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まおー転生  作者: 秋月瑛
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第1話_エクストリーム生徒会選挙!(2)

 入学式のあと、生徒たちは決められた教室へと移動した。ここでクラスメートと初顔合わせだ。

 一年A組の教室に入った夏希はほっと胸をなで下ろした。

 なんだか普通だ。

 舞桜と菊乃のインパクトが強すぎて、人間不信に陥って周り全部あ(、)ん(、)な(、)じゃないかと錯覚するところだった。

 ところがどっこい、すでに教室に集まっていた生徒は少なくとも見る限りは普通。交流を持ってみないと確証は得られないが、兎にも角にも一安心だ。

 夏希は中学生の入学式を思い出した。

 はじめての教室。

 市立の中学だったので、小学校からの顔ぶれも多かった。

 今は独り。

 でも、新たな環境を臆することなく、むしろ夏希は楽しみにしていた。

 とにかく誰かに話しかけてみようと試みる寸前だった。

 この教室から音が盗まれてしまった。

 華麗な盗人は生徒たちの心も奪い、その視線を一心に浴びて教室に入ってきた。

「ご機嫌よう、我がクラスメートたちよ!」

 桜色の髪の毛を靡かせ颯爽と歩く舞桜。軽やかな足取りで迷うことなく、夏希の横の席に鎮座した。

「エーッ!?」

 叫ぶ夏希。

 自分の横にあの天道舞桜が座った!?

 すっかり他人だと思っていた要注意人物が、まさか今こうして横の席にいるなんて!?

 瞳をクリクリさせる夏希と向かい合った舞桜は、キラーンと輝く歯を覗かせながら神々しいまでの笑顔を浮かべた。

「はじめまして岸夏希さん」

「どうしてあたしの……」

 言いかけたそのときだった!

 ぶちゅ〜っ♪

 唇と唇が重なったのをここにいる全生徒が目撃して白く固まった。

 舞桜に抱き寄せられ、驚異の早さで夏希は唇を奪われたのだ。

 真っ昼間から接吻なんてけしからん!

 驚きのあまり抵抗も出来なかった夏希だったが、急に我に返って舞桜の肩を突き飛ばした。

「何するの!?」

 叫んだ夏希の顔は真っ赤だ。怒りではなく、恥ずかしさでいっぱいだった。

 今も唇に残る感触。

 嫌な感じはしなかった……むしろ……。

「(気持ちよかったなんてあたしどうかしてる!)」

 すでに夏希は籠絡されていた。

「(しかも同じ女の子なのに!)」

 それがショックを倍掛けにしていた。

 性犯罪者のレッテルを貼られても可笑しくない当の本人は、平然とした態度で悪びれた様子もない。

「顔を赤らめ恥ずかしがる君も実に愛らしい」

「あたしのことからかわないで!」

 涙を目頭に溜めた夏希は教室から走り去ろうとした。

 その手を舞桜が握って引き留めた。

「また逃げるのかい、君は?」

 何を言われているのかわからなかった。だが、その言葉で夏希は足を止めた。

「逃げる?」

「君がどんな中学時代を送ったから調べさせてもらったよ」

 急に夏希の顔に暗い影が差した(脳内歴史改ざんシステムにエラー発生!)。

「(何を知ってるの? どうして、なんで……わかんないよ)」

「君のことは私が一生守ろう。なぜなら君は私の婚約者だからね!」

「……はっ?」

 暗い気分にそのまま呑み込まれるかと思われた夏希だったが、あまりの素っ頓狂な舞桜の発言ですべて吹き飛んでしまった。

 教室中が息を吹き返したようにざわつきはじめた。

 世界的大富豪の孫娘に婚約者発覚!

 これはマスコミも食いつくスキャンダルだ。

 天道舞桜の人気は計り知れない。特にネットではカルト的な人気を持っている(一部噂では、莫大な資金を投入した自作自演とも言われている)。

 婚約者だと名指しされた夏希の人生がスッテンコロリンすることは目に見えている。

 とりあえずストーカー被害からはじまり、最悪舞桜のファンに暗い夜道で刺殺のオチがつくだろう。

 しかも、相手が『女』なんて、男どものショックも計り知れないが、ネットで『舞桜お姉様』と萌えている腐女子どもの嫉妬も計り知れない。

 許容範囲を越えた出来事に夏希は挙動不審になるばかり。

「待って待って、あの、その、これじゃなくてそれじゃなくて、何がどうして、婚約者って結婚を前提に……前提にぃッ!? あたし女の子なのわかってですますよね、天道さんってレズなんですか!!」

 一方の舞桜は冷静そのもの。

「ビアンだとかゲイだとか、性別という概念は私にとってさほど重要なことではない。好きなモノは好き、自分の気持ちに素直なだけだよ。好きなモノには頬を重ね、キスをしてみたくならないかい?」

「なりません。普通女の子同士でキスもしません。女の子同士で婚約者になったりもしませんから!」

「それは法律上の問題を言っているのかい?」

「そういうことじゃなくて、なんでわかってくれないの!」

「理解しようとしていないのは君のほうだ。人が人を好きになることを尊重し、性別における固定概念など捨てるべきだ」

「あーもぉー聞きたくない聞きたくない」

 夏希は自分の席に逃げ帰って、耳を塞いで机に顔を向けてしまった。

 ため息をついた舞桜が教室を見渡すと、一斉に生徒たちは顔を逸らして何事もなかったように自分の席についた。きっと生徒たちの気持ちは悶々してるに違いない。

 次の展開が気になる。ここで来週に続くなんて言わせない。早く続きが見たいのだ!

 舞桜は自分の席に鎮座して、真摯な瞳で夏希を見つめた。

「そうやってまた殻に閉じこもる気かい?」

 反応はなかった。夏希は耳を塞いだまま顔を伏せたまま。それでも構わず舞桜は話し続けた。

「この学園は君の意思で来たのだろう? 新たな世界で変わろうと君は意気込んでいたはずだ。それを初日からすでに塞ぎ込んでしまっては、また同じことの繰り返しだ」

 ゆっくり夏希は耳から手を離し、うつむいたまま口を開こうとした。

「……あなたのせいでしょ」

 低く怨みのこもった声。

 確かに舞桜は怨まれても当然な性犯罪者予備軍だ。キスはするわ、夏希の地雷は踏むわ、謝る気ゼロだし、親の顔が見てみたい(親も有名人です)。

 そんでもって舞桜は甘い声でこんなことを言い出す始末。

「君にそんな声は似合わないよ。君の笑顔で明るい声が私は好きだよ」

 どう考えてもナンパだし、空気が読めないにもほどがある。

 さらに舞桜はこう続けたのだ。

「しかし私のせいにするのもどうかと思うね。世界は今日も君や私、ここにいる一人一人を中心に廻っている。世界を変えられるかどうかは君次第だよ。その手助けになるように、私はすでに君へチャンスを贈ったのだけれどね」

 ハンターチャ〜ンス!

 巡ってきたチャンスを狩ってモノにできるかは自分次第。けれど、舞桜が夏希に贈ったチャンスとは?

 ついに夏希は顔をあげた。言葉は発しない。ただ目で舞桜に訴えかけ、答えを欲している。

 舞桜は深く頷いた。

「私が君をこの学園に入学させたのだよ」

「…………(入学させたってどういうこと?)」

「残念ながら君のペーパーテストの結果は見るに堪えないモノだったからね。まさかマークシートをずらして記入するなんて、本来ならば不合格とするところをだったのだが、面接や自己アピールの資料の評価は良かった……というのは建前で、私の婚約者を不合格にするわけにはいかないからね、学園長の特別推薦枠で合格を認めたのさ」

 それって職権乱用?

 知らないうちに裏口入学?

 夏希ショック!!

 さっきまでとは違うショックで夏希は落ち込んでしまった。

「頑張ったのに……テスト勉強とか面接の練習とか頑張ったのに……実力じゃなかったなんて……(あー立ち直れない)」

「運も実力のうちさ。君は合格してここにいる。それこそが大切な事実なのだよ」

 何かもっともらしい発言で煙に巻こうとしている。

 しかもこの話題はここで打ち切りと言わんばかりに、白衣を着た爆乳教師が教室に乗り込んできた。

「ハロォ〜エブリバディ! アタクシはこの学園を影から支配する……じゃなかった。このクラスの担任の鈴鳴(すずなり)ベルよぉん♪」

 ブロンドの髪と日本人離れした顔とナイスバディ。爆乳もさることながら、タイトスカートから伸びる脚がエロイ。犯罪的な色香を漂わせる美人教師に男子生徒たちの眼は釘付けだ!

 生徒と女教師の禁断の愛を妄想した者も少なくないハズ。

「そこの男子、おっ立ってセルフ紹介をしなさい」

 ビシッと人差し指を向けられた男子生徒は、[自主規制]がおっ勃ちそうになったのを抑えて、モゾモゾしながら席を立った。

 が、しかし、口を開こうとしていた生徒は放置プレイでベルは次の話題をはじめていた。

「まずスチューデント手帳配るわよ。イエスタデイから授業はじまるけれど、教科書はちゃんとエブリバディのホームに郵送されてるわよね。届いてない人いたらセルフでどうにかしなさい」

 男子生徒はおっ立ったまま。

 ベルは白衣のポケットから紙切れを取り出した。

「生徒会選挙は一時からよ。このクラスからも何名か選ばれているわ。自主的に参加したい人はセルフでどうにかしないさい。他の者は帰宅するか、特設会場で応援もできるわ。それでは可哀想な強制参加者という生贄のネームを読み上げるわよぁん♪」

 男子生徒の放置プレイは続く。

 全校生徒は約五〇〇〇人に中から一〇一名が選抜される。一クラスあたりの人数は約五〇名なので、一人くらいは名前が呼ばれるハズだ。

 ベルが爆乳を揺らして声を張り上げる。

「天道舞桜!」

 さらにもう一人!

「岸夏希!」

「……うっそ〜っ!」

 思わず夏希は机を叩いて立ち上がっていた。

 完全にヤラセだ、仕組まれていたワナだ、天道舞桜の陰謀に違いなかった。

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