その182 「11月(ロンドン/ハミルトン邸)」
そろそろまとまる、かな
ロンドン、夜。
エレノアの部屋。
机の上には書類とランプの光。
エレノアはペンを置いた。
少し肩を回す。
そのとき、スマートフォンが鳴る。
画面を見ると”ロッテ”の文字。
エレノアは少し笑う。
「もしもし」
ロッテの声。
『ママ』
「元気?」
『普通だよ』
「学校は慣れた?」
少し間があいて、
『まあまあ、かな…』
『授業は大丈夫よ、寮も問題ないわ』
エレノアは安心したように言う。
「よかった」
ロッテは続ける。
『ロンドンだから』
『便利ね。電車にも慣れたよ』
エレノアはくすっと笑う。
「もう完全にイギリス人ね」
ロッテは言う。
『まだドイツ人よ!』
少し間があいて、それから。
『ママ……』
「なに?」
『佐伯さんの事、』
エレノアは黙る。
ロッテは淡々と言う。
『どうなったの?』
エレノアは苦笑する。
「何もないわ」
ロッテは疑うように返す。
『本当に?』
「ええ……」
少し考えて。
「ただ、ね」
「この前、聞かれた、かな」
ロッテ。
『何を聞かれたの?』
「私が……、」
少し困ったように笑う。
「自分の事をどう思ってるか、ってね」
ロッテは数秒黙って、それから言う。
『それは…ほぼ告白、じゃない?』
エレノアはため息。
「そうねぇ…」
ロッテは続ける。
『何て答えたの?』
「少し時間をくださいって」
ロッテは言う。
『合理的、ねぇ。ママらしい』
エレノアはふと、窓を見る。
ロンドンの夜が広がる。
それから言う。
「どう思う?」
ロッテは少し考えて、そして言う。
『佐伯さんはいい人よ』
エレノアは笑う。
「それは知ってる」
ロッテは続ける。
『ママは、嫌じゃないでしょ?』
エレノアは静かに言う。
「ええ、そうね」
ロッテ。
『だったら』
『ちゃんと答えたほうがいいと思う』
少し間。
『あの人は、たぶん待つと思うから』
エレノアは小さく笑う。
「そうね」
ロッテは言う。
『でもさ、あまり待たせすぎるとかわいそうかな』
エレノアは吹き出す。
「かわいそう?」
ロッテは言う。
『ウサギだから』
エレノアはまた笑う。
電話は終わり、部屋は静か。
エレノアは窓の外を見る。
そして小さく呟く。
「……ウサギ、ね」
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夜、ハミルトン邸。
図書室、ランプの光。
悠馬は窓の外を見ている。
庭はすっかり冬模様。
そのとき、カタンと扉が開く。
「兄さん」
ノアだった。
悠馬が振り向く。
「まだ起きてたんですか」
ノアは笑う。
「それ兄さんに言われたくない」
ノアは部屋に入り、それから言う。
「最近さ」
悠馬を見る。
「兄さん機嫌いいよな」
悠馬は少し首を傾ける。
「そう、見えますか?」
ノアは頷く。
「うん」
それから言う。
「前より悩んでないよね」
悠馬は少し黙る。
ノアは笑う。
「エレノアさん?」
悠馬はため息。
「……分かりやすいですか?」
ノアは即答。
「かなりね」
悠馬は少し困った顔をする。
ノアは窓の外を見る。
「で?どうするのさ」
悠馬は静かに言う。
「考えています」
ノアは呆れたように笑う。
「また?」
悠馬は真面目に言う。
「重要ですから」
ノアは肩をすくめる。
「まあなぁ」
それから少し真面目に言う。
「でもさ、兄さん」
悠馬を見る。
「はい」
ノアは言う。
「前にも言ったと思うけどさ、」
「エレノアさんは兄さんのこと嫌いじゃないよ」
悠馬は少し黙る。
「そう思いますか?」
ノアは笑う。
「間違いない、そう思うよ」
それから続ける。
「だからさ、もう行けば?」
悠馬は窓の外を見る。
冬の空をみて、少し考える。
それから小さく言う。
「……そうですね」
ノアは満足そうに頷く。
「それでいいよ」
それからドアに向って、
出る前に振り返る。
「兄さん」
「はい」
ノアは笑う。
「クリスマスまでにはやれよ」
そう言って出ていく。
図書室はまた静かになる。
悠馬は窓の外を見る。
広がる冬の庭。
そして小さく言う。
「……考えておきます」
ハミルトン邸 の夜は静かだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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