27話 『銀鷲』崩壊 ~終幕~ そして――
人気のバトルロイヤル制FPSゲーム『Star Struggle Shooting』――通称SSS。
そのSSSをプレイするチーム『銀鷲』から消極性オーダー『マモル』が追放されて以来、チームは連戦連敗、転落の一途を辿っていた。
追放を主導したリーダー『ギルバート』は負ける原因を自分たちの実力が足りないからだと認めず、ゲームの運営によって負けさせられているからだと判断。
運営に対抗するためにはこれしかないとFPS界隈における悪魔『チートプログラム』に手を出すことを決断した。
「今日も見に来てくれてセンキュー!」
ギルバートはSSSのプレイ画面の配信を立ち上げて挨拶すると、待機していた視聴者たちがコメントを投稿し始める。
『待ってたよー』『楽しみ!』といった好意的なコメントが半分、『今日も醜態見に来ました!』『偽装動画の謝罪まだ?』といった否定的のコメントが半分だ。
「(アンチのゴミどもがさえずりやがって。オレを潰すために運営に働きかけたようだが、今日は一味違うぞ)」
チートとはゲームのデータを改竄して自分に有利に進めるための行為だ。
デジタルの世界であるゲームではやろうと思えば何でも改竄が可能だが、ネットを介するゲームでは大元のサーバーを改竄することは困難なため、ゲーム自体やルールなどには関与せずに自分のキャラの数値や性能をいじるのが基本となっている。
つまり銃を撃ち合って敵を倒すというルールはそのままに、それを有利に持っていけるようにするわけだ。
例を挙げると敵に照準が吸い付く『オートエイム』、銃弾が自動で敵に向かってくれる『ホーミング弾』、敵の位置が壁越しでも分かる『ウォールハック』、どれだけダメージを食らっても瞬時に回復させる『自動回復』などがある。
ギルバートが導入したチートツールには多種多様な機能が備わっていたが、その全てを適用するわけには行かなかった。
というのも彼はゲーム画面を配信しているからだ。
チートはFPS界隈では忌み嫌われている行為であるだけでなく、単純に電子計算機損壊等業務妨害罪などの犯罪となりうる。
視聴者にチートを使っていることがバレるわけには行かなかったので、目立たないチートを選んで適用していた。
「(オートエイムは目立つからエイムアシストくらいに留めて、ホーミング弾はあからさまだとバレるから性能を弱めにして、防御系は敵の弾が2分の1くらいですり抜ける弾抜け、あとウォールハックは配信画面では映らないように設定して……よし完璧だ)」
ギルバートは今一度チートの確認をして。
「さて、みんなも視聴者も準備は良いかい?」
「私は行けるわよー」
「レーヤ、了解」
「いつでも大丈夫だぜ」
ギルバートの呼びかけにチームメンバーのアランナ、レーヤ、フランツが応える。
「それじゃ早速今日の一戦目と行こうか!」
SSSのロビー画面からマッチ開始を選択、4人のキャラが戦場を横断する飛行船へと乗り込む。
4人チームが25組で総勢100人が戦場へと降り立っていく。
ギルバートたちは飛行船から速攻、垂直に落下していく。即降りと言われるこの行動は手っ取り早く戦いを始めたい者たちが多く同じ行動をするため激戦区となりやすい。
ギルバートは着地後落ちている銃を拾い、同じようにしていた敵に向ける。エイムアシストとホーミングの組み合わせにより銃弾は吸い込まれるように敵に叩き込まれダウン。
次に曲がり角から出てきた敵の仲間も先にウォールハックで接近を察知していたため、顔を出した瞬間に銃弾を叩き込む。これまた敵は銃を構える暇もなくダウン。
そのとき別の敵に背後から撃たれるが弾抜けにより被弾は少ない。いつもならここから振り返って敵を捕捉して銃を撃っても上手く照準が合わせられずそのままやられただろうが、チートの補正により銃弾は当然のように敵に当たる。
最後に運悪く近くに銃が落ちていなかったのか、おろおろとしている敵を倒して、これで4人1チームを単独で撃破。
「っしゃぁ!!」
思わず快哉を上げるギルバート。
とはいえ喜んでばかりもいられない。この辺りには10ほどのチームが降り立っている、1つのチームを壊滅させてもまだまだ辺りに敵はたくさんいる。
「(上等だ!)」
だが、ギルバートは臆する様子も無かった。いやその必要性すらも感じていなかった。
敵がたくさんいるということはたくさん倒せるということ。
自分が活躍して目立てるということ。
「(立ち上がりで十分に分かった。今のオレは誰にも負ける気がしねえ)」
他のプレイヤーが自分の引き立て役にしか見えないほどの万能感。
ギルバートは早速次の獲物を襲いにかかりたかったが、その前に今倒した敵から物資を補充する。
いくらエイムアシストやホーミングといったチートがあっても銃弾が無ければ戦えない。
「(ああもう漁るのも面倒くせえ。銃弾無限のチートも入れるべきだったな。あからさま過ぎるからって外すんじゃなかった)」
いつもならテンションの上がる戦利品漁りすらも億劫に感じる。
補充を終えると近くの銃声の鳴る方へと向かい、戦いあっている2チームを横から撃って壊滅させていく。
撃てば当たる銃にどんな不意討ちも無効にするウォールハック、防御面には少し不安があったが圧倒的な火力を前にそんなことは些末なこと。攻撃こそ最大の防御で撃たれる前に敵を倒していく。
「(この結果はチートによるものじゃない、オレの本来の実力だ!
思えば今までがオレに都合が悪すぎた。敵に向けて銃を撃っているのに全く当たらず、ちょうどオレが見ていなかったところから不意討ちを仕掛けてくる敵。
全部が全部、運営による不正でオレを負けさせようとする動きの一環だろう。
チートはそんなオレが思う通りに動けるように補助しているに過ぎない。そうだ、思う通りに動けるだけでこうもオレは強いんだ!)」
ギルバートは今まで溜め込んでいた鬱憤を内心で爆発させる。
しかし、ギルバートの考えは間違っている。
思った通りに動けば勝てる? それは当然だ。思った通りに動くためにみんな努力をしているのだ。
運営による操作などギルバートの頭の中の妄想にしかない。
彼がこれまで負け続けたのはひとえに実力不足なだけでしかない。
今現在彼が勝っているのはチートのおかげでしかない。
現実が見えていないギルバートがようやく現実を直視したのは、チートにより30キルを達成して1位を獲得してマッチの結果画面に移ってからだった。
「スターゲット! しかも30キル! どうかいみんな、オレの活躍を見てくれたかな! 特にアンチども! 今まで不調だったけどこれがオレの本来の実力だ!!」
最高潮のテンションでまくし立てるギルバートに返ってきた反応は。
「ギルバート……」
「これは……」
いつもなら自分を立ててくれるアランナとレーヤの困惑。
そして。
「おまえ……本気で言ってんのか!?」
激昂するフランツ。
「ん? 何がだい?」
「今のが実力って……違うだろうが! どう考えてもチートじゃねえか!」
「……は?」
「チートに手を出すなんて……そこまで腐っちゃいないって思ってたのに……」
チートを使っていると断定してくるフランツにギルバートは混乱していた。
「(こいつ……どうしてチートを使っていると分かった? なるべくバレないように選んで適用したのに……)」
ギルバートの思考がもしフランツにも聞こえていたら『そんなの動きでバレバレだろうが!』と言われていただろう。
確かにギルバートのプレイはそれだけなればチートを使っているとバレなかったかもしれない。
神懸かったエイム力に、敵が銃口を向ける動きを読んで回避して、些細な物音から壁の裏の敵の位置まで把握する、超絶的な腕前のプロプレイヤーのプレイ動画として見えないこともなかったかもしれない。
しかし、これが昨日まで平凡以下のプレイを繰り返していたギルバートが行ったとなれば、考えられる可能性は二つ。一日ですごい腕前が上がったか、あるいはチートを使ったかだ。
ギルバートがプレイ中は見れていなかった視聴者のコメントに目を向けると。
『チートだ』『ついにやりやがったよ、こいつ』『チートなんて嘘ですよね、ギルバート様!』『これでバレないと思ってたのかよ!』
と、そこでもチートに言及するコメントで溢れていた。
「(くっ……マズい。どうしてだか分からないが、チートを使ったと疑われている。これもアンチの工作か……? 腹正しいが言ってる場合じゃない、何とか誤魔化さないと)」
「面白いことを言うね、フランツ。でも、オレはチートを使ってない。確かに昨日までと動きは違うかもしれないけど、それがオレの本来の実力だったってだけさ」
ギルバートはすっとぼけることを選択する。
「口だけはよく回るな」
「回るも何も事実だからね。さあさあこんなくだらないことで言い合ってる方が時間の無駄だ。さっさと二戦目に行こう」
「いや、行くわけねーだろ」
「……は?」
「おまえのチートの疑いが晴れない限り一緒にプレイ出来るわけねーだろ。チートのプレイヤーとチームを組んで戦績を上げるのは『ブースティング』、違反行為だからな」
フランツが先ほどから厳しい態度を取っているのはチートを使用した者のメンバーということで糾弾される恐れがあるからだ。ここできちんと追及しなければ、自分もまたSSS界隈から追放されかねないと必死である。
「……ちっ、だからオレはチートを使ってねえって言ってんだろうが。ああもういい、おまえ『銀鷲』から抜けろ。リーダーのことを信じられないやつがチームにいても百害あって一利もねえ」
「ああ、ちょうどいい。どうせ近い内に脱退しようと思ってたんだ。渡りに船だぜ」
ギルバートの売り言葉にフランツは買い言葉で応え、『それじゃあな』と最後に一言残してVCから抜けていく。
「せいせいしたぜ。フランツの分は野良で埋めるか。おいアランナ、レーヤ。二戦目に行くぞ」
「…………」
「…………」
「って、聞こえてるのか?」
「ねえ、ギルバート。本当にチート使ってないんだよね」
「だからそう言ってんじゃねえか……って、なんだおまえらも疑ってるのか?」
「私だって信じたいけど……でもさっきのマッチでギルバート突然壁撃ちだしてたよね。あれって壁裏の敵が透けて見えてて、でも壁があることを忘れて撃ったからで……」
「そんなのあったか? あったとしてもジョークだよ、ジョーク。たまーにあるだろ、適当に銃ぶっ放したくなることが」
「…………」
「…………」
「ちっ、使えねーな。いいよもう、男を立てられない女なんていらねー、おまえらも追放だ」
「えっ!? ちょっと待ってよ、ギルバート! アタシはちゃんと証明して欲しいってだけで……!」
「そうだよ、私たちはギルバートを信じたくて……!」
「じゃあなー」
ギルバートはアランナとレーヤの二人をブロックしてVCから締め出す。
「ったく、酷いやつらだよな。仲間を信じられないなんて。みんなはどう思う……って」
ギルバートが視聴者のコメントを見るがそこには『不適切な文言を含んでいます』というシステムコメントで溢れていた。
「(そういやさっき話しながら『チート』をNGワードに設定したからな。それで弾かれたやつらばかりってことか。馬鹿ばっかりだなー)」
つまり視聴者の多くもチートの話題を上げているという事だが、ギルバートとしては上手くNG出来たことで何故か良い気味だと上機嫌だった。
「てなわけで『銀鷲』も一人になったけど……まあ今のオレなら一人で十分か。じゃあ早速二戦目やっていくから応援よろしく!」
ここまで荒れに荒れているのにいつも通り配信を進めようとする胆力は悪い意味ですごいのかもしれない。
しかし二戦目のマッチに入ろうとしたところで、突如SSSの画面に『エラー』の文字が表示された。
「……は? サーバーでも落ちたか? ったくせっかく人がいい気分で戦おうと思ってたのに、運営も役立たず――――いや」
エラーの下に書いてある文言に目を通してギルバートは固まった。
そこには『あなたのアカウントは凍結されています』の一文があった。
ギルバートは知らなかったが、SSSの運営はチート対策に力を入れている。
さらに今回はギルバートが配信していたため、多くの視聴者が運営に通報。
早速運営が動きだし、ギルバートが黒であることを確定。
そしてアカウントを永久凍結したというわけだった。
これ以上にないほどにチートを使っているという証拠が上がってしまったギルバートは一言。
「はぁ……まじしょうもねぇ」
========
その後の顛末として。
ギルバートはこの一件でこれまでの全てを失った。
SSSのアカウントの凍結に続き、配信用のchも通報が相次ぎ凍結された。
ファンの心は離れて、アンチは勝利宣言。
配信を途中で締め出されたというのに、めげずに連絡を取ってきたアランナとレーヤ相手に、ギルバートは当たり散らかし暴言の限りを尽くしたため二人との関係も消滅。
騒動から一週間後。
一人になったギルバートは何もする気力が無く、ベッドに寝転がりながらスマホで動画サイトを眺める物体と成り果てていた。
「くそ、アンチのゴミのせいで……」
ギルバートは未だに自分の妄想が正しいと信じていた。
全ては自分のアンチのせい。
運営による不正で負けさせられていたから、それに対抗するためにチートを使ったのに、どうしてこうも咎められるのか……と本気で思っていた。
自分に非があるとは一ミリ足りとも思っていなかった。
――その動画を見るまでは。
「こいつだ」
次々とおすすめの動画流れていく中で、偶然流れたのは『アカネのSSS爆勝ch』。
そこにいるメンバーの『マモル』を――自分が追放した消極性オーダーがSSSをプレイしているのを見て。
ギルバートは己の間違いを悟った。
「そうか。悪いのは運営でもアンチでもない……こいつだったのか」
マモル……思えばオレの不調はこいつを追放してからだ。
つまり考えられる可能性として……こいつが追放された腹いせで何かをしたに違いない。
そのせいでオレは負け続けたのだ。
運営もアンチも悪くなかった。
なのにオレはチートを使ってしまって……くそっ、やつの術中にハマってしまっていたってことか。
だが気付いたからにはもう好き勝手させない。
可能ならば現実で凸したかったが、やつのリアルについては一切の情報がない。
だがそんなことをわざわざしなくてもやつ自身が予定を明らかにしている。
スター杯。
そこでやつの醜態を衆目に晒すことでオレへの誤解を解いてみせる……!!
「そうと決まったら……!!」
新たな妄想を糧にギルバートは動き始めた。
次回より新章『スター杯予選』編開幕です。
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