第5話_エクストリーム魔王転生!(4)
そんなわけで生徒会室にある大型ハイビジョンテレビ(地デジ対応にいつの間にか替えられた)で、雪弥のエクストリーム潜入作戦を見守ることになった。
テーブルにはお菓子が用意され、すでに酔っぱらっているベル。この人、あきらかに空気が読めてない。
ここぞとばかりにお菓子を口いっぱいに頬張り、ポケットにまで詰め込んでいるハルキ。こっちも空気が読めてない。
冷静な眼差しで画面を見る舞桜の横では夏希が不安げな表情をしている。
夏希はふと菊乃に目を配った。
微動だにせずじっと画面を見ているようだが、狐面の上からではその表情は見て取れない。何を考えているかもわからなかった。
「(……菊乃ちゃん)」
夏希の心配そうな心の声も、今は菊乃に届いていないのかも知れない。何の反応もせずただ菊乃は画面に顔を向けていた。
ベルが一升瓶を掲げた。
「そろそろスタートするみたいよぉん!」
カメラの映像が滑走路に切り替わる。
飛び立っていく戦闘機部隊。
すでに空間歪曲システムを作動されているヘリは画面に映らなかった。
別の画面にカメラが切り替わる。
空に浮かぶ〈球体〉が長い眠りから覚めたように、何かが駆動する重低音をうならせた。その音は遠くカメラに設置してあるマイクまで届いた。
戦闘機が近づくにつれ、〈球体〉の大きさが測り知れる。その大きさは、戦闘機を指先程度とするならば、〈球体〉はバレーボールほど。あんなモノが空に浮かんでいるなど、到底信じられない巨大さであった。
〈球体〉の正面にはあの凄まじい攻撃を放つ発射装置がある。
戦闘機は迂回しながら〈球体〉に近づき、ミサイルを撃ち込んだ。
爆発音と共に〈球体〉から煙が上がった。だが、それミサイルの硝煙に過ぎず、〈球体〉はまったくの無傷に見えた。
「でしょうねぇん」
とベルが呟いた。
アトランティス全体を揺らすほどの威力を持つ兵器を装備した飛行体が、ミサイルごときで落とせるわけがない。
空を駆ける戦闘機からの一斉攻撃がはじまった。
音は画面からは聞こえない。
機関砲から乱れ撃ちされる銃弾。
風に流れる煙。
〈球体〉は黙したまま。
画面を通して観た映像は音もなく淡泊で、まるでどこか遠いところで行なわれている“嘘”のようであった。
本当に今、戦いは行なわれているのだろうか?
あの画面の向こうに人はいるのだろうか?
戦闘機に人は乗っているのだろうか?
画面からキーンという耳鳴りのような音がした。
「音……頭が痛い」
と夏希が呟いた次の瞬間だった。
画面が眼を開けられないほどの輝きを放った。
それはなんの前触れもなかった。
画面が正常に戻ったとき、映し出された映像は次々と戦闘機が墜落する場面であった。それはまるで急にエンジンが停止いたかのような、煙も上げず爆発もせず、ただ海面に引きずり込まれるように墜ちていく。
舞桜が眉をひそめる。
「なにが起きた?」
誰も答える者はいない。
戦闘機が墜ちた。それだけが事実だった。
夏希が叫ぶ。
「鷹山くんは!」
次々と夏希はここにいた全員の顔を一人一人見ていった。
最後に見つめられたベルが口をゆっくりと開けた。
「あのヘリはレーダーでは捉えられないし、通信がない限りこちらから探し出すことは不可能よ」
舞桜はスタンドマイクに向かって戦闘本部に命令を出す。
「すぐに救助艇を向かわせろ。乗組員の救出及び戦闘機のサルベージ、生存者の確認を急げ。ただし、危険と判断したらすぐにその場を退却することを命じる」
それは生存者がいたとしても、危険と判断したら見捨てろということを意味していた。
急に菊乃が立ち上がり無言で足早に部屋を出て行った。
「菊乃ちゃん!」
夏希が手を伸ばしたときにはもういない。
敵を侮っていたわけではないが、一瞬にして戦闘機を墜落させる理不尽とも言える謎の攻撃は想定外であった。どんな攻撃であったのかわからぬ以上、不要に近づくことさえもできない。
開けたばかりの一升瓶をベルは一滴も残らず飲み干した。
「お〜ほほほほっ、やってくれるじゃなぁ〜い。超天才可学者のアタクシに喧嘩売ろうなんざ一〇〇万年早いってことを思い知らせてやるわ。近づけないなら遠くから撃ち落とすのみ!」
ベルは舞桜からマイクを奪い取った。
「アンタァら聞いてるぅ? アルティメットウェポンの準備すんのよ、この豚どもがッ、あ゛ーッ!」
結構酔ってます。
スピーカーから慌てた声が返ってくる。
《舞桜様の許可がなければ使用不可能です!》
舞桜はベルからマイクを奪い返した。
「許可する。最大出力で撃ち込んでやれ」
《イエッサー!》
ハルキはちょっと眼を輝かせていた。
「アルティメットウェポンって響きがカッコイイな!」
爆乳を揺らして仁王立ちするベルが自信満々に鼻息を荒くした。
「カッコイイだけじゃないわぉん、太くて絶倫なのよぉぉぉん……うっぷ」
突然、背を向けたベルは白衣のポケットからバケツを取り出して、
「うげぇぇぇぇぇっ……」
吐きやがった。
ゆらゆらしながらベルはバケツを持って部屋の外に。バケツ持ったままコケないように気をつけてねっ♪
芳しいかほりを残る部屋で平気でお菓子を頬張るハルキ。
「このチーズせんべえ上手いなぁ。これも妹のために持って帰るか」
チーズ臭……。
しばらくして何事もなかったようにベルが帰ってきた。
「お〜ほほほほっ、ビューティフルにアタクシ参上!」
酔いも覚めたのかお目々ぱっちり、手には火のついたタバコを持っている。
爆乳を揺らしながら歩き、マイクを手に取る。
「そろそろ準備できたわよね?」
《イエッサー!》
「カウントダウンしちゃいなさぁい!」
スピーカーから合成音が聞こえてきた。
《主要施設の電力が予備電源に切り替わります。アトランティス全域への電力供給の一時停止まで3、2、1》
この瞬間、アトランティス全域で大規模な停電が起きた。テレビ録画やお風呂に入っていた人は悲惨だ。
《魔電粒子包発射まで10秒前――5秒前、3、2、1、発射》
海上都市全体が激しく揺れた。
「きゃっ!」
夏希は舞桜にしがみついた。
テレビ画面に映し出された映像。
薄闇の夜を駆け抜ける巨大な光線。
それは流星のような輝きを放ちながら〈球体〉に衝突した。
画面は白に染まり、スピーカーから流れる耳を塞ぎたくなるほどのノイズ。
轟々という音が部屋中に木霊した。
突然鳴り響くサイレン。
《ザザザザ……電力不足……ザザッ…バリアシステム……10パーセント……回避不能》
これまでにない激震がアトランティスを襲った。
ベルがパンツ丸出しでズッコケた。
「なんなのよ!」
《敵はこちらの攻撃を反射。跳ね返された魔電粒子包発射が、開発中工事中のアトランティス南南西を掠めました》
ベルは嬉しそうに笑った。
「掠っただけでこの威力。さすがアタクシが開発したウェポンだわぁん!」
って、跳ね返されたら意味ないだろ。
テレビ画面を見ていた夏希が眼を丸くして“それ”を指さした。
「見て……あれ!」
それはあまりにも衝撃的だった。




