幕間 「連絡網/妻の仕事」
蘭とノアは契約結婚ですが仲はいいです。恋愛感情が一切ないだけで。
凛は思った。
(ダメだこいつ)
そして即座に続けた。
(早くなんとかしないと)
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ノアは回収された。
回収されてなお、にこにこしていた。
反省がない。
爆弾である。
「凛」
ノアが言う。
「僕、兄さんのために――」
「黙れ」
「はい!」
返事だけはいい。
全く腹立たしい。
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ホテルの廊下。
凛は無言でノアの襟を掴み、
そのまま部屋に放り込んだ。
鍵。
ガチャ。
”外から”
「え?」
ノアが中で声を上げる。
「凛?開けて?」
「開けない」
「ひどい!」
「ひどくない」
「かわいい弟だよ!」
「爆弾だ」
「爆弾じゃないよ!」
「爆弾だ」
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凛は深く息を吐いた。
静かに隣の部屋へ向き直る。
次の爆弾。
ルイス。
ルイスは礼儀正しく立っていた。
何も知らずに。
全ての誤解の中心で。
本を持って。
「ルイス」
凛が呼ぶ。
「はい、叔母上」
「今日からしばらく、こちらに来なさい」
「はい」
素直。
良い子。
ノアと交換したい。
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凛はルイスの頭を軽く撫でた。
(この子は悪くない)
(悪いのは父親だ)
部屋に戻る。
カイルがソファで腕を組んでいる。
「Amazing…」
「黙って」
「Yes…」
アメリカンは静かにしていろ。
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凛はスマホを取り出した。
迷いがない。
相手は一人。
コール。
数秒で繋がる。
『……凛?』
蘭の声。
時差。
アメリカ。
寝起き。
「蘭」
凛は淡々と言った。
「お前の旦那をなんとかしてくれ」
『……は?』
「ノアだ」
『知ってる』
「知ってるなら止めろ」
『無理だよ!?』
「無理じゃない」
『無理です!!』
凛は冷静に続けた。
「今ドイツだ」
『知ってる』
「兄さんの出張に爆弾が混ざった」
『混ざったじゃなくて突入したんでしょ』
「そうだ」
『そうだじゃない!!』
凛は一拍置く。
「噂が広がっている」
『でしょうね』
「お前の旦那が補強している」
『でしょうね!!!』
「止めろ」
『止まらないんだよ!!』
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凛は静かに言った。
「このままだと兄さんが一生独身でオフィスで死ぬ」
『それは困る』
「困るだろ」
『困る!!!』
凛は結論を出した。
「だから」
一拍。
「お前がなんとかしろ」
『無茶言うな!!!』
電話の向こうで蘭が叫ぶ。
凛は無表情で聞いている。
慣れている。
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部屋の中。
鍵の向こう。
ノアが叫んでいる。
「凛ー!開けてー!」
凛は無視した。
(爆弾は隔離)
(まずはそこからだ)
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通話が切れたあと。
アメリカの夜。
蘭はしばらく天井を見ていた。
眠い。
理不尽。
旦那はドイツ。
爆弾。
(なんで私が止める役なの)
答えは簡単だ。
妻だからだ。
契約だろうが何だろうが、
爆弾処理班は妻である。
蘭はスマホを掴んだ。
迷いがない。
相手は一人。
『ノア』
コール。
数秒。
出ない。
出ろ。
出ろよ。
『……蘭?』
ようやく繋がった。
妙に小声。
絶対ろくなことをしていない。
「ノア」
『なに?』
「止まれ」
『え?』
「今すぐ止まれ」
『何を?』
「全部」
『雑!』
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蘭は深呼吸した。
「兄さんの出張に何してるの」
『僕は兄さんを幸せにしてる』
「余計なことをするな」
『余計じゃない!』
「余計です」
『蘭は味方でしょ!』
「味方だから止めてるの!!」
電話の向こうでノアが笑う。
『凛に閉じ込められてるんだけど』
「当たり前でしょ」
『ひどいよね』
「ひどくない」
『弟なのに』
「爆弾だから」
『爆弾じゃないよ!』
「爆弾です」
蘭は淡々と告げた。
「いい?ノア」
『うん』
「兄さんは鈍い」
『知ってる』
「世界は早い」
『知ってる』
「噂はもっと早い」
『知ってる!』
「だから喋るな」
『えー』
「動くな」
『えー』
「息だけしてろ」
『ひどい!』
「息だけしてれば十分だから!」
ノアは不満そうに言う。
『でもさ』
「でもじゃない」
『兄さんが独身でオフィスで死ぬんだよ?』
「それを防ぐのはあなたの仕事じゃない」
『僕の仕事だよ!』
「仕事じゃない」
『使命!』
「使命でもない」
蘭は一拍置いた。
「……お願いだから」
珍しく。
少しだけ本音。
「兄さんをこれ以上困らせないで」
電話の向こうが静かになる。
ノアが小さく言った。
『……わかった』
「本当に?」
『たぶん』
「たぶんじゃない」
『……努力する』
「努力じゃなくて停止」
『停止します!』
「よろしい」
蘭は通話を切った。
そして思う。
(絶対止まらない)
妻の仕事は長い。
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ドイツ出張六日目。
爆弾は隔離された。
はずだった。
しかも。
解除される気配はない。
むしろ。
『爆弾は中で静かに笑っていた』
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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