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セイクリッド・クロニクル4  作者: スタジオぽこたん
第二章 獅子の金十字
9/16

  4


「あ、あら? おかしいな……んっしょ、んっしょ……」

 挨拶回りが無事に終わった次の日、マリアはミーミル士官学校へ登校する準備のため、朝から部屋の鏡の前で格闘していた。

 いつも通りブラをつけようとするのだが、今日に限って背中のホックが止まらない。

 ここ最近サイズが苦しいかなと感じていたが、ホックが留まらないほどではなかった。

「体重は増えてないし、やっぱり胸が大きくなったのかしら? でも、困ったわ。これが一番大きなサイズなのに……」

 と、その時。

 コンコン――と、部屋の扉をノックする音がして、

「マリアさん、どうかしたのですか?」

 外からレキの声が。

 準備に手間取っているこちらを心配したのだろう。

「ああ、レキ君丁度いいところに。少し、手伝って貰えませんか?」

 この時マリアの思考はブラのホックを止めたい一点に集中しており、自分の今の格好を完全に失念していた。

「入りますよ、マリアさ――ッ!?」

 扉を開けたレキが見たのは、純白の下着に包まれたマリアの艶姿であった。

 声を失い立ちすくむレキに、マリアは背中を向けたまま、

「レキ君、お願いします。ブラのホックを留めて頂けないでしょうか?」

 困った表情でお尻をツンと突きだした。

 後ろのレキが「ぐあ」と、何かにやられたような声を上げるが、マリアは真剣に困っていた。

 このままではノーブラで士官学校に行かなくてはいけないのだ。

「ほ、ホックを留めればいいんですね……?」

「はい、お願いします」

 マリアはレキに見えやすいよう、豊かな黄金色の髪を手櫛で右肩に纏める。

 魅惑的なうなじから、むき出しの肩に、美しい肩甲骨がつまびらきに晒される。

 少し目線を下げれば、折れそうに細い腰から伸びる、むっちりとしたお尻が――

「どうかしましたか、レキ君?」

「大丈夫です! 僕なら大丈夫です!!」

 レキは慌てて、ブラのホックを掴んだ。

「私の事は気にしないで、一思いに『グイッ』とやっちゃって下さい!」

 マリアは頑張りますのポーズを取るが、胸がゆさんと揺れる重みの多くは、レキが両手に持つブラのホックに向かう訳で。

「くっ」

「やはり硬いです?」

「凄く、柔らかいです……」

「え?」

「あ、いえ、違います。硬いです。カチカチです」

 実際にホックを留めるのは困難を極めた。無理に締めれば留める事は出来るが、それでは息が苦しいし、肌にも胸にもよくないだろう。

「むむ……」

 レキは試しにホックを締めてみるが、凄まじい乳圧に負けて弾かれる。

 明らかにマリアの胸が急成長している。毎日のようにマリアを見続けて来たレキには、それが如実にわかった。

「先週まではちゃんと着れたのです。でも、今朝から急に……」

「何か心当たりは?」

「その……やはり、昨日の挨拶回りかと思うんです」

 レキとマリアは太陽の祝日である昨日に、受勲式に向けての挨拶回りを済ませている。

 その際レキは、マリアの家族に、マリアと結婚したい意志を伝え婚約を許された。

 条件として厳しい試練が課せられたものの、将来レキとマリアは夫婦になる事が正式に決まったのだ。

「レキ君のお嫁さんになれるって思ったら、む、胸がドキドキして。昨日の夜も、おかしな夢を見てしまいました」 

「おかしな夢……ですか?」

「あうう、聞かないで下さい……」

 真っ赤に頬を染めるマリアを鏡越しに見やるレキは、得も言われぬ激情に胸を焦がす。

「――――駄目だよ、マリア。隠し事は」

 レキは緋色の瞳を細めると、馬の手綱を握るようにブラのホックをパシンと揺らす。

 胸を強制的に揺らされ、マリアは「ひゃう」と可愛い悲鳴を上げた。

「ほら、どんな夢か言って?」

「はわわ!? レキ君が朝から『狼さん』になってますっ!」

 狼さんとは、エッチなスイッチが入ったレキをさす二人だけの隠語である。

 マリアはどうして急にレキが狼さんになってしまったかを考え、鏡に映るあられもない自分の格好にようやく気が付いた。

「きゃああ!?」

 今更ながらマリアは両手で胸を隠すが、手綱は既にレキが握っており、もいんもいんと左右の胸を巧みに揺れ動かされる。

「んっ、や、止めて下さいレキ君ッ、私の胸を、オモチャにしないで……」

「ちゃんと答えないと止めて上げないよ。僕の可愛い赤ずきん」

「ふぁ、レキ君……」

 耳元で優しく囁かれた瞬間、マリアもまたエッチなスイッチが入ってしまう。

 二人の将来において『狼さん』と『赤ずきん』が、夫婦の秘密の言葉になるのだが、それはまた別の話。

「さあ、正直に言うんだ。さもないと『ここ』をこうするよ?」

 レキは左手でブラを維持すると、右手で背後からマリアの鎖骨を撫で、胸には一切触れず、その周りの筋肉に指を這わせていく。

 脇の下から乳房の真横を通る『前鋸筋』を優しく揉まれた瞬間、マリアは全身を駆け巡る甘い官能にビクビクと身体を震わせた。

「んっ、そこは……駄目ですレキ君……あっ……❤」

 マリアの反応に気をよくしたのか、レキの手はさらに侵攻。乳房の真下にある、『大胸筋』と『腹直筋』の間を責められ、マリアの息はもう絶え絶えである。

「こ、こんなにも簡単に包囲を許すなんて。レキ君は城攻めも得意なのですね……んっ」

「あらゆる戦術をヴェロニカから教わったからね。マリアさんの双子城は、もう僕の包囲から逃れる事は出来ないよ。兵糧攻めがいい? 水責めがいい? それとも、本丸を一斉に攻撃しようか?」

 執拗な責めと、お尻に感じる灼熱したレキの身体に、マリアはもうトロトロになっていた。

 このまま責め落されたい。

 特に、水責めが凄く気になる。

 どんなことをされるのか――と、胸がドキドキして、今にも双子城を無血開城させてしまいそうになる。

 マリアは、恋するエッチな戦乙女になっていた。

「ぜ、絶対に笑いませんか?」

「笑わない。約束するよ」

 レキはマリアの胸の周りを、羽で触れるような優しいタッチで撫でる。

「しょ、将来の夢を……見たんです。レキ君は今よりも大人っぽくなっていて、私は……その、お、お母さんになっていました……」

 マリアは真っ赤な顔で言った。

 レキは思わず手を止めて、マリアの言葉の続きに耳を傾ける。

「私の腕の中には、もの凄く可愛い赤ちゃんがいて、お腹を空かせていました。お母さんである私は当然、赤ちゃんにお乳を上げました。ひゃう!? れ、レキ君、何処を触っているんですか!?」

「僕には構わず続けて下さい」

 レキはマリアのなだらかな下腹部をなでなでする。

 まるで、赤子をあやすかのような優しい手付きに、マリアは甘く息を吐きながら、

「あんっ、そんなによしよししても、まだ居ませんよぅ……」

 困った表情で、でも、嬉しそうに身体をくねらせた。

「夢の話は終わりですか?」

「こ、ここまでなら、とても幸せで胸が温かくなるような夢で済んだのです……」

「でも、違った?」

「はい。赤ちゃんがお腹いっぱいになって眠ってしまったあと、レキ君が、レキ君が……」

「僕が?」

「赤ちゃんの分がなくなるから、駄目って言ってるのに……」

「えと……まさか?」

「わ、私の両方の胸を、ちゅーちゅー吸うんですッ!」

 マリアは真っ赤な顔で叫んだ。

「!?」

「そのあと目が覚めたら胸が妙に張っていて……」

「ブラのホックが留まらなかったという訳ですか……」

 レキは改めて、マリアの急成長した胸を見やる。

「あ、あの、レキ君!」

「?」

「も、もしかしたら、夢のように吸ってくれたら、小さくなるのではないでしょうか?」

 マリアは期待に満ちた目でレキを見やると、両手で隠していた胸をゆっくりと晒した。

 双子城の無血開城である。

「た、確かに……試してみる価値はあるかもしれません」

 レキはそう言って、ゴクリと喉を鳴らす。

「は、はい。このままでは学校に遅れてしまいます。今は、少しでも可能性がある方に賭けましょう。あの、改めていう事でもないかもしれませんが、別にやましい気持ちなんてこれっぽっちもありませんからね? ほ、本当ですからね!?」

 マリアは真っ赤な顔で言う。

 恥ずかしくてレキの顔を見れない。

 自分は一体何を口走っているのだろう。

 ふいに身体が浮かび上がったのは、その瞬間だった。

 レキにお姫様抱っこされたのだ。

「もちろん、わかっています」

 レキはマリアを軽々と抱き上げると、力強い足取りでマリアのベットに向かう。

 ぽふっと優しくベットに寝かされたマリアは、ドキドキしながらレキを見上げた。

「レキ君……」

 緋色の瞳は真っ直ぐに、呼吸と共に上下するマリアの胸へと向かう。

 そして―― 

 

  ◇


「ねぇ、いい加減誰か止めなさいよ……」

 扉の隙間からレキとマリアの爛れた朝の日常を眺めながら、リリスは不機嫌丸出しの表情で言う。

「け、けしからん! 婚前の男女があのような行為に耽るなど、セイントアークの風紀はどうなっているのだ!」

 真っ赤な顔のゼノビアは、文句を言いながらも扉の隙間から目を離せない。

「あらあら、これはアプローチの方法を変えた方がいいかもしれないわね」

 オディールは二人の行為を覗きながら、困った様子で頬に手を当てる。

「ああ、レキ殿……そんな激しく吸われては……」

 扉の隙間から中を覗くシラユリは、胸を抑えながら恍惚の表情を浮かべる。

「はうう、朝から刺激が強すぎます」

 ティンクはスカートの裾を抑えてモジモジとお尻を振った。

 現在この場に集まった六大凶殺の仲間達は、レキとマリアを心配して迎えに来たのだ。

 すると、先にティンクとシラユリが来ていて、扉の前でモジモジとしているではないか。

 気になって中を覗いてみれば――と、いう訳である。

 帝国軍士官学校の制服に身を包む、リリスと、ゼノビアと、オディールに、ミーミル士官学校の制服を着るティンクとシラユリが、熱い眼差しで部屋の中に視線を送る。

 と、

「なぁ、なぁ、お前ら邪魔なんだけど? アタシにも中を見せろよー!」

 サーシャだけが縦の列に入れず、ぴょんぴょん周りを飛び跳ねる。 

「だ、大体……揉んだら大きくなるだなんて迷信だわ」

 リリスは胸にコンプレックスを感じているのか、拗ねた表情でマリアの双子城を睨む。

「くっ、私が姉である事を証明するには、これまで以上の研鑽が必要という事か……」

 ゼノビアは悔しげに、自らの胸を寄せて上げる。

「うーん、大きさではまだまだ負けないけれど、私もレキに吸って貰おうかしら?」

 オディールは羨ましそうに唇に指を当てた。

 と、

「ぷはぁ、やっと見えるぜ!」

 一番下段から、全員のお尻をかき分けサーシャが顔を出す。

 そして、

「……なぁ? あれって交尾してんのか?」

 サーシャが、誰も口にしなかった確信を貫く。

 全員がビクッと身体を震わせ、

「こ、ここ、交尾じゃないわよ! どこ見ているわけ!? あ、あんなのただ、イチャついてるだけじゃない!」

 真ん中のリリスが、ぷんぷん怒りながら言う。

 その意見にサーシャ以外の全員が「うんうん」と頷いたせいで、扉の前に群がっていた縦の列が崩れ落ちた。

 一番下のサーシャが「みげ」と、声を漏らすが、流石は六大凶殺の盾役を引き受ける《破壊するもの》。全員の体重を受け止めながら、

「お前ら……本当にそれでいいのか?」

 廊下に顎肘しながら、仲間達に向けそう言い放つ。

 視線がサーシャに集中。

「レキは生粋の『狼』だぜ? そして狼ってのは、一度伴侶を決めたら一生ソイツしか愛せねぇ、滅茶苦茶『情』の深けぇ生き物なんだ」

 狼はとても知能の高い動物で、人間社会と遜色のない階級社会が築かれる。

 そして、狼は、基本的に一度連れ合いを決めれば、その相手以外と繁殖する事はない。

 サーシャは本能的に理解したのだ。

 このままでは自分達は一生、群れの一頭に甘んじてしまう事を。

「そ、その話は私も本で学んだ事があるわ。でも、例外もあると書かれていた!」

 と、真ん中に挟まるリリスが反論するが、

「なんにでも例外はあるだろーよ。けど、今回も『そう』だとは限らねーだろ?」

「うう、確かに……」 

 サーシャの反論に、リリスは不安げに表情を曇らせた。

「何が妙案があるというのかサーシャ?」

 リリスの上に伸し掛かるゼノビアは、危機感を感じて尋ねる。

「ふふ、レキを手に入れられるなら何でもするわ。あなた達はどうするの? 協力するなら歓迎するわよ?」

 一番上のオディールが妖艶に微笑むと、ティンクとシラユリに声を掛けた。

「わ、私達は、レキ殿の側にいられれば……ただそれだけで。そ、そうであろう、ティンク?」

 下から三番目のシラユリは真っ赤な顔でオロオロするが、

「お、重いですぅ……皆さん、早く……どいて下さぁい……」

 下から二番目で、オディール、ゼノビア、リリス、シラユリと、四人の体重を受け止めるティンクは、目を回しながら叫んだ。

一騎万軍の武威を誇る少女達は、自分達が『串団子』のような状態である事にようやく気が付き、一人また一人と降りていく。

 こうして、廊下にあぐらをかいたサーシャを中心に、ティンクとシラユリを含んだ六大凶殺の全員が膝をついて円陣を組んだ。

「一番ツエー奴に従うのがアタシ達の流儀だろ? 欲しいものは『力』ずくで奪えばいい!」

 ドンッと拳を床に叩きつけるサーシャ。

 その案は簡潔で、これ以上ないほどわかりやすかった。 

 恋する乙女達の闘争心に火が付くのは、一瞬であった。

 サーシャを筆頭に、リリスが、ゼノビアが、オディールが、さらに、ティンクとシラユリまでが、手を握りしめその瞳に闘志を燃やす。

「いいだろう。だが、先陣は私が切らせて貰うぞ」

 ゼノビアが颯爽と立ち上がり、

「ふん、夜の女神の名が伊達ではない事を教えて上げるわ」

 リリスが漆黒の大鎌を呼び出し、

「大人の階段をのぼるなら、お姉ちゃんと一緒がいいわよね」

 オディールは真紅の瞳を光らせながら、妖艶に唇を舐める。

「戦う時は今か。師匠……私の剣に足りないものはこれだったのですね」

 シラユリは刀の柄を握りしめ、

「私は挿し木の使命を帯びたイルミンスール。新たに根差す大地は既に見いだしています」

 ティンクが決意を胸に立ち上がった。

「よし、全員の腹は決まったみてーだな! なら、早速部屋に突撃すっぜ!!」

 サーシャはクラウチングスタートの体勢になる。タックルで扉を突き破る構えだ。

 ゼノビアはハンドサインで、全員に突入の合図を送る。

 各々は散開して扉の前に立ち、ゼノビアが指を三本立てた。

 三秒前、二、一、零――――

「っくぜっ!!」

 サーシャがドンッと廊下を踏み込むと、扉を破って部屋の中へ突入。

 ゼノビアが馬上突撃の如くサーシャを飛び越え、駆ける。

 シラユリがその後ろに続き、リリスとオディールは部屋に入った瞬間、角に移動して術を唱える。ティンクが扉の前に立って、出口をふさいだ。

 だが、突入した少女達が見たのは、気を失う戦乙女と、真っ赤に猛る赤狼の姿であった。

「がう!」 

 狼さんが新たな獲物に襲い掛かり、少女達の悲鳴が轟いた。



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