35話:譲られた命のかたち
「ぶもっ」
「にゃぁん」
「ぶぅ、ぶ」
私がヴィンセントさんに叱られている横で、ミケはグレートボアと何か話していた。お互いに頷いたり、鳴いたりして意思疎通できているみたい。動物の言語をわかる方法ってないんですかね。とっても気になるんですよ。
「……今日はここまでにしておいてやる。で、ミケとグレートボアは何を話してるんだ?」
「にゃうにゃう、んにゃにゃ」
話しかけられたのでミケが一生懸命に説明してくれる。しかし、猫語がわかる者がいないので、可愛いなぁって感想しか持てませんでした。
「何言ってっかわかんねぇな」
「ヴィー、猫の獣人だからわからないかしら」
「猫の獣人は猫じゃないからわからん」
そんな人間達の呟きを、ミケはしっかりと理解しているようだ。不機嫌そうに尻尾が地面を叩き、私の腕をべちべちと叩いてうなっている。猫が怒ってるの可愛いね。
「ふご」
「わっ、びっくりした」
「……ぶぅ」
私の傍に来ていたグレートボアが、私を事切れているグレートボアのほうに押す。本人は軽く押したつもりなんだろうけど、STRが初期値の私はいともたやすく亡骸の上に乗り上げた。とても痛いです。
「ぐぅっ」
「え、なになに、剥ぎ取りナイフをどうしろと」
「にゃあん」
ミケとグレートボアに促され、剥ぎ取りナイフを手に取る。2匹はそれを亡骸に突き立てるように手を押してくる。私は、ちゅんの幻でこのボロボロになったグレートボアがこの死んだ子を守っているのをはっきりと見た。動かなくなった後も、自分の体を盾にしてまで守っている様子があったのだ。それなのに、剥ぎ取りナイフを刺すなんてできるわけがない。
「君の大事な子なんじゃないの? 剥ぎ取りナイフを刺すなんて、できないよ」
「ぶもっ!」
「いや、”やれ!”みたいに鳴かれましても」
グレートボアの勢いに押されつつも抵抗していると、タークスさんが間に入ってきた。私がグレートボアに潰されそうになっていたので救助に入ったのと、グレートボアの思惑に気付いたからだった。
「ウラナ、剥ぎ取ってやれ。ここで埋葬したら、きっとゴブリン達に掘り起こされちまう。そして、アイツらの糧になる。それがコイツは嫌なんだと思うぞ」
「そ、そうなの?」
「ぶもぉ」
肯定するかのように頷いている。ミケも頷いているので、タークスさんの言ったことは当たっているんだろう。後ろ髪を引かれながらも、私は亡骸に剥ぎ取りナイフを突き立てた。3回剥ぎ取れて、大猪の革が2枚、牙が1本、採取できた。亡骸が素材になったのを見て、グレートボアは満足そうにひとつ鳴いた。
本当にこれで良かったのだろうか。私が何とも言えない感覚に頭を悩ませている横で、当の本人、ならぬ本猪は森の中に消えようとしていた。ボロボロの体を引きずってである。慌ててグレートボアを引き留めた。このまま返したら、ゴブリンに襲われてやられてしまう。
「タークスさん、グレートボアを治療しちゃ駄目でしょうか」
「そうだなぁ。本当は良くねぇんだが、このゴブリン共に糧をやるほうが今はマズいか」
「ヒール、じゃなくて回復薬で治療しておくか。逃げられる程度でいいだろう」
やはり、魔物の治療はあまり良い事ではないようだ。それも今回のゴブリンの異常さを考えると、致し方あるまいという感じなのだろう。私は自分の鞄から回復薬を取り出し、手近にあった大きな葉っぱを器にして、グレートボアに差し出す。最初は警戒していたグレートボアも、ミケが飲んで見せたことによって警戒を解き、がふがふと飲み始めた。大きな傷は薄くなり、細かい傷が消えている。完全回復とはいかないが、これで逃げる程度の体力は戻っただろう。
「ぶも」
「にゃん!」
今度こそお別れだ。私もミケも、彼の大きな背中が見えなくなるまで見送った。貰った素材は、大事に使わせてもらうね。
お読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価、感想など頂けると今後の励みになります。




