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7話 草原丘の祭囃子

「うむ、美しい…」


そう言いながら川辺でポージングを

決める男がいた。


「体全体が作り出す肉体美、今まで鍛えぬいた筋肉が

 描く曲線が力を込めると姿を表す。

 力強い迫力に艶かしい美を兼ね備えた肉体

 まるで美術館に飾られスポットライトを

 当てられた彫刻像のようだ。」


この自ら肉体を自画自賛する男、コーリィである。


あの日から始まった激務の日々で脂肪だらけだったコーリィの肉体は

凄まじい変化を遂げた。

最初は全身筋肉痛を繰り返す日々だった。

何度も辞めそうになったがアキメとガリアの働きにより

続けることが出来た。

しかし、それでも遅れを取らないため、必死に努力した。

まだ品出ししかできないコーリィだが持ち運べる品の種類も増え

現在では10kgある木箱を8つ重ねてを1人で運べるようになった。

体力がついたことで少し余裕が出来た。

そこで改めて自分の体をみたら驚いた。


引き締まって6つに割れている腹筋、力こぶのできる腕

最初はそれくらいの変化で感動した。

前世では弛んだ腹、丸々した顔が常日頃だったから

こんな身体になれるとは思わなかった。

しかし、現状こんな身体になってしまった。


「痩せるって結構感動するのね」


少し半泣きのコーリィだった。


そこから維持しようという意識が働き、自主練を組み、自ら体を動かしていたのだ。

するとどうだろう、段々見栄えが良くなっていく自分の体にときめきを感じていた。

そこから暇さえあれば自分の身体を見るようになった。


そこへ、大きな桶をもったセシリアが登場した。

桶からは濃い目の湯気が立っていた


「っお、セシリア。見てくれこの大胸筋、動かせるんだ・・・」


コーリィが言葉を言い切る前にセシリアは容赦なく桶の中身をコーリィへぶちまけた。

するとどうだろう先程まで自惚れていたコーリィは慌てふためき、熱い熱いと言いながら

川へ飛び込んだ。

川から顔をだすコーリィをみてセシリアはニッコリと笑い


「コーちゃん、そんな体鍛えている暇あったら、

 もう少し私を構ってもいいんじゃない?

 私嫌だよ?コーちゃんまでお父さんと同じ筋肉人形になるのは」


その笑みに絶対的な恐怖を感じ、コーリィはそれ以上の

筋肉増強トレーニングはしなくなったという。



・・・


ラータ村に、賑わいが絶えない日がやってきた。

訪れた旅人が言葉を漏らした


「おぉ、今年もこの時期がやってきたか」


広場には屋台や装飾を作っている職人

大量消費を予想し訪れた商人が行き交う

皆に活気があり、祭りの開催に心を踊らせている。


毎年の夏の始まりに開催される夏至祭『コヌハス』の

開催される日が近づいているからだ。


その中でコーリィは忙しく祭りの準備に追われていた。

昨年までは歩いて見て回るだけが役割だったのだが

今年はスパルタ商人2人の後押しもあり晴れて

商品運び出し係という役を担ったのだった。


基本的に物々交換ができるラータ村だが、祭りの際は勝手が違う、

様々な地域からきた商人とのやり取りで信用できる共通の交換物で

やり取りをしなければならない。

つまりは通貨を使用することになる。

それに合わせ、村民は事前に在庫などを度々訪れる商人と交渉し

買い取ってもらっているらしい。


大量消費が予想されるお祭りには、アルコールや食品の量が通常の

倍仕入れられる。

もちろん過去の売上を元に予測される消費量を考え、商品を仕入れるのは

基本のことだ。


しかし、目の前に現れた木箱の山はざっとコンテナ1台分ある。

一瞬発注を間違えたのかと思えるほどの量に圧倒された。

これだけの量が祭り中に消費されるということはそれ相応なお金が動くということだ。

そりゃぁ、ガリアさんもアキメ姉さんも張り切るわけだ。


汗だくになりながら、倉庫へ木箱を運ぶ。

雲ひとつ無い快晴な天気が災いし汗の量がすごい、

これは少し塩を舐めておく必要があると判断し、

休憩をすることにした。


自作の塩飴を舐めながら、物考えにふける、

10歳になりどんな紋章が与えられるか。

気持ち的にはクリエイティブ関連の紋章には興味がある。

飯が一瞬でできる紋章とか出てきたら店を開こう

など、他愛もないことを考えていた。


っふと耳に笛の音が飄々(ひょうひょう)と流れてきた。

意識を向けると笛以外にも軽快で連続する打音と金属音、

そして重く響かせる迫力のある打音とが重なり、音楽を奏でていた。


昔友人とともに祭りへ出かけてメインステージで

奏でられている祭囃子を遠目に屋台で皆と楽しんだ事があった。

まだ小学生の頃だったか、屋台の紐引きで人気ゲーム機が当たったな。

色々と感傷深くなってしまうな、やはり和楽器は日本人の心に響くわ

この笛の音色が・・・たまら・・・ん?


…っえ?


少し笛の音に心を惑わされていたが、やはり異常だということに気付いた。

ここは日本ではないし、和楽器が演奏されたことはここ一度もなかった。

相似した楽器があるのなら話は別だが、最もおかしいのは

その聞こえてきた曲だ。

これは俺のいた町の祭りで流れていた曲なのだ。


どうやら他の村民もその音に気づいているらしく

広場が慌ただしくなってきた


誰が演奏しているのだとか聞いたことのない音楽だとか

そういった話が聞こえてきた。

もちろんコーリィ以上にこの流れている音楽自体を気にする人は居ない。

ただ珍しい音楽が聞こえてきただけ、それだけだ。


やはり気になるこの音に負け、コーリィは持ち場を離れ、

音楽の出処へ向かった。


音の出処は昔よく行った草原丘の頂上から聞こえいた。

村民は練習の邪魔をしてはいけないと気を使い

遠くから見学していたらしいが奏者らしい人物の人影が

見えない事を見学していたコミットから聞いた。


コーリィは、皆に挨拶をしてくるといい、草原丘をあがっていった。

近づくにつれ、音の振動が大きくなっていくのを感じる。

村外れから広場に聞こえるまでの音だ、間近になると

相当な音量なはずだ。

どういう人が演奏しているのだろう。

もしかして同じ日本の記憶を引き継いだままこの世界へ

来てしまったアーティストなのだろうか

など、色々と妄想が絶えなかった。


そして、頂上にたどり着いた時、

音量よりもその目に見たものに驚いた。


演奏している人物は居なかった。

その代わりにあったものは

小型スピーカーとそれに接続されていたタブレット端末だった。

どちらもこの世界にはオーバー・テクノロジーな代物だ。

どちらも電気が必要となるはずだがちゃんと電源は存在した。

タブレット端末もスピーカーもコンセントは存在し、その接続先は

自転車のようなペダルのついた小型な機械に接続されていた。

これが蓄発電器の代物なのだろう。


コーリィはタブレット端末を拾い、画面に指を滑らせる。

タブレット端末のOSは大手IT会社が設計されたとされる物を元に

作成された端末なのであろう、以前使った覚えのある

インターフェイスに手惑うことなく操作が出来た。

画面の音楽の停止ボタンを押すと、今まで流れていた祭囃子は一瞬で音を消し

草木の葉擦れが辺り一面を支配した。


タブレット端末の画面をホームに戻した。

すると、『はじめまして』というラブレターみたいなアイコンを

したアプリがあることに気付き、コーリィはそのアイコンをタップ(押下)した。


画面いっぱいに文字が出てきた。

音声付きで朗読を始めた。

この音声が製作者のものと同じではないのは確かだった。

発生された声は牧谷悠人の世界で大人気だった音声合成ソフトなのだ。

なぜか声帯調整は神がかっていたので、聞き取りに苦労することはなかった。


『どうもはじめまして。この端末を君が拾うと確信してこのアプリを作成しました。

 申し訳ないが今はまだ名乗れない。しかしそんな遠くない日に名とともに姿を現そう。

 少し早いが10歳の誕生日を迎える君へ、祝としこのタブレット端末と

 足漕ぎ式蓄発電機を贈ろう。スピーカーはついでだ、大事に使ってくれると助かる。

 通信はできないが、情報を収集し、記録、即座に取り出せる端末としては優秀だろう

 君との出会いを楽しみに待っている。今度は対面で会いましょう。』


朗読が終わるとアプリは自動終了した。


「な・・・なんだよこれ」


1人つぶやくコーリィ。

展開が想定の範囲外を行き過ぎて展開についていけていない。

冷静に考えるべく塩飴を舐める。

だがやはり混乱がいまだ感情を制していて思うように考えがまとまらない。

即座に脳裏をよぎった考えを元に考えが展開してしまう。


『オーバーテクノロジーを使った世界征服』


その為に前世の記憶を持つ俺を

今のうちから仲間に入れておこうという

考えではないか。

仲間に引きこむ方法はいくらでもある。

その見せしめとしてこのタブレットを俺に・・・

と考えていると後ろに人の気配を感じた。


「しまった! 」


後ろを振り向かずすぐさま真横へ回避行動をとるが

相手の行動が一足早かった。

なにか棒状で先端にバラつきのある影が

コーリィの顔を目掛けて振り落とされているのだ。

しかし回避が見破られ、直撃は数コンマの時間の問題だった。



ぱさっとコーリィの顔に何やらくすぐったい物があたった。

恐る恐る目を開いてみるとその物体はホコリ落としだった。

それを持つ人物はアキメであった。

しかし、アキメハ眉間にシワを寄せ、眉尻辺りがぴくぴくと微動していた。


「さーぁてコーリィ君?なんでこんな所にいらっしゃるのかな? 」


コーリィはその言葉で全てを理解した。

そういえば休憩中に持ち場を離れて草原で意気揚々と塩飴舐めていたら

そりゃサボりだと思われるのも頷けるものだ。

少しこの音楽に興味が出て来てみたら随分話し込んだという話を即座に作り上げ

説明した。


ただ、このタブレット端末や蓄発電器の事は

黙っていたほうが良いと判断した。得体の知れない人物からの

贈り物だ、他の人に知られるとその人まで巻き込まれてしまう可能性があるからだ。

奏者から演奏を聞いてもらったついでに要らない物をもらった

ということで話を見繕ってアキメへ説明した。


「そういうことね。まぁそれは君に任せるわ。ガラクタっぽいし。

 それじゃあお店に戻って木箱運び続き開始するわよ。

 終わったら今日の大反省会するから覚悟しておいてね」


そう言いながらアキメは草原丘を下っていった。

コーリィは一定の距離が空いたあと、その後姿を追って

ゆっくりと草原丘を下っていった。


平和な日常が続くようにと心のなかで

何度も念じながら

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