その40 「ノア参上/厄災追加」
ロッテちゃんはイケメンがお好き
「ルイス、走っちゃだめだよ」
穏やかな声がした。
その瞬間。
空気が変わった。
振り向くまでもない。
嫌な予感しかしない。
ルイスがぱっと顔を輝かせる。
「父上!」
ーー父上。
私は反射で固まった。
(父上?)
父上?
この庭園に?
誰が?
ウサギではない。
ウサギは今、目を泳がせている。
では。
父上とは。
その答えは、すぐ目の前に現れた。
背が高い。
姿勢がいい。
笑顔が自然。
しかも顔がいい。
場に馴染む。
いや、馴染みすぎる。
まるで最初からここにいるべき人間。
青年貴族の完成形。
”ノア・ハミルトン”が、にこやかに立っていた。
「ごめんね、遅くなった」
ルイスが飛びつく。
ノアは慣れた手つきで抱き上げた。
完全に父親だ。
完全に。
ロッテの脳内が爆発する。
(父上?)
(このイケメン?)
(父上?)
(じゃあウサギは?)
(え?)
(は?)
(どゆこと?)
一瞬。
(このイケメンならまあ許せる)
と思いかけて。
(違うそうじゃない)
と自分で殴り返した。
許すとかの話じゃない。
状況を説明しろ。
誰か。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ノアがこちらに気づいて微笑む。
「初めまして。ノア・ハミルトンです」
爽やか。
爽やかすぎて腹が立つ。
母が淡々と紹介する。
「ルイスの父親よ」
さらっと。
さらっと言うな。
さらっと。
私の脳が追いつかない。
佐伯悠馬が小さく息を吸った。
助かった顔をしている。
ウサギめ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その時だった。
「すげー!!」
背後から別の声。
明らかに音量が違う。
庭園の空気を破壊する勢い。
「ルイスんちと似てる!!」
子供。
複数。
しかも距離感が近い。
アメリカの匂いがする。
爆弾だ。
爆弾キッズだ。
「なにここ!やば!」
「あ!あそこ!うまそうなお菓子!」
「お菓子!お菓子!!」
走り出す。
芝を蹴る。
庭園が悲鳴を上げる。
ルイスが青ざめた。
「走らないで!!」
必死だ。
「ここガーデンだから!!」
ガーデン。
庭園。
格式。
ルイスの中の貴族魂。
しかし。
爆弾キッズは止まらない。
「庭だろ!?」
「ヤードは遊ぶとこだよ!!」
「グラスって最高じゃん!」
「転んでも平気!」
文化が違う。
芝の意味が違う。
庭の概念が違う。
ルイスが震える。
「ヤードじゃない!!」
「ガーデンだ!!」
「同じだろ!」
「違う!!」
小さな貴族とアメリカン自由の衝突。
庭園が戦場になった。
ノアが笑顔のまま言う。
「みんな、落ち着いて」
落ち着いているのはお前だけだ。
母が目を細める。
父――レオンは静かに紅茶を飲んでいる。
ライオンは動じない。
さすがだ。
私は思った。
(この場で一番弱いのは)
ちらり。
ウサギ。
”佐伯悠馬”。
胃を押さえている。
今にも倒れそうだ。
そして母は。
ほんの少しだけ。
楽しそうだった。
最悪だ。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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