幕間 「観察」
ねむ・・・い・・
エドワードは書類から目を上げた。
窓の外は薄く曇っている。
ロンドンらしい空だ。
机の上には予定表。
その横に会議資料。
そしてもう一つ。
悠馬のスケジュール。
エドワードはページをめくる。
静かに。
無駄のない動きだった。
目が止まる。
「……」
一行。
二行。
三行。
予定が詰まっている。
エドワードは指でなぞる。
午前会議。
昼食会。
午後会議。
夕方打ち合わせ。
夜書類。
次の日。
同じ。
その次の日。
さらに詰まっている。
エドワードはペンを置いた。
「詰めすぎだ」
独り言。
悠馬の仕事のやり方は知っている。
効率的。
無駄がない。
必要な会議だけ出る。
不要な接触は切る。
だからこそ今の状態は
”異常”だった。
エドワードはページを戻す。
少し前。
予定はもっと軽い。
必要最低限。
合理的。
今は違う。
仕事量が増えているわけではない。
自分で増やしている。
エドワードは息を吐いた。
「……逃げているな」
原因は知らない。
調べる気もない。
仕事ではないからだ。
人間の問題だ。
エドワードは椅子にもたれた。
昔からそうだ。
悠馬は考えたくないことがあると
動く。
仕事を増やす。
予定を詰める。
空白を消す。
そうすれば思考は止まる。
だから走る。
エドワードは机の上の予定表を見る。
少し考える。
そしてペンを取った。
一行。
線を引く。
会議削除。
次。
出張延期。
次。
書類一部引き取り。
エドワードは何も言わない。
理由も説明しない。
ただ
少し軽くする。
それだけだ。
ノックの音。
エドワードは顔を上げない。
「入れ」
ドアが開く。
ノアだった。
エドワードは書類を閉じる。
ノアはドアにもたれる。
「兄さん速い」
エドワードは答える。
「知っている」
ノアは小さく笑った。
「やっぱり」
少し沈黙。
ノアが言う。
「逃げてる」
エドワードの手が止まる。
ほんの一瞬。
「……何から」
ノアは肩をすくめる。
「知らない」
エドワードは頷いた。
「なら触るな」
ノアは苦笑する。
「そうする」
少し間。
エドワードは言った。
「人間は」
視線は窓の外。
「押されると逃げる」
ノアが笑う。
「兄さんそのタイプ」
エドワードは答えない。
ノアがドアを開ける。
「じゃ、俺も静観」
エドワードは言う。
「賢明だ」
ノアは軽く手を振る。
ドアが閉まる。
静かになる。
エドワードは再び予定表を見る。
削った行。
まだ多い。
だが少しは軽い。
ペンを置く。
そして小さく言う。
「……これくらいでいいだろう」
悠馬は気づかない。
気づく余裕もない。
今の彼は
止まらない。
止まれない。
エドワードは書類を開く。
視線を落とす。
そして思う。
原因は知らない。
だが一つだけ分かる。
「まだ」
ペン先が止まる。
「壊れてはいない」
それで十分だった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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