68話 違和感の正体
本来目的地点としていたはずの場所に、敵の待ち伏せを発見した。
危険を避けられたのはいいが、どうしてこうなったのか、不安がが胸を覆う。
これからどうするべきか……。
「当然戦うわよね?」
「え?」
「え? じゃないわよ。相手の背中を取って完璧に有利な状況じゃない。こんな落ちてるポイントは拾うべきでしょ」
戦闘狂なアカネらしい提案。
……いや、違うな。僕の理にも叶う提案だ。
今すぐに戦いを始めれば目の前の敵部隊に勝つ自信はある。
問題は戦いの後、漁夫だが、これも大丈夫だろうと言えた。
マップ中央に近いため周囲には部隊は多いだろうが、まだマッチ開始から早い時間のため漁夫に来れるほど準備の整っている部隊も少ないだろう。
1、2部隊くらい来ても裁けるし、裁ききれないほどに大量に来たならばそのときはボートに飛び乗って逃げればいい。
ここまで完璧な状況が揃っているのに、それでも気になるのがこの胸に渦巻く不安のこと。
だが……そうだ、迷っている時間はない。
「戦闘します! まずは一番近い敵に集中砲火で落とします!!」
オーダーを出すと同時に飛ぶ銃弾。
完全に不意を突けたようで、まずは反撃もなく一人目を落とす。そうして付いた人数差を活かしすり潰すような戦闘で敵部隊を蹂躙、4キルを奪う。
「よし!」
「アカネはすぐに回復を! ジイクさんは周辺警戒、リリィさんはスキルの使用をお願いします!!」
しかし本番はここから。
今の戦闘音は間違いなく周辺に聞こえているはずで、弱った僕らを討つための漁夫が来ていると半ば確信して対応する。
さあ……どこから来る……!!
「回復完了!」
「周辺異常無し、ですな」
「スキルの結果出たよ、接近中の部隊はいないね」
「………………へ?」
メンバーの報告に拍子抜けとなった。
そのまま倒した敵の物資を漁ってその場所を離れるまでの間、結局敵部隊が姿を現すことはなかった。
「漁夫来なかったわねー。もうちょっと戦いたかったんだけど」
「素早く移動したおかげでまだマッチ開始してあまり時間が経ってないからですかな。漁夫に来れるほど準備の整った部隊がいなかったのでしょう」
「あ、そっか、そうですね」
ジイクさんが言ったとおりのことは僕も考えた、それでも実際全く動きが無いとそれはそれで気になる。
「………………」
何かがこの戦場で起きている。
リングが真反対の位置になったことは……チート……僕らの動きが読まれていたことは……ゴースティング……戦場全体で整った動きは……チーミング……。
そのように違反行為があったとすれば説明が付くかもしれないが………………いや、やはり違うだろう。
バトルロイヤルゲームのチート行為の中にはリングを自分の思ったとおりの場所にするというものもあるとは聞いたことがある。
でもSSSのチート監視プログラムは優秀だ。さらには今は公式大会なわけで、そんな不正許すはずがないだろう。
チーム『APG』はいつも通りアカネのchで配信をしながらプレイしている。
しかし当然覗かれて不利にならないように遅延をかけて放送しており、今頃ようやくボートに乗った辺りが映っているはずで、それで待ち伏せは不可能だ
漁夫に来ない周辺部隊は……逆に示し合わせて全員で漁夫に来られた方が不利だった。チーミングの利点がない。
何よりここは第三予選だ。
スター杯予選の時とは違って、既に第一、第二予選を勝ち上がってきたチームしかいない。
そのような不正をする輩が残れるような場所ではない。
でも、だとしたら何が起きている……?
いや、違う……これは僕の勘だけど……何かが起きているのではなく……何かを見落としているような…………。
「マモル君、これからどこに行くの?」
「……そうですね、なるべく安全地帯中央に近いところを取りたいですが……」
考え込む時間も余裕もない。
ただでさえ刻一刻と変わる目の前の戦場について考えるだけでいっぱいだ。
それからしばらくして。
安全地帯の第一収縮も第二収縮もやりすごし第三収縮にさしかかる。
僕らの取った地点は賭けを外し、次の収縮で範囲から外れることとなった。
移動をしないといけないわけで不利だが……やりようによってはチャンスもある。
当然のことだが、安全地帯の中央を取ることは強い。自分たちは動く必要が無く、向かってくる敵を迎撃すればいいからだ。
しかし強いポジションだからこそ敵が殺到しすぎて裁ききれなくなることもある。
安全地帯の端は弱い。だが、端だからこそ戦いに巻き込まれにくい、という利点もある。
そうして中央に近いところで戦いが始まった場合、最後に戦場に乗り込む、漁夫側になれることがある。
しかし敵に目を付けられて攻撃されると範囲との板挟みになってかなり辛いことになる。
何にせよ、安全地帯の端を動くときは目立たないように、が基本だ。
マップ研究は全域に渡ってしている。隠れられる場所の把握は完璧だ。
この北東の住宅街において強い隠れ場所はこのゴミ捨て場だ。覆いがあることで上から撃たれることもない。
敵が近くの家を屋根伝いに動いているようなのでそれが通り過ぎるまではここで息を潜めて――。
「手榴弾来ます!」
「っ……! 退避を!」
上にいた部隊が向かいの家の壁を反射させて投げ込んた手榴弾。ゴミ捨て場は狭く、中にいながらの回避は不可能。故に僕らはその場所から出ざるを得ない。
練習通りちゃんと隠れていた。音一つ立てなかったのに……どうして居場所がバレた……!?
理由は分からないがヤバい。手榴弾であぶり出してからの攻撃は基本の作戦で、すぐにでも敵の攻撃が――。
いや。
屋根の上の敵と視線が合う。敵は何故か一瞬硬直していた。
まるで一応手榴弾を投げ込んだはいいものの本当に敵がいるとは思っていなかった……という様子だ。
「もしかして――」
事ここに至って僕は戦場の違和感を看破した。
敵にとっても予想外の状況だったようだが、流石に第三予選まで来ただけあって切り替えは早かった。
まずは僕に銃弾を集中させてダウン。
アカネは遠巻きに削って落とし、ジイクさんには屋根から一人飛び降りてインファイトを仕掛ける。
突然の状況に逃げるべきか戦うべきか迷って立ちすくむリリィさんはいつの間にか落とされていて。
チーム『APG』は全滅した。
1マッチ目の戦績は最初の4キルだけの14位。総合ポイントでは真ん中くらいになるだろうか。
「うがぁぁぁっ!! ああもう何であんなところに手榴弾投げ込まれたのよ!?」
アカネが吠える。頭を抱えている姿が目に浮かぶようだ。
「うぅ……何も出来なかった。でもどうして隠れた場所がバレたんだろう?」
リリィさんが不甲斐なさを感じているようだが、もっともな疑問を言う。
「そうですな……ピンポイントに私たちのいる場所を狙いながらも、確信を持っての行動ではなかった様子でしたが……」
ジイクさんがさらに踏み込む。
「それについてですが……全部分かりました」
僕は先ほど気付いたことをみんなに伝えるため口を開く。
「全部って……?」
「1マッチ目で覚えた全ての違和感についてです」
「もったいぶってないで早く言いなさいよ」
「……。3マッチ目の組み合わせが決まったとき、僕らは思いましたよね。有名なチームはいない、警戒するチームはいないって。
でもあれは間違いだったんです」
「それは何か把握漏れしているチームがあった……ということですかな?」
「ある意味そうですね。でも仕方ないかもしれません。警戒するべきチームは――僕ら『APG』だったんですから」
「どういうこと……?」
「あ、もしかして……」
「なるほど……」
「僕らにとっては警戒するチームはいない。しかし58ブロックに参加する他のチームにとって有名で警戒すべきチームは『APG』となります。
つまりこの戦場にいる全てのチームが僕らを警戒して、研究して、対策して臨んでいるって事です」




