」


「ちなみに私もコーちゃんのお兄ちゃんに口説かれたよ」


「マルクス兄さんってみんなの反面教師になってるよね」


「節操なしの兄貴で申し訳ない」


都でも上手くやっている兄貴に安心してはいるものの

たまには顔見せろと言ってやりたい気持ちもある。

家族なんだからな。


「それにしても、あと3ヶ月か~」


陽気な口調でライルが口を開く

儀式の話題だと皆は理解した。


「ねぇねぇ、皆はなんの紋章が出てほしい?僕はやっぱり移動かな?

 いつか僕がその紋章を使って旅をしてみたいんだ」


「俺は元素だな、国に仕えるのが俺の夢だからな」


「僕はクリエイティブかな」


男は夢がなくちゃ始まらなという勢いで会話が

弾みだしたそれぞれ希望を語り合っていた。

そんな中、


「私ヒールがいいな。皆に崇められたいし」


とんでもない夢・希望を言い出す奴がいた。


「おいおい、マミル、いくらなんでもヒールは世界唯一の紋章だぞ

 そんな夢のまた夢のまた夢だぞ」


コンフィルは呆れた表情でマミルを見る。

マミルは頬を膨らませながら反論する。


「あー、馬鹿にしてるでしょ!見てなさいよ

 あんたちあっと言わせてやるんだから」


コンフィルは聞き流すように


「あーはいはい」


ライルは軽く笑いながら


「はいはい、なれたら一生下僕になってあげるよ」


コーリィも愛想笑いしながら


「うん、夢があるっていいね」


と言って合わせていた。

もちろん本心はなれるわけがないと思っていた。




「んだけどなぁ・・・」


コーリィはそんな3ヶ月前の出来事を思い出しながら

儀式の壇上に立つマミルを見ていた。

現在、マミルの紋章がヒールと発表され

会場全体が騒がしくなっていた。


ライル、コンフィルは既に解紋済みでどちらも元素だった。

属性はライルが風・コンフィルが火となっている。


「ライルー!、一生下僕確定だからね!」


壇上で嬉しそうに下僕を見下しているマミルに

頭抱えて震えている下僕ライル、実に滑稽である。


マミルは特別席なのか王国テントへ移動していった。

そして、解紋の儀は再開された。


コーリィはタブレットの件から

辺りを見回し怪しげな人物が居ないか

探っていたがそのような人物の人影すら見えなかった。

あてが外れたかと思っていた。


順々に人が流れ、そしてコーリィの出番となった。

いざ出番となると緊張する。

当時、手足が同時に出ていた程緊張していた。

兄マルクスの気持ちがすごいよく分かった。


個室に入ると年配の解紋師が座っていた。

指示に従い、解紋師の前に利き腕を出す。

・・・まだだろうか、利き腕に紋章が現れる気配がない。

解紋師は焦ったような素振りを見せ一度個室を退室した。


数分して、別の解紋師がやって来て同じような動作をとるが

結果、紋章は現れなかった。

コーリィは真っ裸にされ、別の場所に紋章ができていないか

確認されたがどこにも見当たらなかった。

稀に10歳でも紋章力が微弱で解紋が遅れる者がいる話を聞く、

その可能性があるとし、測定師をよび測定した結果、

コーリィに紋章力は存在しない事が判明した。

紋章力自体が無いのだ。


紋章力はこの世界の人間は必ず持っているとされる。

紋章力は紋章の使用以外にも何故生きているのかという観点からも

見られており、紋章力が作用し、

生命が活動できるという説が有力で一般的に浸透しているのだ。


そんな紋章力が全くない人間が何故生きているか。


壇上で発表された紋章無しという宣言に会場が再度騒ぎ始めた。

会場を大きくしない為、告知人は付け足しに原因は紋章力が

まだ微弱であったとと付け足した。


騒ぎはそれで収まったがコーリィ自身はそうでもなかった。


「うそ・・・だろ」


儀式が終わるまで俺は別の控え室に案内された。


椅子に腰掛け、ため息をつく。


脳裏に前世の記憶が蘇る。

仕事に就いたもののやることなすことが全て空回り。

上司からは役立たずの烙印を押され、後輩には成績を抜かれる。

上司や後輩に馬鹿にされ続け嫌になり会社を辞めたものの

再度就職しようという気力は無かった。


そうしている内に今度は家族に馬鹿にされ始めた。

しかし、役立たずではなかった。

料理・掃除・洗濯を率先してやることにより

何もしない奴よりマシという事で権利を得ていた。

しかし、それも一時的なものに過ぎずこれからどうするかと

日に日に焦り、現状維持の術を考えていた。

そんな時、事件に巻き込まれ人生がリセットされた。


神からの贈り物だと思った。

今度はしっかりと勉強も怠らない。仕事も家事も全てこなせる人間になる

という目的の元やってきたはずだ。


ここで、また役立たずの烙印を押されるのか?

そうは決まっては居ないが不安と焦りが身を支配する。


儀式が終わり、サスウェイ一家にコーリィの紋章力が無い旨を伝えられた。

両親は非常に悲しんでいる。

母ホーリィは「それじゃ死んでるも同然じゃない!」とヒステリックに叫ぶ。


その言葉がコーリィの胸を突き刺す。


父コミットは「物語より現実は奇妙なことが起こると聞くが、身にふりかかるとは思わなかったよ」


事なかれ主義の父だ。溜息混じりに言う所から面倒くさい事に

巻き込んでくれたと思っているのだろう。


幸せの期限が刻一刻と近づいている音がした。


20130802 修正

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