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素顔

「なんてきれいな方なの」


そんなことを小声で呟いてしまった。


アナベラの目の前には長身でスラっとした体形で赤い目と漆黒の髪をしている


今まで見てきたことのないほどの美しい男性がいた。


「おい。お前がアナベラ・オルティースか。と聞いている」


少し語尾が強く聞かれたことでアナベラは少しビクッと反応してしまった。


それでもすぐに答えるために心を落ち着かせた。


「はい。私がアナベラ・オルティースです。」


一度立ち上がり幼少期から鍛えられた滑らかで美しいお辞儀をして答えた。


「失礼ですが、あなた様がルーカス・フリエム様でしょうか。」


心の中だと確信をしていたが一応聞いておいた。


何しろ明らかに他の人とまとっている雰囲気が違うからだ。


威圧感もありながら圧倒的にカリスマ性がある.。


「そうだ。」


やっぱりか、なぜこんなところで会おうと考えたのだ。


とりあえずはなぜこんなところに呼んだのか聞かなければ。


「フリエム様。なぜこのような場所にお呼びなされたのですか。」


ルーカスはそれを聞くとあまり考えたそぶりも見せずに答えた。


「正式に会う前に一つ言っておこうと思っていたためだ」


「お前がこの縁談がやりたくないと思うならここで言ってくれ」


あまりにも衝撃的な発言に脳を直接叩かれたように感じた。


なぜ彼からこんなことを言うのか。


フリエム家は嫁を探していたはずだ。それなのに


彼の方から断るようなことを言うのか。


「なぜそのようなことを?」


「私は今まで縁談をうまくいったことはない。」


「全員が怯えて断っていった。」


「お前も俺のことが怖いだろう。」


話している顔は先ほどと変わらないが


雰囲気がまるで小さな子供がいじけているようだった。


彼からは噂に聞いていたような姿は感じれない。


おそらく今までの人の反応に少しずつ傷つけられていたのだろう。


どんな人間でも傷つけられて心にけがを負うものだな。


私も今たくさん傷ついた。


彼もこの仏頂面の裏には今までのつらい経験を隠しているのか。


初めて会ったアナベラだがそんなことを感じてしまった。


理由はうまく説明できないが感だろうか。


やはりどんなに優れた人間でもつらいことがあるものだな。


「私はルーカス様を怖いと今は感じていません。」


「先ほど話しかけて頂いたすぐは少し驚き、怖いと感じたかもしれません。」


「しかし、今はまだ驚きはしていてもルーカス様に恐怖心を抱いてはいません。」


アナベラはそのようにはっきりと答えた。


その返答に先ほどまでずっと感情があまり見えなかった顔に


初めて驚いている表情へと変化していた。


おそらくルーカスはこのような返答が返ってくるのだと


夢にも思っていなかったのだろう。


「そうか。」


そのようにアナベラだけに聞こえる小さな声で呟いた。


「お前がいいというのなら止めない」


「次に会うときは正式な縁談だ」


それだけ言うとルーカスは来た道を戻り帰っていった。


帰っていく姿を見届けたアナベラは自分も帰るために


立ち上がり、アナベラも来た道を引き返した。


(とても不思議な方だったな)


その時にはすでに雲もないきれいな空に変わっていた。



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