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佐伯悠馬の結婚事情(仮)  作者: 雪森蓮


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202/293

幕間 「試験」

夏が近いですね

試験の前日。

寮の部屋は静かだった。


机の上に問題集。

開いたまま。


だが視線は文字を追っていない。

ロッテは鉛筆を置いた。

携帯を手に取る。


数秒。


それから番号を押した。

呼び出し音。


一回。


二回。


『もしもし?』


落ち着いた声。

エレノアだ。


「ママ?」


短い呼び方。


『どうしたの』


「別に」


少し沈黙。

ロッテは窓の外を見る。


夜の校庭。

街灯が静かに光っている。


「試験、明日」


『知ってるわ』


「緊張してる」


正直に言う。

エレノアは少し笑う。


『珍しいわね』


「珍しくない」


ロッテは小さく息を吐く。


「だって、終わったら」


一拍。


「イギリスでしょ」


『ええ』


『その予定ね』


沈黙。

ロッテは机の角を指で叩く。


「変な感じ」


『何が?』


「知らない場所」


「知らない人」


また少しの沈黙。

エレノアは急かさない。


ロッテが言う。


「ママ」


『なあに』


「忙しい?」


『いつも通りよ』


ロッテは少し考える。

それから聞く。


「……あの人いるの?」


エレノアの声が一瞬止まる。


『誰のこと?』


わかっている。

それでも聞く。

ロッテは言う。


「弱いうさぎ」


電話の向こうで小さく笑う声。


『まだそう呼ぶのね』


「だってそうじゃない」


ロッテは窓の外を見る。


「すぐ逃げそう」


『逃げない人よ』


「ほんと?」


『ええ』


ロッテは黙る。

少しだけ考える。


「ママ」


『うん』


「ちゃんと見てる?」


『誰を?』


ロッテは少しだけ笑う。


「ママが…」


短い沈黙。

エレノアは答えない。


それで十分だった。

ロッテは鉛筆を回す。


「試験終わったら行く」


『ええ』


「マーケットとかある?」


『あるわよ』


「じゃあ行く」


『一緒に?』


ロッテは少し考える。

それから言う。


「……ママと」


エレノアは少しだけ笑う。


『いいわよ』


ロッテは小さく息を吐く。


「じゃあ頑張る」


『頑張りなさい』


「うん」


通話を切る。

部屋はまた静かになる。


ロッテは問題集を閉じる。

窓の外。

夜は変わらない。


だが頭の中で一つだけ思う。


”弱いうさぎ”


ママが見てるなら。


――少しだけ様子を見る。


鉛筆を取り直す。


試験は明日。

イギリスは、そのあとだ。



ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


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