10話 異端紋章と再会の幼馴染
わたくし、セシリア・カーネストは現在、
都の学校への準備で街へ出ていたが途中、昔知り合いの3人組と遭遇した。
そして今現在、私は都最高峰と言われたレストランに今話題沸騰中の回復系紋章術師様とご一緒に居ます。
内装はとてもきらびやかに色彩を放ち、見るものを楽しませてくれます。
明らかに上流階級のタキシードやドレスに見を包んだ紳士・淑女面々。
ここは一つの舞台のように上品な雰囲気を作り出している。
しかし、その中に汚点がひとつ、ドレスを着ていない下流に近い中流階級な
私が激しく浮いている。
上流階級御用達のレストラン。もちろんドレスコードはあるのだが、
マミルさんのワガママにより強制的にご入場。
あっちこっちの紳士・淑女方々の視線が痛い。
そんな中、視線など気にもとめずショートケーキを食べている回復系紋章術師様。
こういった所によく来ているのだろうか。
彼女の動作ひとつひとつが流れるように行われている。
といっても、フォークでケーキ切って口に入れるだけの動作なのだが
それだけでも私にはすごく美しく感じた。
「あれ?セシリー食べないの?」
「あ、うん食べます」
銀色に輝くケーキフォークでクリームを軽くすくい
口に運ぶ。
すくうと、しっかりとした固めのクリームだと思ったが
口の中でスッと溶け淡くまろやかな甘みを口の中にもたらしてくれる。
すごく手の込んだショートケーキであることが伺える。
しかし、どうも私の口に合うのはもう少し甘みを強くしてもいいかもしれない。
そう、確か昔、それを作ってくれた人がいたような?
私の考えを察したかのようにマミルが口を開く
「コーリィのケーキのほうが美味しかったんだけどな。
なかなか出会えないものね」
苦笑交じりにマミルがつぶやく
コー・・・リィ?
「ん?どうしたのセシリー?」
「すいません、コーリィって・・・」
マミルの目が見開いている。どうしたのだろう?
そこまで驚くようなことなのだろうか?
「セシリー?どうしたの?コーリィをめぐって
私と殴り合いの喧嘩までしたのに」
世界2人目の回復紋章術師様と男をめぐって大喧嘩だなんて
幼き頃の私は一体何をしていたのだろうか。
「すいません、幼い頃の記憶で一部だけ取り除かれたかのように
消えているんで・・・その方は今どうされているんですか?」
「記憶が?」
マミルは少し憂鬱な表情をみせた。
それから少し間が空き、再度口を開く
「そう、それなら思い出さない方がいいわ。
かなり辛い記憶だから」
「はぁ・・・」
私は疑問形でしか答えることが出来なかった。
「唯一言えることは、彼はこの世にはもう居ないわ」
「そう、ですか」
それからはマミルとの会話もあまりなく。
味気ないケーキを黙々と食べた。
マミルと別れ、寮へと帰った。
・・・
その後、あの3人と会うことはなかった。
私は何事も無く都の学校を3年続け
そして卒業。
生まれ故郷であるラギルスへ帰ってきた。
それからは父のつてでラータ村アキメさんの商店で働く事になった。
ラータ村での暮らしは私には丁度良かった。
特に代わり映えしない毎日だが、それなりに充実していた。
あの時聞いたコーリィという人物もこの村の出身と聞くが
私は彼の墓を見に行くことはなかった。
記憶に無い人物の墓になんの興味もなかった。
理由はそれだけだ。
それからさらに数年が経ち、あの3人のその後が私の耳にも入ってきた。
コンフィルは王室の騎士として昇格し、順風満帆だったのだが
隣国の刺客による闇討ちにあい死亡したという。
ライルは女癖悪さが災いし、執拗に迫った女の
連れに首を切られ町中に晒されたと聞いた。
マミルは希少な紋章を増やさせるため、
子供を産まされ続けていた。
紋章は子にも受け継がれるという確証はまだ立証されていないのに
可能性にすがる者達の実験体として使われていたのだろう。
裏で初代回復紋章師が糸を引いていると噂されていた。
気が狂ったマミルは自ら命を断ったという。
そして、ラータ村で私が目にしたもの。
アキメさんは妊娠したと同時に夫マルクスさんが戦死。
最後の希望である子供は流産という結果。
サスウェイ一家は息子を失い病んだホーリィさんにより
夫のコミットさんを殺害し自らも命を断った。
サスウェイ家は一家全滅に陥った。
全てが不幸な結末で終わっている。
ラータ村ではこれらをコーリィ・サスウェイの呪いとして
認知されている。
父が言っていた、私だけが彼の味方だったと
だから私だけが幸せを迎えようとしている。
アキメさんから紹介された男性と交際、先日プロポーズされた所だ。
私もこれから先、子を産み育て1人の母親として生きて行くのだ。
その生き方に不満はない、むしろ女の幸せな一生をここまで忠実によく
再現できたと自分自身を褒めてやりたい。
しかし少しだけ引っかかることはある。
私の中に眠るコーリィという人物の記憶だ。
記憶が無いにしても、せめて彼の記憶の中での私は
彼を好きで在り続けたセシリア・カーネストに違いない
そして彼が亡くなり、私がそれを乗り越え幸せに生きているという
報告は一応するべきだろう。
そう考え、私は墓地へやってきた。
そしてコーリィの墓を探す。
少し入った所に1つだけ他の墓と違う物が
置かれていた墓が合った。
黒い板と白い石で出来たネックレスだ。黒い板は表面はガラスで覆われているのであろう
ヒビが入っていた。
白い石のネックレスには紋章が刻まれている。なんの紋章かは分からない。
「!!」
私がこの墓の眼の前に経つと黒い板は突然光り出した。
私は驚き、距離を取ったのだが、光り出した以外に特に
何もなかった。再度近づき板を覗きこむ
そこに大きく映しだされたものは赤く丸い突起のようなものだ。
押せというのだろうか?それなら押さない。
嫌な予感がした。
これが私の幸せを奪う何かであることが予測できたからだ。
周りの知り合いは全て不幸になった。
私も不幸にならないわけがない。
黒い板とのにらみ合いが続いた。
すると、板から音が聞こえてきた。
最初は何を言っているのかわからなかったが
段々と耳が慣れてきた。これは声だ。
ずっと同じ言葉を繰り返していた。
「これは不幸な結末を変えるもの。信じるも信じないも君次第だ」
それだけだった。
どう信じろというのだろう?
この場からさっさと逃げ出そう。
そして二度とここへは来ない事にしよう。
私は今すぐこの場から離れようとした。
しかし、耳に残るこの声は
そう、この懐かしい声が・・・私の脳を揺さぶる。
体中に電流が走った感覚に陥った。
頭の中が全てが真っ白になった。
ハッと我に返り、私は深く深呼吸をする。
そのあとに自己嫌悪混じりの思考が頭を支配した。
幸せ?何を言っているんだ私は
一番最初に不幸になっているのは私じゃないか。
この人の作るお菓子が好きでよく一緒に食べた。
この人は余計な所で凝り性で影響され易かった。
この人のちょっとハニカム顔がとても好きでよく悪戯した。
私はその内この人を好きになった。
そしてこの人が大事な時に私は守れなかった。
「コーちゃん・・・ごめんね。」
私はおもむろに白い石のネックレスを手にとった。
「でもさ、今度は守ってみせるからね」
この石に刻まれている紋章は最初の紋章
全ての分類から外れた異端紋章。
「術式発動」
その言葉と同時に私の意識はこの世界から消えた。
・・・
意識はある、目は開いているが視界はボヤけ全く見えてこない。
頭には何かがグチャグチャと這いずりまわっているような
壮絶な不快感が巡っている。
早くこの不快感から開放してと叫びたい。
そして徐々に弱まっていく不快感に安堵し、
ぼやけていた目の前がようやく
はっきりと見えてきた。
手を差し伸べるコーリィが見えた。
私は父ガリアの背に隠れながらコーリィを
見ていた。
この場面は・・・・たまにはいいところに飛んでくれるじゃない。
詫びのつもり?
「僕はパパと仲良しだよ」
「そうそう、俺はコーリィと仲良しだ」
このタイミング!
結構溜まってんだから、しっかり受け止めてよね
コーちゃん。
「パパと仲良しは私ともすっごい仲良し!」




