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時を戻せたら、なんて

─────────────────────────



 時を戻せたらなんて、一体幾度と考えたことだろうか。あの瞬間に戻りたい、あの時に戻りたい、やり直したい、もう一度機会が欲しい。そんな願いを何遍もくり返した。

 でも、心の底では分かっている。そんな傲慢は起こり得ない。神が許さないからだ。もし許していたのなら今頃全人類が過去に戻り続けている筈だ。

 

 しかし、俺は手にする。必ず。全てをやり直すために。ただ戻るだけじゃない、この悪夢に終止符を描くために。

 だから、俺は──────────



─────────────────────────


 

 

 「ん……?あれ、俺何してたっけか……ってかここどこだ?」


 見渡す限りの野原。終わりなき草花の舞踊。風に導かれる雲々。暖気と寒気の調律。


「風きもち〜!じゃなくて、マジでここどこぉ!?確か俺……刺されて……。」


 永久とこしえに眠る記憶を探り、自らの状況を認識する。

 俺はこの不明の地に至る前、何をしていたか。そう、散歩帰りのことだった。日課の週末の夜散歩をしていた時、背後から何者かが迫り、気づいた時には胸に広がる重厚な冷気と意識が滑落する際に起きる花虫の暖かさを感じ、俺は死んだ。

 

 「ああ……そっか。俺死んだんだったな。……まぁ、いっか。もう、死んじゃったんだもんな。母さん父さん、ごめん……。もう、会えないんだな。」


 脳内を支配する罪悪感と寂寥感。俺はあの人らを置いて先に逝ってしまった。今頃泣いてしまっているのだろうか。もし泣いているのなら、どうか俺を弔って欲しい。そして、前を向いて欲しい。最後に、俺はあなたたちを愛していた。

 

 

 「……さて、と。悲しむのはひとまず後だ。今は自分の状況を確認しなきゃな。えーと?財布スマホ血塗れの服だだっ広い草原に、草原。草原。道。……なんもねぇじゃねえかクソったれ!!おい頼むわ、せめて転生するにしてももうちょいなんかあるだろ!あーもう、最悪だな。寝るか。」


 ここで俺は一つ重要な事を見落としていた。俺が今立っているこの場所は、道なのだ。つまり何が起きるかと言うと───

  

 何かが通る振動が俺の体全体を刺激する。不貞寝しようとしていた俺を弾圧するかのように。全く腹立たしい。体勢を変えて寝始める。

 何か、声が聞こえる。俺を起こすつもりだろうか。帰ってくれ。俺は寝る。だがおさまらない。いい加減に腹が立った俺は音の聞こえる方向に寝返りを打ち、目を開けて怒号を浴びせようとした。


 「おい!!うるさいぞ!!俺は寝てぇ……ぇぇぇぇぇぇあああああああ!!!?!?」


 眼前に迫る巨大な影。そこまで大きくはないのだが、今の俺には宇宙以上に大きく見えたのだ。

 その影は俺を踏み潰す限々で止まり、前足を少し上げながら鳴き声を発していた。そう、馬だ。

 意外と大きいんだな、と傍観していると飛んでくる怒号。


 「馬鹿もの!こんな所で何をしている!!我々の道を塞ぐとは貴様叛逆者か!!応対する意思があるのならば名を名乗れ!!」

 

 「すみませんでしたぁ!!いや違うんです!!決して反逆者とかではなく、マジで偶然!偶然ここにいただけなんですよ!!決してあなた達を邪魔するわけでも反逆するわけでもありませんで!!ほら!武器も持ってない!あ、名前は隻零せきれい初人みなとです!」

 

 「信用ならないな。お前たち!この者を連行しろ!」


 「「ハッ!!」」


 「待ってください!!マジでなんも知らないんですよ!!いっいてえ!もう少し丁重に扱ってください!人権はどうしたぁ!!」

 

 「お前たち、この異質者の口を塞げ。」


 「「大人しくしろ!」」


 「ぐぶどぅえあ!!?やだやだ!!もう少し俺の話を聞いてぇ!?あーもうだめだこれ!!頼むから『時戻ってぇ!』」


 瞬間、俺の手元が蒼く光り、いつの間にか奇妙な時計が出現していた。これは一体。


 「貴様!それは何を持っている!まさか、危険な魔道具か!?お前たち!今すぐにこいつの手を縛れ!!」


 「まずっ!!もうなんでもいい!!言うことを聞いてくれ時計!!」


 精一杯針を戻そうとした。残念ながらほぼ戻らず、5分程度しか針が帰らなかったが、もはやどうしようもなかった俺は、そのまま頭頂部のスイッチを力一杯押した。

 

 「何か起こってくれぇぇぇ!!!」


 歪む世界。静寂する時。凍えるほど寂しい世界に俺は存在していた。俺と時計だけが存在を放ち、その他は灰色に侵されていた。


 「これは……なんだ……??」


 俺の声もまた歪む。世界もどんどん歪んでいく。ジェットコースターより酷な酔いが世界を覆っていく。聞こえるのは俺の声と時計の針の音だけ。

 いよいよ世界が崩壊寸前なまでに歪んだその時、世界が淡く光り、そして──────────


 

 

 「……ん?ここは……。」


 先ほどと寸分違わない景色。俺の体勢も同様。あまりに唐突であったが、俺は認識した。そう……これは、まさに。


 「時間が……戻ってる……?」


 俺は、全人類が自らの全てを、脳みそまでもを差し出して暴欲に縋るほどの能力を、手に入れてしまった。

 

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