幕間 「ウィルトシャー到着」
そっと差し込む
車はロンドンを離れていた。
街の建物が減る。
代わりに見えるのは畑。
石垣。
低い丘。
ロッテは窓の外を見る。
イギリスの田舎だ。
助手席。
悠馬は静かに座っている。
背筋が伸びている。
仕事の男。
さっきの会議と同じ空気。
ロッテは思う。
(ちゃんとしてる)
でも。
(ウサギだけど)
レオンが言う。
「遠いか?」
悠馬が答える。
「一時間ほどです」
ロッテは窓を見る。
長い並木道。
車が曲がる。
門、そしてその先に屋敷。
大きい。
広い芝生。
古い石の建物。
レオンが口笛を吹く。
「これはいい」
車が止まる。
ドアが開く。
風。
静かな田舎。
その瞬間。
遠くから声。
「ルイス速い!」
「ずるい!」
「まってよ!」
ロッテは眉をひそめる。
芝生の向こう。
子供が走っている。
四人。
いや。
五人。
完全に運動会だった。
レオンが笑う。
「元気だな」
ロッテは言う。
「多い」
そのとき。
一人の男が振り向く。
ノアだ。
ロッテを見る。
そして笑う。
「あ」
近づいてくる。
「久しぶり」
ロッテは軽く頷く。
「こんにちは」
ノアはレオンを見る。
「レオンさん」
「来たんだ」
レオンが笑う。
「挨拶がてらだ」
そのとき。
芝生の向こうから声。
「パパ!」
小さな影が走ってくる。
ルイスだ。
そして。
途中で止まる。
ロッテを見る。
目が大きくなる。
次の瞬間。
「ロッテ姉さん!」
ロッテは少し驚く。
ルイスが走る。
そのまま抱きつく。
「久しぶり!」
ロッテは少し笑う。
「久しぶり」
ドイツ。
迷子。
小さな男の子。
今は少し背が伸びている。
後ろから別の少年が来る。
イーサンだ。
止まる。
ロッテを見る。
「誰?」
ルイスが言う。
「ロッテ姉さん!」
イーサンは少し眉を上げる。
「姉さん?」
ノアが言う。
「ドイツで会った」
イーサンは頷く。
「へえ」
そして言う。
「僕イーサン」
ロッテは答える。
「ロッテ」
その横で、悠馬は静かに立っている。
少し離れて。
完全に距離を取っている。
ロッテはそれを見る。
(やっぱり)
ウサギだ。
そのとき、遠くから声。
「タイラー!」
「リリー!」
「マックス!」
カイルだ。
大きな男が歩いてくる。
「おー」
レオンを見る。
「来た?」
ノアが笑う。
「親戚集合」
子供たちはまた走り出す。
芝生。
叫び声。
笑い声。
屋敷は一瞬で騒がしくなる。
ロッテは思う。
(なんなのこの家)
ロンドンのオフィス。
静かな会議。
あの空気。
それとは全く違う。
ここは。
家だ。
そして。
この騒音の中で。
悠馬は少し離れて立っている。
子供たちを見る。
困った顔。
だが。
追い払わない。
ロッテは少し目を細める。
(なるほど)
ウサギは、群れの中にいる。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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