その136 「夏の到着/ウィルトシャー」
30違いの甥っ子のほうが進んでる説
ヒースロー空港は騒がしかった。
夏休みの空港は人が多い。
スーツケース。
笑い声。
子供の声。
その中心で、大きな男が腕を広げる。
「よし!」
カイルだ。
「点呼!」
子供たちが笑う。
「イーサン!」
「いるよ」
「タイラー!」
「いる!」
「リリー!」
「はーい!」
「マックス!」
「いるー!」
カイルは満足そうに頷いた。
「よし」
「ロンドンだ!」
歓声。
騒がしい。
完全に騒がしい。
出口の外。
一人の男が立っている。
サングラス。
ポケットに手。
笑っている。
ノアだ。
「よう」
カイルが笑う。
「久しぶり!」
ノアも笑う。
「久しぶり」
次の瞬間。
子供たちが一斉に走る。
「ノア叔父!」
「パパ!」
「おじさーん!」
ノアは一人ずつ頭を撫でる。
「元気だな」
「もちろん元気!」
イーサンが周りを見る。
「ルイスは?」
ノアは肩をすくめる。
「家」
「やっぱり」
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ウィルトシャーの道は広い。
畑。
石垣。
長い空。
車はゆっくり進む。
やがて並木道。
その先。
屋敷が見える。
「おお」
カイルが口笛を吹く。
「あいかわらずでかいな」
子供たちは窓に張り付く。
「城?」
「違う!」
ノアが言う。
「ハミルトン邸」
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車が止まる。
ドアが開く。
子供たちは飛び出す。
芝生。
広い庭。
その向こうから、走ってくる影。
ルイスだ。
「イーサン!」
二人がぶつかる。
笑う。
「久しぶり!」
「久しぶり!」
タイラー。
リリー。
マックス。
一瞬で騒がしくなる。
芝生を走る。
声が響く。
ノアが笑う。
「夏だな」
カイルも笑う。
「完全に夏だ」
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その騒ぎの中。
屋敷の扉が開く。
一人の男が出てくる。
悠馬だ。
静かな男。
庭を見る。
子供。
走る。
叫ぶ。
ノア。
カイル。
悠馬は小さく息を吐く。
「……増えましたね」
ノアが笑う。
「夏だから」
悠馬は頷く。
しばらくして。
夕方。
庭は少し静かになる。
小さい三人は疲れている。
ルイスとタイラーは芝生で何かしている。
ノアとカイルはテラスで話している。
その横。
イーサンが近づく。
「叔父さん」
悠馬が振り向く。
「どうしました」
イーサンは少し笑う。
思い出している。
クリスマス。
西海岸。
”あの会話”
「その後さ」
悠馬は少し警戒する。
「何のことでしょう」
イーサンは言う。
「好きな人」
一瞬、空気が止まる。
悠馬は視線をそらす。
庭。
空。
夕方の光。
イーサンは軽く聞く。
「叔父さん」
そして笑う。
「うまくいった?」
悠馬は答えない。
少しだけ考える。
それから言う。
「……検討中です」
イーサンは吹き出す。
「まだ?!」
悠馬は真面目に頷く。
「まだです」
イーサンは笑う。
「遅いよ」
悠馬は小さく息を吐く。
庭では子供たちがまだ走っている。
夏は騒がしい。
そして、
胸の中も、少しだけ騒がしい。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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